第17話 皆バラバラになりました
イリニ先輩に案内された酒場は昼前だからだろうか
多くの人でにぎわっていた
男同士で酒を飲み交わしていたり、女性同士で騒いでいたり皆自由だった
俺達も適当な場所に座り、注文することにした
「俺のおごりだから、好きなものを食べるといい」
イリニ先輩がそう言った
とは言われたものの、神の恩恵とやらで文字は読めるがどんな料理が出て来るのかわからない
メランやカルディアはもう決まったらしく、二人仲良く話している
ええい、こうなったらやたら目立つように書いてあるやつにしよう
俺がその注文をしたとき、メランとカルディアが驚いた顔をしていた
なんかやばいものでも頼んでしまっただろうか
それから、俺以外の料理がテーブルに並べられた
なんで俺のだけ遅いんだ?
嫌な予感しかしない
みんなが食べ終わったころにようやく
「お、お待たせしましたああ!」
と、店員が申し訳なさそうに持ってきたのは……
「うっ……!!」
きれいな焼き色だがそれ以上のインパクトがある
俺の目の前に置いてある皿には、何のかはわからないが頭がドンッと乗っていた
それも首から下がそのまんま切り離されて、丸々乗っていた
見た目からすると、ワニに近い感じだが鼻が豚の鼻そっくりだ
極めつけに、頭から長い耳まで生えている
てか、なんなんだよこの匂い
頭が痛くなってくる
「こ、これって何の魔物ですか?」
俺は鼻をつまみながら、そそくさと帰ろうとしていた店員に聞いた
「え、えっとお、本日の店長のおすすめです」
店員の女の子が静かに言った
それも少しおびえ気味に
そもそも答えになってないし
「それは、アリピッドという魔物の一種だ。 家畜として飼われてはいるが、匂いがすごく住民からは嫌われている。 だが食用としてはものすごい美味らしく、一口食べれば医者いらずとまで言われている珍味だ」
イリニ先輩が解説してくれた
ということは、これだけ来るのが遅い理由は――
「は、はあ あまりの匂いに料理長が倒れてしまって……」
そんな料理出すのやめてしまえ!
人体に影響を及ぼす料理なんか食べたくないわ!
てか、店長もそんな料理 客に勧めるなよ
とにかく、やっと料理が食べられるわけだが
うーん 食べる気が失せてしまった
「シッ! 静かに!」
イリニ先輩が急に言った
この感じ、まさか……
メランも何かに感づいたようだ
ドドドドドドドドドド!!!
バカでかい音が鳴り響いた
酒場に向かって音は近づいてくる
次の瞬間
グギャワグギグギャワグギャアアアアアア!!!!
酒場に魔物の群れが突然乗り込んできた
魔物たちはみんな、どこかおびえた表情をしているように見えた
何かから逃げているようにも見える
魔物たちが怖がる何かが現れたのだろうか
「うわああーー!! ヘルパトウだああ!!」
ヘルパ、なんだって?
「ヘルパトウだ。 定期的に起こる魔物の大行進のことをそう呼んでる。 だけどおかしいなあ、この時期にはまだ来ないはずなんだけども」
って、冷静に解説してる場合じゃないでしょ!
「ユウさーーーん!!」
カルディアが俺達と離れ離れになってしまった
助けようとしたが、あと少しのところで手をつかみ損ねてしまった
いつの間にかイリニ先輩ともはぐれてしまい、気が付くとバラバラになってしまっていた
「二人きりになってしまったな……」
俺はメランと二人きりになってしまった
何とかして、イリニ先輩とカルディアと合流しないと!
「とにかく出よう。 ここに長くいても迷惑になるだけだろうし」
ヘルパトウのせいで店の中はぐちゃぐちゃになっていた
魔物のせいだとしても、いい迷惑だ
俺達はヘルパトウの向かった先へ行ってみたが、もうヘルパトウはどこへ行ったか分からなくなっていた
仕方ない、ヘルパトウがどこに行ったか知っていないか聞いてみるしかないか
ちょうど近くにいたおばさんに尋ねてみることにした
「いんやぁ―! たまげたなぁ! さっきここをヘルパトウがすごい勢いで通って行ったんだべさ」
「それからどっちに向かっていったか分かります?」
「そうだなあ 確かあっちのほうへ行ったような……」
そう言って、おばさんは右のほうを指さした
ここでメランの千里眼の出番だ
「合点! この我に任せておくといい!」
だから、合点って古いんだって
ま、それはともかく
これでカルディアとイリニ先輩と合流できるはず
「ふーむ…… いるのはいるのだが一人分の気配しかない」
一人ということは、カルディアかイリニ先輩のどちらかしかいないってことか
一人は無事だということが分かっただけでも良かった
「歩いても行ける距離だが ユウ様、どうするのだ?」
「メランが大丈夫なら飛んで探したほうが早いだろう。 行けるかメラン?」
「もちろんだとも!」
メランは物陰でドラゴンの姿になる
あまり目立つのは嫌だが、緊急事態だ
仕方がない ここは我慢しよう
ドラゴン化したメランに乗って、俺は二人を探し回った
しばらく空を飛び回っていると、イリニ先輩を見つけた
イリニ先輩は魔物と戦っていた
周りにたくさんの魔物の死体が転がっている
一人でここまで倒したとなれば、ものすごい体力だ
「先輩! 大丈夫ですか?」
「おお、無事だったか!」
魔物を倒した後とは思えない呼吸だ
全くと言っていいほど息切れをしていない
なんて耐久力だ
「我も参加するぞ!」
俺とメランが助太刀に入る
だが、いくら倒してもきりがない
イリニ先輩はまだまだ余裕そうだが、いずれ数に押されてやられる可能性だってある
ここはどうにかしないと
あんなところに洞穴がある!
一旦あそこに隠れてやり過ごすという手もある、いやそれしかない!
「イリニ先輩! あそこの洞穴が見えますか! あの中で体制を整えませんか?」
俺はそう提案した
乗ってくれるかどうか半信半疑だったが、意外にもすんなり乗ってくれたことに少し驚いた
「そうだな、ここは一時撤退したほうが良さそうだ」
俺は進路を切り開くために、勇者の剣を大きく振り下ろした
その衝撃で魔物たちが次々と散っていくのが見えた
なんだか可哀そうにも見えたが、これは仕方ないことだ
俺達は急いで洞穴の中へ滑り込んだ
イリニ先輩が入り口を魔法でふさいでくれていた
これでひとまずは安心だろう
「いやあ、全くとんだ災難だったよ。 まさかモンスタートラップなどという初歩的な罠に引っかかってしまうだなんて」
話を聞くところによると、一時は魔物を斬りながらヘルパトウを脱出した
だが、足元にモンスタートラップ用の魔法陣があるのに気づかずそのままハマってしまったらしい
「かれこれ二、三時間戦ってたのかな……」
二、三時間も!?
それにしては全然息切れしてないけれども
やっぱり強い人は体力から違うんだ
「ん? この洞穴、奥に続いてるみたいですよ?」
洞穴の奥は暗すぎてよく見えないが、入り口から出られない以上奥に進むしかない
「くれぐれも気を抜くなよ。 この中に入っていく足跡はいくつか見えるが、出てくる足跡がない。 中で何かが起こっているのかもしれない」
俺達は今一度気合を入れなおして、洞穴の奥へと進んでいった
もしかするとこの足跡がカルディアのかもしれない
そんな淡い期待を胸に、俺は洞穴へと足を踏み入れた
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