第21話 邪の剣
邪心解放 それは人間の内なる闇を引き出すことにより神に近い力が与えられる
ただ、長時間使いすぎると命にかかわるため現在は固く禁じられている
かの昔、邪の剣に魅せられた一人の青年が自ら命を絶ったという非常に残念な事件が起きた
その邪の剣は永遠の闇に葬られることになった
だが、今その邪の剣は俺たちの目の前にある
私はここにいるぞとばかりに、俺の持つ勇者の剣と共鳴している
あの事件から頑なに禁じられた秘儀を俺は目の当たりにしている
女性の姿は見る見るうちに変化していく
女性の体に刺さった剣が女性の体を侵食していく
邪の剣から黒い靄が出てきて、女性をあっという間に包み込んでいく
靄が女性の体全体を包み込み靄が晴れる
女性に特に変わった様子はない
「伏せろっ!」
白ベルが急に叫んだ
俺はとっさの判断で瞬時に伏せた
俺達の上をどす黒い色の液体が通り過ぎた
その液体は俺たちの背後に落下し、シュワシュワと音を立てながら地面を溶かしていた
思いもよらぬ攻撃に俺たちは改めて危険を感じた
「ははは! すごいわ! 頭がすっきりしてる! 日頃のストレスからようやく解放されたのね!」
女性はそう嘆いた
ギルドで多くの人を相手にしているギルド職員
それは毎日がいいことばかりなわけじゃない
理不尽に怒られること、無理難題を押し付けられたり俺よりも多くのストレスが溜まっているのだろう
そこを邪の剣に付け込まれた
邪の剣は人の弱いところを突き、体の内側から侵食していく
そうやって最期は人を死に追いやる恐ろしい剣だ
白ベルは女性を倒そうとしている
だが、もともと人間だった人を殺してしまうのはいくら白ベルといえども躊躇してしまうようだ
俺だって動くに動けない
どうすればいいか分からない
実を言えば、怖くて体が動かないのだ
「その人は人間じゃありません! 邪の剣に飲み込まれてしまった人を救うことはもうできません。 せめて苦しまないよう、楽に死なせてあげてください」
シスターが白ベルにそう叫んだ
その言葉に少し悩みつつも、白ベルは泣く泣く女性を斬った
「あっ……」
女性は小さな声でそう言った
白ベルに斬られたとき女性の目から一粒の涙が落ち、地面を濡らした
女性は涙と一緒に地面に消えていった
後には邪の剣のみが残された
俺はその残された剣を拾おうとしたが、何者かによって横取りされた
そいつは勇者の剣の鞘を盗った人と同じ服装をしていた
「あっ! こいつ――」
俺がすかさず取り返そうとするが、先に白ベルが自らの剣を振っていた
だが、男にその剣は片手で止められた
白ベルもまさか自分の剣が片手で止められるなんて思ってもなかっただろう
「この剣は我々がいただいていく。 決して詮索しようとするな。 我々はお前たちのことをいつも見ているからな」
「ま、待てっ!」
白ベルが慌てて追うが煙幕を使われ視界が遮られた
煙幕が晴れた後、そこにはもう誰も居なかった
その後は大変だった
邪の剣がなくなったからと言って、騒動が収まったわけではなかった
いまだ混乱状態にある他の住民たちをシスターが一人一人治療していった
一人で抱え込むなと白ベルが言うが、シスターは
「……全部私が原因なんです。 だから私にやらせてください」
と、手伝うのをかたくなに拒否した
何をそんなに負い目を感じているのだろうか
むしろ、俺のほうが負い目を感じないといけないほうだ
俺は苦しんでいる人を前にして何も出来なかった
俺はとんでもなく無力だ
こんな俺が勇者と名乗ってもいいののだろうか
どんどんネガティブな方に考えてしまう
俺の昔からの悪い癖だ
「あ、あのー 俺、もっと強くなりたいんです! 苦しんでいる人を目の前にして何も出来ないなんて嫌です! 今初めて分かりました」
俺は柄にもなく声を荒らげて白ベルに告げた
「そうは言ってもお前はまだ一人前の勇者な訳じゃないのだからそう思うのも仕方ないだろう。 だがそう考え詰めるのもどうかと思うがな」
白ベルは俺に冷たく言った
それでも俺は自分の意思を白ベルに伝えた
ここへ来る前の自分はそうだった
何かやろうとはするがいつも後回しになって結局出来なくなる
そうなるくらいなら、思い立ったが吉日 早めに行動する方がいいと今更思うようになった
もう少しそう思い立つのが早ければもっと違う選択肢があったかもしれない
だが、今の俺にはそんなことしか思い浮かばない
「うーん⋯⋯ そうは言ってもだなぁ」
「なら、エルフの街に行ってみてはいかがですか?」
ゔ⋯⋯ エルフの街⋯⋯ 頭が痛い
「なるほど、エルフの街に行けばあれが覚えられるな。 あれが使いこなせればいい戦力になる」
エルフの街に行かそうとしてるのはわかるが、白ベルの言う (あれ) が分からない
捕まって
「ああ、あれならユウ様がもっと活躍できること間違いないだろう」
メランまで……
俺だけ何の話をしているのかわからない
なんか嫌な感じ
「魔法だ。 魔法といえばエルフに教えてもらうのが一番だろう。 エルフは代々魔法を使いこなしている唯一の人種だ。 エルフに教えてもらえればすぐに上達すること間違いないだろう」
あ、なるほどね
確かにエルフ=魔法ってところもあるからな
エルフに教えてもらえるのはいいが、俺は男だから入ったらすぐに捕まって奴隷に逆戻りだ
そんなこと死んでもごめんだ
「なら、女装すればいいじゃない」
シスターがそう言った
俺の聞き間違えじゃなければ確かにそう言った
女装だって?
そこまでして覚える価値があるのか?
「覚えて損はないと思うぞ? 魔法は色んな所で使える。 例えばこれから強敵と戦う時もあるだろう。その勇者の剣だけじゃ勝てない敵も後々は出てくる。 それが勇者だからな。 そんな時に魔法が使えたらどらだけ便利だろうか!!」
白ベルはぺらぺらとしゃべり続けている
魔法のことがよほど好きなのだろう
「それに、勇者様は失礼ですけどそこまで男らしい顔じゃないですからきっと大丈夫ですよ」
シスターにさらなる追い打ちをかけられた
こうなったら仕方ない
覚悟を決めよう
こうして俺はシスターによっていろんな服を着させられた
フリフリのロリータ服やら超短いショートスカートなどなど……
シスターが解放してくれるまでに五時間かかった
俺は化粧までシスターに仕上げてもらい、近くで見ても男だとわからないくらいのクオリティに仕上げてもらった
こんなところに力入れなくてもいいのに
女装した俺は白ベルが選んだ新人騎士(もちろんシスターによって女装済み)と一緒にエルフの街へ、また行くことになった
こんなところカルディアに見つかったらどうしよう……
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