第一話:血筋
こんなことが、現実にあっていいのか?
俺の頭がおかしくなってしまったのか?
夢なのか? …いや、違うだろう。
だが、それならばこの状況はいったい何なのだろうか。
……俺は猫と話せるようになっていた...
もう、学校にすら行きたくなくなって来た。
「…まったく、困った奴だ。」
何だ?今の声は。この部屋には俺と、…空いている窓にネコが一匹。その猫もしゃべれるはずがない。
まあ、どっかのマンガのしゃべるネコに似てはいるが。
もちろん、もはや生きた化石な、『窓から入ってくる幼なじみ』もいやしない。いてほしいが。そして色々あったら面白いんだが。
その時だった。普段鳴くような口の動きで、そのネコはしゃべったのだ。
「学校は嫌いなのか?」
と。
「な...お前人間の言葉を…?」
「俺がヒトの言葉を話せるのではなく、お前がネコ語をわかるようになったのだ。」
「マジか?」
「えらくマジです。」
「う〜ん、パロディ調が拭えないな。」
「ちょっと待ってろ。」
と言うなり、そいつは窓の外へ消えた。
「おい!!」
思わず窓から身を乗り出す。
…それがいけなかった。
窓の外は何もなく、この部屋は二階だ。それをすっかり忘れていた。身を乗り出しすぎて、頭から俺は落ちていった。
目を空ける。ケガは、…していない。背中の下には、柔らかい毛。ネコが密集して、クッションになっていた。
…ありえない。ネコがこんなにまとまった動きをするなど。
…そして、俺は見た。『それ』を。そこには、他のネコの数倍はあろうかというネコがいた。ネコの長とでも言うべきだろうか。
そしてそいつも話し出した。(多分ネコ語で)
「はじめまして...になるのかな?カグヤ君。」
「…誰だお前。そしてなぜ俺の名を知っている?」
「わしは1000年生きたネコの妖怪、『猫又』。危ないところだったな。『猫守』の末裔よ。」
「守り手?」
「そうだ。…お前の家は、昔は『猫神』という家だった。それが明治の頃に姫神と名字を変えたのだ。」
「…」
「猫神の一族の長男は、16才になるとネコ語がわかるようになる。そのほかにも様々な能力を得ていく。」
「じゃあ、…親父も?」
「ああ。そして、能力を持った者を一族では『猫守』と呼び、猫守はネコを守る義務がある。そして、ネコは代わりに猫守を助ける。」
「つまり、俺は『猫守』で、おまえらを守るわけか。」
「そのとおりだ。」
すごい血筋だったんだなぁ。あのハゲにもそんな能力が...
「あれ?夏彦(親父の名)ってハゲてたっけ。」
「さらっと思考を読むな。親父は髪生えてるけどなんかアレ、イメージ?」
「…まあいい。一つ忠告がある。『猫守』であることは出来るだけ人に知られないようにしろ。能力を悪用しようとする奴もいる。」
「…わかった。…だから名字を変えたのか?」
「そのとおりだ。」
「…ちょっと待て。疑問が山ほどあるんだが。」
「悪いな。ここには長くいられんのだ。詳しくはあすこにいる…そうだな、『レオ』がお前をこれから助けていく。」
「そうかい。」
しかし『レオ』って...大した名前だな。
想像も出来ないようなことが起こったのに、意外と平然としていられた。…まあ、日常が少しは面白くなるだろう。
「最後に一つ聞いていいか?」
「何だ?」
「江戸時代は、士農工商のどれだったんだ?」
「鎌倉時代は武士の血を引いていたんだが、だんだん身分が下がって、江戸時代には…『穢多』だ。」
聞かなきゃ良かった。