とある追放王子と鉱山労働
辺境の鉱山は、聞きしに勝る「開拓地」だった。
空気も道も埃っぽくて、水も家も汚い。
僕とイリーナ嬢は、憲兵の詰所と隣接する小屋に押し込められた。
掘立てにしか見えないが、えらく施錠が頑丈だ。逃亡防止だろうか。僕みたいなヒョロヒョロしたもと王子が、この筋肉の群れから脱走できるわけがないのに。
「風紀が乱れますので、イリーナ嬢は外に出さないで下さい」
見張りの憲兵に言われて、僕たちは肩をすくめた。
なけなしの荷物をおいて平民服に着替えると、僕は鉱山に連れていかれた。
鉱山もなかなかの階級社会で、総監督が1番偉くて、次は周辺に住む地元労働者、出稼ぎ労働者ときて、最下層は罪人だ。
罪人は足を鎖で繋がれ、猿轡をかまされ、罪状に応じて採掘や屠殺、不衛生な場所の清掃などに従事していた。
どうやら僕は「国家転覆犯」らしいので、採掘現場で使い潰されるのかなあと思っていたら、金属の仕分けをまかされた。
一応、足は繋がれているけれど、猿轡はない。運ばれてくる鉱石を検品して、種類ごとに分けるだけ。
力仕事ではあるが、罪人の刑務とは思えなかった。
黙々と作業をしていると、10の刻くらいにおやつがでてきた。薄いコーヒーとやたら硬いビスキィ。
ぼんやりしていたら、現場主任に「さっさと食えよー。なくなるぞ」と笑われた。慌てて口に入れてむせたら、鉱夫たちにも笑われた。
王族籍を外された僕だけど、ここでは「領費を女に貢ぎ、裁判で有罪判決を受けた子爵家のボンクラ」という設定らしい。
つまりまあ、事実上、国家転覆罪は採用されなかったってコトなんだろう。
第一王子とはいえ、僕の母は身分の低い側妃で、すでに故人だ。母の実家の子爵家も没落している。
第二王子で正妃腹のユージーンよりも、当然継承順位が低い。
ユージーンは学力も武力も優秀で、見目も華やかだ。が、何でも自分が先頭に立ってやろうとするので、取りこぼしや無駄が目立つ。
僕はそれをフォローする役と思っていたけど、愚鈍な兄に穴を発見されてプライドが傷ついていたのだろう。
ユージーンがエリザベートを欲したのも、僕がエリザベートに片思いしてきたからかもしれない。
エリザベートは、初対面の僕を見るなり「断罪王子」と呟いて気を失った。意味が分からなかったけど、その後もなんだかのらくら避けられて現在に至る。
僕以外の人間には、気さくで優しいエリザベート。
ユージーンは、僕に見せつけるようにエリザベートと仲良くなった。エリザベートも、ユージーンがいるとあからさまにホッとするようになった。
それでも、好きだったんだけどな。




