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リビングシングす!  作者: 鈴ノ音鈴
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動物嫌いの妹

 いきなりだが、皆様は「生物(いきもの)」が好きだろうか? 


 

 生物とは、動物や昆虫を筆頭に植物、魚等々……それらを総称した呼び名だ。



 彼らは進化をすることで、この地球に生物圏を形成したのだ。



 その生物圏は森や林、空だけにとどまらず、海や地中、はたまた灼熱の砂漠などの我々人間では到底生存不可能の場所に築き上げてきた。



 いわば磨かれなくとも己の力だけで輝く、原石のようなもの。生物は俺達の身近にいるようで、未だ不思議な点が多い。



 例えを挙げるとするならば「リュウグウノツカイ」だろうか。リュウグウノツカイというのは「深海魚」と呼称される魚だ。



 映像記録は非常に乏しく未だに生態が謎に包まれている。一度はニュースで見たことがあるんじゃないか?



 知れば知るほど疑問符が付いていく生物に興味を持ったり、触れ合ったりしたことはあるだろう。



 俺もその一人だ。



 小学生になってからはお年玉を使って、図鑑や生物を飼ったりしている。



 その趣味は高校生となった今でも続いており、毎年お年玉が秒で溶かしてしまっているのが最近の悩み。



 しかし年を重ねるごとに、生物から遠ざかっていく人も無きにしも非ず。冒頭の質問に対し、好きだと即答した人は多くはないだろう。



 「最近の若者は生物と触れ合う時間が減っている!」などとぼやいている輩もいるが、俺は仕方のないことだと思う。



 生物は壮大で崇高な雰囲気と、俺達の想像を遥かに凌駕する危険は拮抗しているからだ。



 世界的に見れば、生物が牙をむいたことによって危害を受けたり、トラウマを植え付けられたなどの事例は枚挙にいとまがない。



 その情報がメディアによって世界各国に流伝し、そのニュースを見て生物に警戒を強くする。そして生物と触れ合う機会が減る……だと、俺は思う。



 あくまで俺の見解なので、鵜吞みは禁物だ。



 それでも生物と触れ合い続ける人もいる。本当にその人達は生物を愛している。この言葉に限る。



 勿論俺もその中の一人だ。生物から離れようとしたことなんてない。多分金輪際離れようとはしない。



 ……噓だ。俺は今、生物のグループの中にある動物から離れるかどうか悩んでいる。



 ――待て、呆れるのはまだ早い。これは不可抗力というやつなんだ。



 その謂れを今から説明するとしよう。それは今から二年とちょっと前……。



 『お兄ちゃん!! こいつら早くどうにかして!!』



 ……百聞は一見に如かず。俺のガバガバな語彙力では到底まとめられそうにない。見てもらった方が分かりやすいだろう。



 それにしても暗いな……。窓がないから電気をつけなきゃほとんど見えん。電気代もったいないからつけんが。



 俺は大儀そうに椅子から立ち上がり、そこら中に乱雑に散りばめられている本に留意しながら、電気のついていない暗闇に包まれた部屋のドアを開ける。



 その直後、煌々と輝く太陽が俺を文字通り暖かく迎えてくれた。



 うぉー! 何日かぶりの太陽君! 最近曇り続きだったから会えなくて寂しかったよ~! 



 太陽光は凄く健康にいいからね。引きこもりでも三日に一回くらい浴びなきゃ、色々な悪影響を及ぼすからね? ちゃんと浴びよう!



 あぁ~、ビタミンDが活性化されていく~……。



 俺が両手を広げて太陽光を浴びていると、黒髪のツインテールの少女が俺の眼前に立っていることに気がついた。


 

 「やぁぁぁぁっと出てきた! お兄ちゃん! この『動物』達凄い邪魔なんだけど!? 早くどうにかしてくんない!?」

 「どうにかって……命あるものを逃がす、そんな道理を外れたことなんてできないよ~」

 


 キィーっと憤慨して床をドンドンと足で踏みつける。



 一軒家なので騒音の苦情などを心配する必要はないが、ローンがまだ残っているからやめなさい。



 「そんな怒らないで~、お兄ちゃんと日を浴びよう?」

 「火を浴びよう? 火炎放射器は家にないからバーナーでいい?」



 うん! 妹の辛辣な反応は平常運行だ。



 だが、流石に上手に焼かれるのは困るので、俺は大人しく両手を下げた。



 「ふんだっ! この動物達をどうにかしなきゃ、お兄ちゃんのこと『嫌い』になるからね!」



 ……とまぁ、俺が動物から離れようとしている理由がこれ。俺の妹、「美鈴琴音」/十歳が俺、「美鈴直人」/十五歳を嫌いになるという脅しをかけてくるからだ。



 そんな理由で? なんて思うかもしれないが、妹から嫌われることは凄くショックが大きい。



 シスコンだのなんだの勝手に言っとけ! 昔から好きだったんだよ! 



 勿論、異性じゃなくて妹としてな?



 流石に妹を異性として好きになるのはタブーだ。あ、でも「ハダカデバネズミ」という動物は家族間で愛をはぐくむらしい……話が脱線し過ぎたな。



 兎にも角にも、俺は今後の人生を左右する葛藤に悩まされているというわけだ。



 「万が一私とかお兄ちゃんがこの動物に噛まれたりしたらどうすんの!?」

 「確かに『ホーランド・ロップ』は噛むときもあるけど……そんな狂暴ではないぞ?」

 「いやだいやだ! 怖いからいやだ!」



 そう言うと琴音は床に寝転んで、おもちゃを買ってもらえない子供のように駄々をこね始める。



 そんな典型的な駄々のこね方で俺の考えが変わるとでも!? ……と言うものの、これ案外効果あるな。



 なんか今凄いあやしたい気分なんだが……いやいや! 頑張れ俺! 父性本能を抑えるんだ!



 「やだぁやだぁ! ウサギ怖いぃー!」



 ……ウサギにすらも怖がっている琴音だが、昔は大の動物好きだったのだ。



 二年前、飼っていた「カナリア」に噛まれてから生物が怖くなったのだ。カナリアは別に琴音を忌み嫌って噛んだんじゃなくて、じゃれていただけなんだがな……。



 カナリアに噛まれて、カナリイヤってか! ……クーラー強すぎたか?



 外傷はなかったが心に負った傷が大きかったのか、今ではこの有様。



 直したいのは山々だが、いくら考えても良案が浮かばない。



 頭が固いとこういうときに困るよなぁ……。脳筋でなんでも解決できる世界の方が住みやすそうなのに。



 なので、俺が言えるのは決まってこの一言。



 「琴音、また動物と触れ合ってみないか? 俺が飼っている子達はそこまで狂暴性高くないから……」

 「怖い怖い~! あの亀とかめっちゃ怖い!」

 「『クサガメ』は怖くないだろ!? 可愛いだろ!?」



 地味に体長三十センチはあるけど、クサガメは決して狂暴ではない。臭いけど。



 それに食事もミミズとかコオロギとか食べるから外で調達できてお金あんま使わないし、野菜も食べるから残った野菜の処理もしてくれる。臭いけど!



 それにペットショップで比較的安価で買えるし、初心者でも分かりやすい飼育方法なので大人気。臭いけど!!



 「とにかく、善処しておいてね! じゃあご飯!」

 「はいはい……」



 動物と触れ合わなくなった瞬間、少し俺への当たりが強くなったのは気のせいだろうか……。



 美琴は振り向きざまに俺に向けてあっかんべーと、思いっ切り舌を出していた。



 ホントに俺への当たりが強くなったな……。



 美琴はぷんすか怒りながら、リビングのソファーに横たわった。その自堕落な姿を見て、俺は露骨に首を振って台所へと向かった。



 フライパンの上に冷蔵庫から取り出した卵を落としてから、コンロに火をつけて朝ご飯を作り始める。



 



 


 

 



 



 




 



 



 



 



 

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