強欲な妹とかわいそうな姉
その日の深夜、わたしの身柄はアナスタシア様が運営している女子修道院に移されることになった。
ハルト様に、「僕の刑期が終わったら、必ず迎えに行く」って言われた。
「十分に良くしてくださったから、もう気を遣わないで」と言ったら、キスされた。
とっくに生娘じゃないとはいえ、唇のキスは初めてだったのに。
文句を言ったら、嬉しそうに笑ってくれた。
なんで今まで手を出してくれなかったんだと聞いたら、刑期が明けたらプロポーズするつもりだったんだって。
未婚のお嬢さんに手を出すのは、誠実じゃないって。
わたしが処女とか非処女とかは関係なくて、結婚するまで大切にするのが、男の愛情なんだって。
真面目かよ。だから冤罪かぶるんだよ……バカ。
馬車の中で、アナスタシア様にさめざめと泣かれた。
「お姉様が大うつけで、本当に情けない」と。
学園の噂では、アナスタシア様はエリザベート様の持ち物や爵位や婚約者をやたら欲しがる、ゆるふわ強欲妹って話じゃなかったかな? 学園に出せないから家庭教師がついてるとか。
それとなく聞いたら、アナスタシア様の涙がちょちょ切れた。
「お姉様は、仕込まれた毒や罠に気がつきませんの。解除してさしあげたその場では感謝されましたが、次期辺境伯として点数稼ぎしたい私の自演ではないかと、部屋でブツブツ呟いていらしたそうです。「ずるい」「欲しい」と駄々をこねると、悲劇のヒロインぶって寄越すと気づいて以来、強欲な妹で通してますわ。侍女や家庭教師がその都度進言してくれたものの、それも私が買収したと思われていたようですわね」
うわあ。
「辺境伯家では、一人娘でも適性がなければ嫁に出されます。適性なきエリザベートお姉様は王家に嫁ぐことが決まり、適性を持つ私が次期辺境伯に選ばれました。現辺境伯から教育を受けるため、母が辺境伯補佐として母家に入りました。うちは女系ですから、叡智と武勲に優れた男性に婿入りしていただいておりますの。お姉様は、母をお館様(現辺境伯の夫)の愛人扱いしていた節がありますけどね」
うわあ。うわあ。
「お姉様にないがしろにされ続けるリーンハルト王子が、あまりに不憫で。お館様に交代を打診したことは、ございます。『リーンハルト王子を次の館とする? 我が家としては歓迎だが、エリザベートはどうする? あれの血筋では高位貴族にしか嫁出せんのに、嫁いだ家に不利益をもたらしかねんぞ? リーンハルト王子以外、貰い手がおらぬ』と却下されました」
うわあ。うわあ。うわあ。
「辺境は貿易と防衛の最前線で、多数の鉱山と街道をかかえる国家の動脈ですからね……。学びは多岐に渡ります。次期辺境伯が、王都で淑女教育を受ける暇なんかありませんわよ……」
うわあ。うわあ。うわあ。うわあああ!
性根ビッチなわたしが言うのもアレだけど、ハルト様って女の趣味が悪いよね……。
もしかして、面倒な女が性癖なのかな???
わたしがハルト様だったら、アナスタシア様にチェンジしたのにな。
だって、アナスタシア様の方が女の子らしくて可愛いし(エリザベート様は美人系)。フワフワきらきらな見た目で、頭が良くて、度胸もあって、かっこいいもん。
負けてるの、おっぱいだけと思う。貴族女性のおっぱいなんて、凄腕侍女とコルセットが作り上げた幻の逸品かもしれないけどね。ま、決して小さくは無いと思う。
……アナスタシア様、ごめん。ドンマイ。




