くそったれなドレス
鉱山に王子さまがいるとか、いろいろ言い訳が大変なのか、王子さまは「女に貢いだバカな坊ちゃん」で、わたしは「お坊ちゃまをたぶらかして散財した、ふてえ女」ということになっている……らしい。
朝晩、料理を届けてくれるおかみさんに言われた。
「純情そうに見える娘が、1番危険なんだってねえ」と。
「じゃ、おかみさんが1番危険ね?」と返したら、爆笑された。
「ま、あたしにゃ、あんたがそんな子には見えないんだけどね」とも言われた。
王子さまーーー今はハルト様が仕事に出かけると、わたしはずーっとレースを編んでいる。
納期がきつくて、1日中編まないと間に合わないのだ。
男爵家秘伝のレース編みは人気で、売れ残った公娼の生活費になる程度には稼げる……が、当然、わたしの懐には入ってこない。
どこに売られて、誰が儲けるんだと思っていたら、エリザベート様のウエディングドレスに飾られるらしい。
なにそれ。
意味わかんない。
元婚約者をたぶらかした(ことになってる)わたしが編んだレースなんか、タダでも欲しいか?!
ちまちまと丹精をこめて、ちいさく、ちいさく、「くたばっちまえ」と刺繍してやった。
鉱山から帰ってきたハルト様に披露したら、最初は目をパチクリさせて、次に満面の笑みをうかべた。
「僕もやっていい?」って聞かれたから、針と糸を渡した。元王子さまが刺繍なんかできるのかな? と思ったら、刺繍穴をちまちま広げて排泄物のマークをつくった。器用ねえ。
「王子さまなのに、持ちネタがビロウだわ」
「もう王子じゃないし。現場に子どもをつれてくるヤモメがいてね。下ネタの語彙が素晴らしいんだ」
私たちは一緒にごはんを食べて、別々にお風呂に入って、寝るまでくだらない話をする。
そして、ベッドとソファに分かれて眠っている。
ごはんを届けてくれるおかみさんは、多分だけどエリザベート様の手の者だ。
寝所の報告を請け負っているんだろうけど、おあいにくさま。
私たちの同居生活は、どこまでも平和で、果てしなく清らかなのだ。
さてと。わたしなんかより、もっと清らかなはずのエリザベート様は、どうしてこんなにウェディングドレスの納期を急ぐのかしらね……?




