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第9話 事件が起こりました

 勇者の剣の鞘作りに必要な素材(虹鉱石)を持って帰ってきた俺達を見て、ソンチョさんとドワーフの子も驚いていた

 

「これはこれは、勇者様に不躾に頼んだ上素材まできちんと持って帰ってきてくれるとは!  なんと心優しきお方!  このソンチョ、誠心誠意全力を込めて勇者の剣にふさわしい鞘を作ってみせましょう!」

 

 これまでにないくらい褒められた

 もう一生分くらい褒められたんじゃないだろうか

 

「ただですね、一つ問題がございまして。 勇者の剣自体が珍しいものであり、作成に一ヶ月ほど時間を頂戴致します。 い、いえ 急いでいるのなら飲まず食わず不眠不休で働かせていただきますが」

 

 いやいやいや!  別にそこまでしてもらう義理はないから

 ちゃんとご飯も食べて、睡眠もたっぷりとってください

 ゆっくりでいいんで、無理しないでください と俺は心の中で思った

 だって口に出したら


「おお!  なんと心優しき勇者様! 不躾なお願いまでしたうえ我々の健康まで気を使ってくれるとは!」


 って言われた挙句、だらだらと話し続けるに決まってるじゃんか! 

 だから俺はあえて言わない

 

 特に急ぎの用もないし、ドワーフの村でゆっくりと過ごさせてもらおうか

 

 初めて会ったドワーフは、ナノスというらしい

 どうやらソンチョさんの孫のようだ

 あの言い合いもソンチョさんのことを思っての事だったのか

 

「あー!  ナノスだ!  ナノス兄ちゃん、遊んでよー」


「ナノス兄ちゃん!  鉄の打ち方教えてー」

 

 え?  鉄の打ち方って言った?

 このドワーフの村では、小さい頃から鉄の打ち方を教えてるの?

 どおりでこの村が鉄くさくなるわけだ

 

「ごめんなー、兄ちゃん今日は忙しいんだ。 また明日にしてくれないか?」

 

「「えーーー」」

 

 でしょうね

 だって兄ちゃんって呼ばれてるくらいなんだから、それだけ信頼されてるよね

 

「だったら、そこの兄ちゃん達でいいや」

 

 おい、達で(・・)ってなんだ

 鉄の打ち方よりも一般常識的な言い方を教えてあげてくれ

 

「おしりブスッ〜!」

 

 カハッ!

 お尻にかんちょうされた

 めちゃくちゃ痛いんだが?

 

「やったなー?」

 

 俺の反応を見て、子供たちがキャッキャと笑っている

 ま、子供がしたことだ

 今回は大目に見てあげよう

 

 ナノスは忙しいらしいし子供と一緒になって遊ぶのも久しぶりにいいかもしれないな

 俺とカルディア、そしてメランは勇者の剣の鞘が出来上がるまで子供たちと一緒に遊んであげることにした



「ようやく解放された……」


 一通り遊んで疲れた

 カルディアもメランも肩で息をしている

 子供達に振り回されたのだろう

 

「ああ、ありがとうございます。 子供達と遊んでくれて。 僕も鍛冶を覚えるのが精一杯で、あんまり構ってあげられてないんですよ」

 

 なるほどな

 それで子供達はあんなにはしゃいでいたのか

 

「今日は僕の部屋を貸しますから、ゆっくり休んでください」

 

 いいのか?

 一ヶ月も間が空いていて、どうしようかと思ってたところなんだ

 

 こうして俺達は、勇者の剣の鞘ができるまで子供達の遊び相手になったり、村人達の手伝いをしたりして過ごした

 村の子供たちともだいぶ仲良くなれただろう

 その繰り返しをだいたい三十回ほどしたある日、事件は起きた

 

 あっという間に一ヶ月経ち、勇者の剣の鞘を受け取りにソンチョの元に向かう

 

「はあああああああ……」

 

 え、なんかすごい落ち込んでんだけど

 吹奏楽部もびっくりなくらいのロングトーンで、ソンチョがため息をついていた

 何かあったのか?

 

「ああ、勇者様ですか。 言い訳になってしまうんですが聞いていただけますか?」

 

 聞くだけなら、ね

 

「勇者の剣の鞘は、昨日の夜に出来上がりました。 そして今日の朝、勇者様にお渡ししようと思ってたんです。 ですが、朝起きて確認すると無くなっていたんですぅ!」

 

 な、何だって!?

 誰かに盗られたのか?

 

「この村の村人ではないはずです。 なぜなら、この村で勇者の剣の鞘を作っているのを知っているのは私とナノスとあなた方だけですから。 ナノスは盗る理由もありませんし、外から誰か入ってきて盗ったのでは無いかと思うわけです」

 

 え?  なんかミステリーっぽくなってきたんだけど

 

「なるほど、つまりソンチョさんは外部の犯行だと考えるんですね」

 

 おいおい、カルディアもなに探偵みたいなことしてんだよ

 

「盗った犯人なら我に任せてくれ」

 

 そんな中、メランが意気揚々と言った

 そうか、メランならドラゴンの姿で空を飛んで見回ることができる

 なんていい考えなんだ!

 

「いや、千里眼で半径1kmの範囲なら何がどこにあるか分かるぞ?」

 

 せ、千里眼!?

 なんて便利なものを!

 

「で、犯人はどこにいるんだ?」

 

 メランが目をつむり、額に手を当てて考えている


「えっと、あ!  いたぞ!  気配を消す魔法を使っているな!」

 

 また魔法か……

 俺、よく知らないんだよな

 

「問題ない。 魔法を使っていても、ドラゴン族最強の我にかかれば、赤子の手をひねるようなものだ」

 

 それなら安心だ

 メランは物陰で服を脱いでドラゴン化する

 そして千里眼で見たところまでユウ達を案内してくれた

 

「ここだ」

 

 メランが言った

 

「あ、あの人じゃないですか?」

 

 カルディアが前方を指さす

 そこには、いかにも怪しそうに周りをキョロキョロしている男がいた

 

「おい!  そこのお前!  勇者の剣の鞘を返せ!」

 

 待て待て待て

 まだその人だって決まった訳じゃないんだから

 人を見た目で判断するな ってお母さんに教えてもらわなかったのか?

 

「チッ、もう見つかったか」

 

 合ってたんかーい

 

「だが、そう易々と返してたまるか」

 

 男はまた逃げようとする

 

「ごあああああああ!!」

 

 メランが男に向けて、ブレスを吐いた

 しかし、男には全く効かなかった

 

「お前がドラゴン族だということは知っているからな。 対策させてもらった」

 

 こいつ、ドラゴン耐性持ちか!

 これじゃあ、メラン頼りにはできない

 

「カルディア!  力を貸してくれ!」

 

「は、はいっ!」

 

 頼りなさそうな返事だが今はそれどころではない

 俺は前から、カルディアが後ろから攻撃を仕掛ける

 

「聖剣持ちか、厄介だな」

 

 男はそう言った

 

「しかも、二対一か。 そうハンデではないが、日を改めた方が良さそうだな」

 

 男は素直に引き下がった

 

「お、おい!  待て!」

 

 メランが慌てて追いかけるが姿は見えなくなってしまった

 また、魔法の類を使ったのだろう

 とりあえず、勇者の剣の鞘は取り返した

 ソンチョさんの元へ戻るか

 

 戻るとソンチョさんの家の前に多くの人が集まっていた

 なんの騒ぎだ?

 

「ああ、勇者様!  おかえりなさい」

 

「随分人が多いけど、何かあったのか?」

 

 焦り気味のナノスに尋ねる

 

「実は、勇者様方が鞘を取り戻しに行っている間に、ソンチョの具合が急に悪くなりまして」

 

 なんだって!

 俺は人混みを避けてソンチョさんの家の中へ入る

 中には医者らしき人もいた

 ソンチョさんはベッドに横たわっていた

 顔は青白く、元気がない

 

「ゆ、勇者様、おかえりでしたか。 こんな体勢ですみませんな」

 

 ソンチョさんが起き上がろうとするのを、俺は止めた

 俺はソンチョの手をギュッと握りしめた

 

「もう儂は永くない。 だから最期に勇者様に一言だけ伝えさせてくれ」

 

 か細い声でソンチョはこう言った

 最期なんて言わないでくれ

 これからもこの村の発展のために頑張ってくれよ

 

「最期にいい物を作らせてもらった。 ありがとう」

 

 そう言ったソンチョさんは、ゆっくりと目を閉じた

 

「……ご臨終です」

 

 医者がそう告げた

 色んなところから、すすり泣く声が聞こえる

 あんなに元気で一番張り切っていたソンチョさんが亡くなった

 目の前で見ても信じられない

 カルディアもメランも、俺も目から自然と涙が流れていた

 

「……短い間だったけど、ありがとう」

 

 俺はナノスに別れの挨拶をした

 

「いえいえ、こちらこそ。 ソンチョの葬式にまで参加してくださって、ありがとうございました」

 

 ドワーフの村から離れる時、子供達が寄ってきた

 

「お兄ちゃん、また来るよね?」

 

「こら、勇者様は忙しいんだから。 無茶言わないの」

 

 ナノスが子供達をたしなめる

 

「ああ、また来るよ。 今度もいっぱい遊んでやるから覚悟しとけよ?」

 

 俺は子供たちの頭を一通り撫でてあげた

 

「それじゃ、また」

 

「ありがとうございました!」

 

「お兄ちゃーん!  バイバーイ!」

 

 子供はほんとに無邪気だな

 俺達はドワーフ達に、手を振りながら村を去った

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