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リビングシングす!  作者: 鈴ノ音鈴
6/13

うざうざ生徒会長

 翌朝、俺は家を出て千葉駅まで向かった。



 一週間に五回も同じ行動をしているのだから、ロボットのように決められた動作でここに辿り着けるようになった。



 生物の意義を失ったようでなんか悲しく感じる。



 溜め息を吐きながら顔を上げると、圧倒的存在感を放つ長蛇の列を成しているエスカレーターがあった。学生、社会人、金髪ウェーイ系男子等々、色々な人がエスカレーターに乗っている。



 それもそのはず、この駅は千葉県の中枢神経系と例えてもいいくらい数多の人が行きかっているからだ。



 俺に背を向けて職場や学校やクラブに赴こうとしている人達に、心の中で敬礼をする。ま、俺も学校行くがな。



 ただあの人達とは乗る場所が違うだけ。俺が乗るのは電車ではなくモノレール。



 でっかく千葉駅と書かれた看板から右へ九十度体を回転させて、三、四歩くらい歩く。



 そこにはもう一個別のエスカレーターがあるので、定期券を持ってきたのを確認してから乗る。



 エスカレーターから一旦降り、踊り場的な場所を通って更に上へと続くエスカレーターに乗る。



 エスカレーター言い過ぎてゲシュタルト崩壊しそうだが、ホントにエスカレーター多いんだよここ。



 改札機に定期券を通して、ホームでモノレールを待つ。やっと一息つけた俺はポケットからスマホを取り出し、満面の笑みを浮かべている美琴のロック画面で時刻を確認する。



 因みにこの写真は本人に言ってない。バレたら腕ちぎれるまでひねられそうなので、黙秘権をフル活用してそれだけは免れなくては。



 只今の時刻は七時五〇分。俺の高校の最寄り駅へ行くモノレールは八分後に来るので、少々早く来過ぎてしまった。



 んまぁ、八分くらいちょっと本を読んでいたら勝手に経つ。あぁ、周りの女子高校生の会話が煩わしい……。



 女子達はあくまで静かに陰口をたたいているようだが、女子高生の特性の一つの大音量の声で、かなり距離があるはずの俺の耳にまで陰口が届いてきた。



 あまり人の悪口には慣れない。ボロクソに言っているリーダー格の女子以外は、仕方なく同情していると見て取れる。



 理由は単純明快。少しでも反論したら今度は自分が陰口をたたかれる側になってしまうからだ。



 友人関係というネットワークによりつくられた、不条理な圧力が彼女らを束縛しているのだ。



 美琴が友人関係を毛嫌いする理由がよく分かる。も、もちろん俺もだぞ?



 けけけけ決して友達ができないからというわけではない!



 結局女子高校生の会話で本に集中できず、モノレールが来るまで先輩の萌美という子の愚痴を聞かされていた。



 それにしても萌美ちゃん……いくらニジイロクワガタ捕まえたからって、学校にムシキ〇グのカード持ってきちゃダメだよ……。





 高校の最寄り駅は終点なので、それまで結構ゆっくり休める。



 モノレールが揺れる感覚も、眠気を誘う潤滑油となるのでモノレール内ではかなりの人が熟睡していた。



 昨日十時間以上は眠った俺には全く無意味だがな!



 それよりもあの女子集団、千葉から二個目の駅で降りたってことは、千葉県内でトップレベルの高校に通ってるということだよな?



 萌美ちゃん……そんな生粋の天才が集まる高校でカード持ってきちゃダメだよ……。



 モノレールから降りて改札口へと続く階段を下ると、二台の自動販売機の直ぐ側に、上に花瓶が置かれた土台がある。なんのために存在しているかは謎。



 そこがあいつとの集合場所。俺は本を片手に自販機の側面に寄りかかる。



 もう一度スマホを取り出し、時刻を確認する。



 「八時十五分か……今日は何して時間を潰そうか……」



 朝のホームルームは九時から。それまで片手サイズの図鑑を読み漁っているのだが、家にある本は見終わってしまった。モノレール内で読んでたやつも九週目くらいなので正直見飽きた。



 昔の人は同じのを何回も見てあんな膨大な知識を得るなんて凄いよな。俺だったら字を読むことすら倦怠だな。偉人は俺と根幹から違うのだろう。



 スマホの電源ボタンを押してポケットにしまうと、



 「なに? 陸に引き上げられたブロブフィッシュみたいな顔して」



 俺の耳を甘美な声がくすぐった。異性だろうが同性だろうが、この声を聴いたら思わず頬を緩ませてしまうだろう。



 幸か不幸か、俺には効果が全くない。ちくしょう……俺もこの声を堪能できると良かったのになぁ……。



 この人を嘲るような口調と俺の容姿を深海魚で例えてくる奴なんて、この世に一人しかいない。



 「ブロブフィッシュは気圧の変化であんな醜い姿になっているだけで、本来はちょっとでかいオタマジャクシみたいでかわいいですよ?」

 「さっすが」



 パチパチと全く真心こもっていない拍手をして現れたのはとんでもないべっぴんさん。



 腰まで伸びたストレートの茶髪に、シルクのように透き通った肌。これを絶世の美女と言わないで何と言うのだろう。



 「……それで、今日『も』あれの話ですか?」

 「『も』とは失礼な。今日は違うよ」



 怒っているのか、口調が少し強めになる。しかし凛とした表情は微動だにしていなかった。



 こんな美人がいるのに、何故俺が素っ気ない態度で接しているかって? 



 俺だって「普通」の美女なら、あんなこと言われたら「ありがとうございます! 蹴ってください!」までは言うだろうな。



 「ともかく、こんな場所で『生徒会長』様と冴えないクソガキがいたら他の男子生徒から反感買いそうなんで、学校に行きましょう」

 「自虐的な謙遜は嫌いだなぁ」

 「そりゃあすいません」



 変なところで俺を心配してくれる。だけど罵詈雑言ばかり。本当に何を考えているか分からん。





 「んで、違う話とは?」

 


 俺達は無事学校に到着して、今は本校舎と旧校舎を繋ぐ連絡橋で柵に寄りかかりながら、空を見上げていた。



 紹介が遅れたが、彼女の名前は「海崎百合」。一応小学生からの友達。



 現在進行形でこの学校の生徒会長を務めており、テニス部のエース、成績トップ、ピアノは県大会出場レベル。そしてこの整った顔立ち。



 完璧。一切の不純物が混じっていない、俺からしたら何千里も離れた地位に君臨する人間だ。



 じゃあ何故対極の俺と一緒にいるかって? 俺にもよく分からん。



 「その前に、いつもは既読つけるのに最低一時間は要するはずの直人が、なんで昨日はあんなに返信が早かったのかい?」



 うっ……中々目の付け所が鋭い。



 本当のことを言ってもいいが、正直に話して揚げ足を取られるのも嫌だからなぁ……。どうすればいいか。



 「そんとき偶然スマホ触ってたんですよ。未読スルーは可哀想だったんで、直ぐに返信しただけです」

 「スマホ触る動機なんてないのに?」

 


 ホント鋭いな!! 何者この人!?



 「もしかして……私以外の女と連絡してたの?」

 「なにメンヘラちゃんになってんですか……気になることがあって調べてただけです」

 「あっ、目ぇ逸らしたぁ~」



 目を逸らしたのはミスだったな……。一層先輩の疑心が強くなっている。

 


 不満を表しているのか、分かりやすく頬っぺたを膨らませている。その子供っぽい姿に、不覚にもかわいいと思ってしまう。



 紅潮した頬を不審がられない程度に隠していると、先輩は頬っぺたをしぼませて迷走していた本題を話した。



 「取り敢えず直人に女がいるか否かは置いておいて、直人は今日どんな内容を話すか分かる?」

 「んー……シャンプー変えた……とか?」

 「なんで私がシャンプー変えてるって分かったの?」



 やべ! いつもの鼻孔を優しく刺激するラベンダーの香りがしないから、思わず言っちゃったよ……。



 絶対キモがられるよなー……先輩も女の子なんだし、そこら辺はちゃんと気を遣ってあげないとな。



 「…………」



 あれ? 先輩うつむいちゃってどうしたんだ? 



 もしかして……めっちゃ気にしていたとか? 



 「す、すいません! 失礼なこと……」

 「いや、気にしないで! ……ちょっと嬉しいし……」

 「何か言いました?」

 「い、いいや! 何でもないよ!」



 傷ついていないようでよかった……。今後こんな失礼な発言しないように反省しておかないとな。



 「じゃ、じゃあ今から本題を話すね!」


 



 



 



 



 



 


 



 


 



 



 



 



 



 



 



 



 

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