第18話 洞穴探索
イリニ先輩が魔法で辺りを照らしてくれていて、明るさには困らなかった
俺達は、この先何があるかわからないため慎重に慎重を重ねながら先へ進んだ
洞穴の中もやはり魔物が多数いた
洞穴前にいた魔物の数よりかははるかに少ないが、それでも進むのに邪魔になってくる
「はっ!!」
イリニ先輩が道をふさぐ魔物を一気に切り裂き、道を作ってくれる
本当にイリニ先輩 様様だな
イリニ先輩ばかり活躍していて、俺も加勢しようとしたが厳しく咎められた
どうやら俺の持つ勇者の剣では威力が強すぎて、下手をすると洞穴が崩れ落ちる可能性があるとのことだった
確かに、言われてみれば初めて使ったときはあまりの威力に度肝を抜かれそうになった
先へ進むにつれて、魔物の数もだいぶ減ってきた
しかし、それよりも道のあちこちに人の骨に見えるものや血の跡が残っていた
ここで多くの人が犠牲になったのだろう
「この先から危険な気配がする。 気を緩めないように」
イリニ先輩が俺たちにくぎを刺してきた
心配しなくとも、こんな気味悪い場所にいたらいやでも気を付けますよ
やがて、俺達は広く開けた場所に出た
メランが大きく伸びをした
長く狭い場所にいたからだろうか
もともと大きいドラゴン族にとってはさぞ窮屈だっただろう
そして俺たちは嫌なものを発見してしまった
そう、いかにも強そうな魔物だ
イリニ先輩とメランが小刻みに震えている
二人はあの魔物のこと知っているのだろうか
その魔物は俺達よりもはるかに大きく、バカでかいビール腹を一定のリズムで上下させ、これまた大きないびきをかいて眠っていた
その魔物の後ろ側にもまだ道が続いているようだ
なるべく無駄な争いは極力避けたいためか 関わってはいけないタイプの魔物なのかは定かではないが、イリニ先輩はその魔物を起こさないようにと言った
メランも静かに頷いた
俺達は立てる音を最小限にしつつ先を急いだ
しかし、そこで事件が起こった
メランの顔の近くで、どこから飛んできたのか一匹の虫がプーンと羽ばたいた
メランは今にもくしゃみを出しそうな顔をしている
これは危ないと思った俺は、とっさにメランの口元を抑えた
だが、メランはドラゴン族最強の黒龍
俺みたいな平凡な一般人が黒龍のくしゃみを止められるはずもなく
「ぶわーーくしょん!!!」
メランのくしゃみと一緒に俺は壁にたたきつけられた
こ、これがドラゴン族最強のくしゃみか……
案の定、大きな魔物は目を覚ましてしまった
「うおおおおおおおおおおおおん!!」
メランのくしゃみと同じくらいの声量で魔物は吠えた
こうなってしまったら戦うしか選択肢はない
俺達は覚悟を決めた
「信じられない。 こんなところにこいつがいるはずがないんだ」
イリニ先輩がブツブツつぶやいている
やはり魔物のことを知っていたようだ
「こいつはここにいてはいけない魔物だ。 なぜ貴様がここにいる!!」
イリニ先輩が珍しく声を荒げて魔物を問い詰める
「簡単なことだ、ヘレス様が目覚めたからに決まってるだろ」
魔物は確かにそういった
ヘレス? 一体何のことを言っているんだ?
俺だけが話についていけていない
そんなことを考えているうちに、イリニ先輩は魔物に剣先を向けていた
メランも臨戦態勢に入っている
何にもわからない俺も慌てて戦闘準備をする
イリニ先輩がいつもの冷静さを失っている
それだけこの魔物は危ないということか
まずはイリニ先輩が先陣を切って魔物に特攻した
魔物は避けるでも反撃するでもなく、ただひたすらイリニ先輩の攻撃を受け続けている
なぜだ? なぜ攻撃してこない?
こいつは一体何を考えているんだ?
ど素人の俺には何一つわからない
何をすればいいか迷っているうちに、魔物が急に片膝をついた
ダメージは食らっているようだが、どこかおかしい
イリニ先輩とメランも同じように不思議に思っているようだ
「さすが白騎士団の幹部といったところか。 どこを斬れば相手に効率よくダメージを与えられるかが、よくわかっている」
急に褒めだした
ほんと何なんだ? この魔物は一体何が目的なんだ?
「だが、俺の本気はこれからだぞ? さあ、いつまで俺を楽しませてくれるかなあ!!」
魔物がもう一度咆哮した
その咆哮により魔物の体がみるみるうちにおおきくなっていく
さっきとは比べ物にならないくらいの大きさにまで成長した
まるでここからが本番だというかのように
「これもヘレスの力だというのか」
「さすが白騎士団は優秀だな。 ヘレス様は偉大なお方! 魔王亡き今、この魔物界のトップになるお方だ! そのお方から授かった力、存分に発揮させてもらおうではないか!」
その魔王倒したの俺なんだけど……
まあ、そんなことはさておき
このバカでかい魔物を倒さないと先へは進めない
イリニ先輩が攻撃を続けているが、今度は全く効いている感じがしない
ものすごい速さで魔物に攻撃を仕掛けているが、魔物は蚊にでも刺されたかのような表情をしていた
イリニ先輩が持つ剣が悪いのか、それともこの魔物が単純に強すぎるのか
今のところは分からない
「この剣ではこいつは倒せないのかもしれない。 ユウ! 君の剣をこっちにくれないか?」
イリニ先輩も同じことを考えていたようで、俺は迷わず渡した
だが、勇者の剣がイリニ先輩のもとに渡ることはなかった
何か不思議な力が働いて、どうやっても俺のもとへ帰ってきてしまう
この剣はどうやら勇者として選ばれた人にしか使えないのかもしれない
「くっ!! 仕方ない、ユウ! 君があいつをやるんだ! 君のその剣でしかあいつに致命傷を与えることができない!」
お、俺が!?
まあ、俺しかいないのか
「私とドラゴン少女が隙を作る。 その隙を狙って攻撃してくれ。 おそらくチャンスは一度きりだろう。 君に私たちの命がかかっているんだ」
せ、責任重大!?
プレッシャーでしかない
だが、ここでやらねば男じゃねえ!
「ユウ様! 任せたぞ!」
イリニ先輩とメランが魔物に突っ込んでいく
大して効いていないがそれでも負けじと攻撃を続ける
足元を狙っていたイリニ先輩のおかげか、魔物のバランスが崩れた
「いまだ!」
イリニ先輩の合図で俺は飛び出した
「うおおおおおおおおおお!!!」
俺は魔物に向けて力いっぱい勇者の剣を振り下ろした
キイイイイイイイン!! ガンッ
斬れた感触はあった
だが、実際はどうか見ないとわからない
「ヘレス様にもらった力をもってしても聖剣には敵わないというのか。 まあいい なんていったって、ヘレス様は永遠に不滅なのだからな! フハハハハハ!」
そう言い捨て、魔物は散っていった
魔物が放った言葉に、イリニ先輩は苦い顔をしていた
「先へ進もう」
イリニ先輩は短くそういった
聞きたいことが山のようにあったが、到底聞ける感じではなさそうだ
それから突き当りまで進んだが、特に宝箱があるわけでもなく何ならカルディアも居なかった
俺達はもと来た道を戻り、一旦白騎士団の本部へ戻ることにした
一体カルディアはどこまで流されたんだ?
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