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第16話 パトロールの日

翌日、イリニ先輩に起こされ、朝早くからパトロールに駆り出された

ちなみにイリニ先輩は、白騎士団の幹部らしく結構強いらしい

いつも笑顔だが、それが一番怖いと裏では噂されている

それに、めったに怒らないときた 

しかも、剣の腕前も強いらしい

能ある鷹は爪を隠すとはまさにこのことではないだろうか


そんなイリニ先輩に言われるがままに、パトロールを進めていた

そんな時だった


「だ、だれかーー!!」


突然叫び声が聞こえた

俺たちはイリニ先輩の後に続く

そこには大きなしりもちをついた老婦人がいた

話を聞いたところ、どうやら家畜として飼っていた魔物が急に暴れだし逃げ出したのだとか


「ふむぅ……」


イリニ先輩が静かにうなった


「どうかしたんですか?」


俺はイリニ先輩に聞いた


「いやあ、最近多いんだよ。 家畜の魔物が狂暴化して暴れ回るってことが」


何と…… 俺の知らないところでそんなことが起きていたのか


「とにかくいち早く探さないとけが人が出るかもしれない。 手分けして探すよ!」


メランは空から、俺とカルデイアとイリニ先輩で探すことになった

三人で探していると、俺の目の前を一匹の牛らしき生き物がものすごいスピードで走っていった


俺とカルディアは、あまりの速さに呆然としていたがイリニ先輩は違った

イリニ先輩は、我先にと家畜に負けず劣らずのスピードで追いかけていった

なんて速さだ 素人の俺達には到底追いつけない


しばらくして、イリニ先輩は自分より二回りほど大きい牛のような生き物を抱えて戻ってきた

なんだかんだ言ってこの人、実はめちゃくちゃ強いんじゃ……


ドンッ!


大きな音を立てて牛もどきは地面に落ちた

えっと、一応人の所有物なんだから少しは大事に扱ってもいいのでは?


「捕まえはしたがこれで終わりじゃない。 むしろここからが本番といってもいいくらい大事なことだ。

見てよく覚えておくように」


そういうとイリニ先輩は、自分が持つ剣に魔法らしきものを付与した


「これをしておかないと、家畜に傷がついてしまう。 そうならないようにするための魔法だ」


なるほどねえ でもそこまでわかっているならもっといい対応ができる気がするんだけども……

と、考えているとイリニ先輩が俺に向かって手を差し出してきた

こんなところで握手とかどういうつもりかと思ったが、俺の勘違いだった

イリニ先輩は、俺の勇者の剣にも魔法を付与するから剣を抜けという意味だったよう


俺は慌てて腰から剣を抜き、イリニ先輩に見せる

俺達を見る表情がどこまでも笑顔なのが逆に怖い


「……よし、これでこいつを斬ってみろ」


魔法を付与したイリニ先輩はそう言った

本当に大丈夫なのか、この目で見ていないから少し心配になる

カルディアも俺を心配そうな顔で見つめてくる

それでも俺はイリニ先輩を信用して、大きく勇者の剣を振り下ろした


「くっ……」


ん? 家畜からは聞こえない声がしたような……

しかし、イリニ先輩には何も聞こえていないようだった

俺の気のせいか


斬った瞬間、家畜の中から黒い靄が飛び出していくのが見えた

その靄は、イリニ先輩にも見えていたようで急いで捕まえようとしたがすぐに消えてしまった


「ちっ! 今回も逃がしたか」


イリニ先輩は悔しそうに言った

今回も ということは前も逃がしたってことか

イリニ先輩でも捕まえられないんだから、俺達に捕まえられるわけがない

あの黒い靄が何なのかは知らないけども、あれの正体が分かれば真実に一歩近づくのかもしれない


「イリニ先輩! 危ないっ!!」


俺はとっさにそう言った

イリニ先輩の後ろから、また狂暴化した家畜が向かってきているからだ

しかし、そんな俺の心配は杞憂に終わった


イリニ先輩は後ろを一度も見ずに、襲ってきた家畜を止めた

今度は逃がさないと家畜の首根っこをがっちりとつかむ

だが、あの黒い靄は何事もなかったかのように後ろからスーッと逃げて行った


「…………」


イリニ先輩がイラついているのが分かる

体を小刻みにプルプル震わせている


「はあああああ……」


イリニ先輩が大きくため息をつく

諦めがついたみたいだ


「とりあえず報告に行こう。 まずは依頼人を安心させないと」


こんな状況でも落ち着ける

さすが騎士といったところか


依頼人の老婦人はもともといた場所に座って待っていた

イリニ先輩が家畜の魔物を老婦人に返す


「これはこれは、騎士様や。 ありがとうございます」


そう言って老婦人は頭を下げた

そして立ち上がり、傍らに置いていた果物の入った小さなかごを俺たちに渡してきた


「これは、ほんのお礼です。 どうか受け取ってください」


そう言われ、俺が果物かごを受け取ろうとしたとき

イリニ先輩が動いた

イリニ先輩は老婦人に自分の剣先を向けていた


「イリニ先輩!?」


俺はあまりにばかげた行動に驚愕した

カルディアも同じような顔をしている

メランだけは何か知っているような感じだが、聞いている余裕がない


「お前は何者だ」


イリニ先輩は老婦人に尋ねた

言われた本人はじっと黙って立っている

笑顔のままなのが怖い


「もう一度だけ聞く。 お前は何者だ」


イリニ先輩が再度尋ねる

その瞬間、老婦人の体から黒い人影が出てきた

その人影は、こちらを見向きもしないで走り去る


「くっ!! 逃がすか!」


体から人影が出てきた老婦人は足から崩れ落ちた

間一髪のところで、老婦人にけがはなかった

だけど、今の人影は何だったんだろう……


しばらくして、イリニ先輩が戻ってきた


「あと少しのところで人ごみに紛れて消えてしまった」


ああ…… それは仕方ない


「んんん?」


あの後、気を失っていた老婦人が目を覚ました


「ご婦人、体にどこか異常があったりはしませんか?」


イリニ先輩が優しく聞いた


「ふむぅ、特に変わった様子はないようじゃが。 それよりなんだがいつもより動きやすい感じがするわい」


それ、本当に大丈夫なのか?

逆に心配になるレベルの話だぞ


「そうですか、ですが一応救護係に診てもらったほうが――」


「なあに、心配せんとも私はこれまで一回も医者にかかったことがない。 だから心配するだけ無駄じゃということじゃ」


「は、はあ」


そう言って老婦人は、軽い足取りで去っていった

イリニ先輩はピュイーっと指笛を吹いた

すると、空から一羽の白い鳥がイリニ先輩のもとへ降りてきた

イリニ先輩ササっと何かを書き込んで、鳥の足に括り付けた


「しっかり届けてくれよ」


イリニ先輩はそう言って、鳥を空へ放った

白い鳥は真っ直ぐに飛んで行った

どこへ飛ばしたのだろうか


「さ、いろいろあったがパトロール再開と行くか」


イリニ先輩がパンっと手をたたいて、空気を変えるように言った

その時


ぐきゅるるるーーー


カルディアのおなかが鳴った

カルディアは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている

そんな姿もかわいい


「そうだな。 ここで昼休憩でも入れるか」


イリニ先輩は近くの酒場に俺たちを案内してくれた

その様子を、シスターが物陰から眺めていた

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