第1話 転生しました
今回から物語が始まります
どうぞお楽しみください
銀行強盗に殺された俺は、気が付くと見知らぬ場所にいた
周りは見たこともない植物たちに囲まれている
やたらとキラキラしている植物が目につく
ここがどこだが、全くもって検討がつかない
ただ俺の目の前には、スケスケの透明な衣服を身にまとった女性がいるのみだった
見えそうで見えない、絶妙なラインだ
その女性は、ゆっくりと俺に近づいて来た
これでも見えないか
俺は思わず身構える
「心配しなくても、とって食べたりしないから安心して。 私はカロス。 この世で一番美しい女神と覚えなさい!」
カロスと言った女神は、クルンと一回転してからそう告げた
自分で言ってて恥ずかしくないのかと、俺は思った
「あなたは死にました! なので私が第二の人生を送る権利を与えるわ!」
何この上から目線……
めちゃくちゃ嫌なんだけど
てか、展開早過ぎない?
人一人死んだって言うのにアッサリしすぎだろ!
ま、俺も人のこと言えないが
「とりあえず、言語習得は最優先でチートは…… めんどくさいからなしでいいや。 あとは…… こんなもんか」
カロスは一人でブツブツと言っている
何が何だかさっぱり分からない
「あ、あのー ちょっと何言っているのか理解出来てないんですけど……」
俺はカロスに言った
しかし、カロスはガン無視
これはひどい
泣きそうになってくる
「よしっ! 準備はできた! じゃ、異世界に送るからそこの魔法陣の上に乗って」
カロスは自ら出した魔法陣を指さし言った
俺を置いて勝手に話が進んでいく
一応聞くけど、これって俺のこれからについての話だよね?
俺の意見を無視して進めていい話なのか?
「ほーら、早く乗って」
カロスに背中を押され、急かされる
まじか! 何も知らないままどこへ連れて行かれるっていうんだ!?
「ちょっと待ったー!!」
そんな時、上から叫び声に似たような声が聞こえた
俺は上を向いた
そこには、カロスと似たような透明な服を着た女性が浮いていた
今度はバッチリ見えました 白です 綺麗な純白でした
カロスよりも何千倍、いや何億倍も可愛い
可愛い女性は トンッ と静かに地面に降りてからカロスに言う
「ちょっと、カロス先輩! 転生者を放って置いて話を進めるなって、あれほど上から言われてたじゃないですか! それで何人の転生者を困らせてきたんですか?」
先輩?
ということは、この可愛い女性がカロスの後輩ってことか
「そうは言うけどね、私にだってやることがあるのよ! あなたみたいに暇してる訳にはいかないわけ! クールにそしてスピーディに が私のモットーよ!」
再び置いてけぼりを食らった
だが、俺の目の前で美女が言い争いをしているのを見るのも、なかなか乙なものである
「ふん! そんなに言うなら、エウカリスがしたらいいじゃないの! それで私は私で他のことができるし、エウカリスはエウカリスで、上から怒られずに済むじゃない! なんて天才な私の頭! やっぱりモテる女は違うわー」
エウカリスと呼ばれた女性のきれいなおでこに、青筋が浮かんだのを俺は見逃さなかった
そう言ったカロスは、手をヒラヒラと振りながら鼻歌交じりに上に登っていった
エウカリスは、はぁぁ と大きなため息をつき
「なんかすみませんね、ごちゃごちゃしてて」
優しく、それでいて可愛い
悪いところが一切見当たらない
完璧だと言わざるを得なかった
「改めまして、私はエウカリスと申します。 先程の女神は、カロスと言って私の先輩女神なんです」
うん、見ていればわかる
でも、あのカロスとかいう女神より全然可愛いし仕事もできそうだぞ
「あなたは、銀行強盗に撃たれ亡くなりました。 あなたは女子高生を守るために、自ら身代わりとなったのですね」
そうだ
そういえば、俺が死んだ後どうなったんだろうか
確かパトカーのサイレンが聞こえた気がするんだが
「安心してください。 あの後、警察が来て銀行強盗は逮捕されました。 幸いにもあなた以外の犠牲者は出ていません」
その言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろした
警察が来たから皆殺しだ! とか言わなくてほんと良かった
「自らを犠牲にしてまでも救うその勇気、私感動しました! そんな優しいあなたには、『女神の恩恵』を差し上げます。 神則によって詳しくは言えませんが、この能力はきっとあなたを守ってくれますので、安心してください」
エウカリスは俺に両手を向けた
俺の体に何かが入っていく感じがした
不思議と嫌な感じはしなかった
てか きっと って……
もうちょっと詳しく教えてくれてもいいのに
そんなことは知らない(振りをしているのか分からない)エウカリスは、さらに続ける
「さて、星宮勇様。あなたは転生者に選ばれました。あなたがこれから行く異世界 アペイロン は魔物も滅多に現れず、平和そのものだと言えるでしょう。 そこで、あなたは異世界での生活をゆっくりのんびり楽しんでください。あなたにはその権利があります」
い、異世界だって!? 夢にまで見た異世界に行ける日が来るとは……
だけど、要はスローライフってことか
まぁ、これまでバイトやバイトで忙しかったから休む暇がなかった、かもしれない
ここらでゆっくりさせてもらっても、誰も文句は言えまい
「ただ、一つだけ条件というか制約がありまして。 あなたがこれから暮らす街には、一際目立つ大きな森があるんです。 その中には絶対に入らないでくださいね! 絶対にですよ!」
エウカリスが身を乗り出して言った
エウカリスの顔が近い
それにどこかいい匂いがする
これまで、女の子と関わることがほとんどなかった恋愛弱者の俺には刺激が強すぎる
身を乗り出してまで言うことだから、余程大事な事なのだろう
覚えておこう
「それでは、長らくお待たせ致しました! 転生の準備が整いましたので、あなたを異世界 アペイロン へとお送りします! どうか楽しい人生をお送りください!」
俺はエウカリスが作った魔法陣の上に乗った
乗ったのを確認したエウカリスが、パチンと指を鳴らす
魔法陣が光り出し、俺の体は宙へ浮き、上へ上がっていった
異世界か! 楽しみだな!
この時の俺はまだ知らなかった
これが事の始まりだということには……
ユウが異世界へ行ったあと、カロスが髪をボサボサにして戻ってきた
「何かあったのですか? そんなに急いで?」
「あいつは、行ったのか?」
「あいつ? ああ、ユウさんのことですか。 ええ、さっき私が異世界に送りました」
エウカリスがそう言うと、カロスはチッと舌打ちをした
「遅かったか……」
「一体何があったのですか?」
「あれの封印が解けた」
カロスはエウカリスを見つめて言った
それを聞いたエウカリスは、驚愕した
あれが世に出てしまえば、ユウが過ごす街も危なくなるだろう
エウカリスは慌てて転生の儀式を中断しようとしたが、もう遅い
ユウは異世界 アペイロンに行った後だった
エウカリスは、やってしまったとばかりに酷く落ち込んだ
「え、えーと 私は転生の儀式に参加してないからね! 責任はあんたが背負うのよー!」
カロスはそう言い残して、去っていった
なんて先輩だ
エウカリスは
「そ、そんなあ~! ユウちゃーん! カムバーック!」
と言うが、それは虚しく空に消えるのみだった
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