手紙というざまあ返し
イリーナが修道院ーーーの附属病院に入って、2年が経過した。
二度と会うことはないと信じていたオズボーンの声を聞いて、ひどい情緒不安に陥ったそうだ。所属は修道院のまま、内密で病院に移った。アナスタシア嬢曰く「女子修道院は不可侵だけど、病院だと王族の介入を断れない可能性があるから」と。
「5年の刑期が明けたリーンハルトとイリーナが、王都を訪れて王太子夫妻に感謝を捧げる」というエリザベートの脳内設定は、お触り禁止だそうだ。
いっそ、脳みそに穴が開けばいいのに。
鉱石の識別に入れられた僕は、気がついたら識別班のリーダーになって、さらに気がついたら総監督と採掘計画を立てたり、現場監督に人事を相談されたりして、鉱山を仕切る立場になっていた。
ゆるふわの皮をかぶった女傑に「鉱山を乗っ取られましたわ」と笑われた。
手紙を届けてくれたり、イリーナが焼いたマフィンを預かってくれたりと親切ではあるけど、僕という労働力を逃したくないのが本音だろう。いいけど。それで。
第1子を出産して以来、エリザベートは子育て宣言をして政務から手を引いたそうだ。
子どもが3歳までは、母親が側にいて手をかけて育てるべきだとか。
今は3人目が生まれたばかりだから、最低でもまる7年は自ら公務を放棄するって。すごいな。
「授乳は乳母だし、おしめを変えたり遊んだり勉強を見たりする侍女が10人くらいいる母親」が、いったいどこに手をかけているのか、いまいちナゾだけど。
まあ、いいや。
いらん客は来なくなったが、なぜかユージーンから手紙が届くようになった。
エリザベートが、ますます絶好調らしい。
側妃を娶って政務をまかせたら拗ねて、側妃が妊娠したら鬼のように怒り狂ったとか。
あと、僕が担当していた公共事業が、年を追うごとに破綻してきたと。
そりゃ、担当者なしでほったらかして、金になる事業なんかない。どうして僕が公欠しがちだったか、ざっくり説明したら、「帰ってこい」と返事がきた。
王族籍を剥奪された元王子なんて信用ゼロで、テコ入れどころじゃない。それを王族に戻すだけの簡単な話だと思ったら、大間違いだ。
そんなことをすれば、冤罪を犯した愚鈍な王太子と王太子妃と、内外から侮られることになる。
ユージーンとエリザベートがしたのは、そういうことだ。
僕という人材を切り捨てた結果なんだから、甘んじて受け入れなさい。
僕ではなく、陛下や前王や王弟殿下たちに相談しなさい。たっぷりお説教を聞いてから、任せられる部下を見極めなさい。
僕を追放したこと自体は、怒ってないよ。もともと王兄職なんて向いてないからね。
でも、イリーナへの無体だけは、永遠に許さない。
王太子夫妻は、無実の民を虐げ、本人が被虐を望んでいると決めつけ、淫売として流刑にしたんだ。
淫婦どころか、男性恐怖症に陥ってるのに。
加害者の婦女暴行犯どもに、被害者を下賜するってどういう了見だ? 賄賂でも盛られた?
まさかだけど、あいつらの言う「真実の愛」とやらを、信じたわけじゃないよな? そこまでバカじゃないよな?
君はとても優秀だったのに、何もかもが残念な王太子になってしまったんだね。お兄ちゃんは、情けないよ。
ーーー以上、あんまりオブラートに包まないで送り返したら、返事が来なくなった。
めでたし、めでたし……?




