とあるビッチなヒロインの断罪
婚約を破棄された王子さまが、ついでに廃嫡された。
辺境伯令嬢エリザベート様への不敬罪と、淫交罪。それから、なぜか国家転覆罪で。
王子さまは何もしてないんだけど。王子さまのお友達たちが暴走したのだ。
エリザベート様がわたしをいじめていると言って、卒業パーティーの真っ最中に、エリザベート様を突き飛ばしたのだ。
わたしは違うって言ったのに、聞いてもらえなかった。
エリザベート様を助けた第二王子さまが、エリザベート様をかばって断罪し返した。
曰く、王子さまとお友達たちは、イリーナ・オルコットを囲って、神聖な学園で淫交に耽っていたと。
貞淑な婚約者をないがしろにしたドラ息子たちは、みんなまとめて婚約破棄された。
わたしはオルコット男爵の養女だ。
血のつながらない姉妹がたくさんいる。
男爵家の養女たちは、みんな公娼になる。そういう家なのだ。
だから、だろうか。
断罪された子息たちとは、確かに不健全な関係を持っていた。というか、強いられていた。
断れば、殴られた。
本来、公娼は契約を交わした特定の相手にしか契らせない。それがルールだ。
でも、学園では平民あがりの公娼未満だから、バカにされていたのだと思う。
王子さまとの出会いは、保健室だった。
保険医に用事があった王子様は、保健室から追い出されていた彼女を不審に思い、簡易ベッドで気を失っていた私を、もっと不審に思ったらしい。
先生が泣きながら説明する声で、意識を取り戻した。
避妊薬をくれるだけじゃなかったんだね。
心配してくれてたんだね。ごめんなさい。
王子さまに気に入られた(ことになった)わたしは、生徒会室に入り浸るよう命令された。
そこにいれば、安全だからと。
それでも、王子さまのお友達たちを、完全には避けられなかった。
王子さまの公欠日は欠席するように言われてたんだけど、エリザベート様に仮病を暴かれて寮母さんに怒られた。
仕方なく登校すれば、お決まりの折檻が待っていた。
第二王子さまによると、そんなわたしは「役員でもないのに生徒会室に入り浸り、婚約者のいる未来ある子息たちを堕落させた悪女。公娼のルールを破った淫売」らしい。
そんな女にうつつを抜かし、辺境伯令嬢をないがしろにしたとして、王子さままで継承権と王族籍を剥奪されてしまった。
いや、ありえないでしょ。完全にとばっちりだ。
彼は、エリザベート様をないがしろになんかしてない。
夜会やお茶会、公式行事のたびに、エリザベートを伴っていたし! 今日の彼女を飾るドレスや宝石だって王子さまからのプレゼントだし!
「僕はどうもセンスが悪いみたいで」って謙遜されるから、生徒会の皆さんで意見を出し合ったデザインだもの。覚えてるよ?
彼は、美しくて優秀なエリザベート様を、いつも目で追いかけてた。遠くでエリザベート様が笑っただけで、嬉しそうに微笑んでいた。
ちょっと悔しかったけど、応援してたんだよ? 私みたいな汚れた女は、片思いしてるだけで十分おこがましいからね。
なのにエリザベート様は、第二王子さまと婚約し直すんだって!
第二王子さまは、ずっと昔からエリザベート様が好きだったんだって!
みんなの前で告白なんて、素敵な茶番だね!!!
そこで頬を染めた貴女と、片思いを封印するしかできない私、淫売なのはどちらかしら?
そもそも、王子さまは、私の為ってよりは「風紀を乱さないため」にかくまってくれたんだよ。
あらかじめ学園に報告していたし、いつも誰かしら女性の役員がいたし。
王子さまの不在時に、その役員たちを追い払ってやましいことを強いてきたのは、王子さまのお友達たちだ。
王子さまとの秘密なんて、「内緒だよ」と下賜された、発売前のショコラだけだ。
あの包み紙は、小さく折り畳んでロケットペンダントに忍ばせてある。それってなんの淫交罪?
王子さまのお友達たちにとって、私は「病気持ちでない、安全な公娼」だった。公娼と契るルールや契約金は、ガン無視されたけど。
多くの生徒たちにとっては「高位貴族だけに足を開く、高慢でふしだらな娼婦」で、王子さまにとっては「守るべき生徒」だった。それだけだ。
言い返したかったけど、王子さまに止められた。
「前もって準備した上で謀られたんだろう。この場での抵抗は愚策だ。せめて君の心身と、生徒会役員たちの将来だけは守りたい」って……。
王子さまのバカー!! お人好しー!!!
そんなわたしと王子さまは、エリザベート様のご実家が所有される鉱山で、罪人として働かされることになった。
これが陰謀じゃないなら、この国はどうかしてると思う。




