恩赦なんかいらない
鉱山は一年中初冬みたいな気温だけど、6月の王都はさわやかな風が吹く、花の季節。結婚シーズン。待ちに待ってないけど、ロイヤルウェディングの到来だ。
第一王子と辺境伯令嬢の結婚式が、王太子殿下と辺境伯令嬢の結婚式に化けたけど、貴族はそんなに混乱していないだろう。
平民からしたら、どっちだって変わらない。
結婚式の日に、鉱山でもご馳走がふるまわれたけど、わたしとハルト様はハンストした。
「うちのお嬢様がキライなのか?」と聞かれたから頷いてやったら、食事運びのおかみさんに、またまた爆笑された。
「ここだけの話だけど。うちの鉱山じゃ、エリザベートお嬢様は微妙なんだよ。妹のアナスタシア様は人気だけどネ」
エリザベート様は、領民の健康を守るために8時間労働の10時就寝を強いたり(炉の火を絶やしてはいけないのに!)、高価で苦い青野菜ジュースを強制的に飲ませたりしてきたらしい。
アナスタシア様は「これからも綺麗な宝石をたくさん採掘してね!」と、樽酒と高級肉を振る舞うらしい。
「アナスタシア様のご成婚の暁には、お腹が痛くなるまで食べまくるわ!」と宣言しておいた。
おかみさんは、体をくの形にして悶絶していた。
それから4ヶ月後、わたしたちの掘立て小屋に、役人がやってきた。
お世嗣誕生の恩赦で、足枷が外されるらしい。
ハルト様は、鍵穴を手でガードしてそれを拒んだ。
「僕は王太子妃に、不敬な感情しか持ち合わせていないので。恩赦には値しません」と。
わたしもわたしで、全力で拒否してやった。
「私はエリザベート様を冤罪にかけようなんて思ったこともないし、第一王子さまの愛人でもありませんでした。恩赦を受け入れたら、やってない罪を認めることになります。要りません」と。
困り果てる役人たち。
彼らに罪はないけど、これだけは譲れない。
「多分だけど、王太子妃が産休に入って、執務が滞ってるんじゃないかなー。平民の僕にはわかんないことだけど」
ハルト様はいつも通り荷物を持って、足枷をジャラジャラ鳴らしながら、採掘場に向かっていった。
慌てて追いかける役人たち。
わたしはジャラジャラが聞こえなくなって30秒待ってから、内鍵をかけた。
ちなみに、私たちの足枷は、収穫祭の頃に新酒を下賜しにきたアナスタシア様の騎士と「うっかりぶつかって」「割れて」しまった。
まるまる太った玉のような赤ちゃんと対面したアナスタシア様は、第一王子が廃された理由にピコーンときたそうで。
なんか、ハルト様に土下座してた。
立場上、わたしには謝罪できないから、わたしの分を加算して土下座一択だったらしい。
超ひらひらしたペールブルーのドレス、汚れちゃうよ??
アナスタシア様、可愛いなあ。ふわふわで、ひらひらで。エリザベート様に似てないなあ。あ、第二夫人の連れ子なんだ。なるほど。
ともあれ、早産で生まれた赤ちゃんが、4000g近いなんてナイよねー……。
「早産の子は、小さくて致死率が高い」って、淑女教育で習うもんねー……。
無実の伯父に冤罪をかける胎教って、いかがなものかしらね。




