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秋の声  作者: 藍白
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前編

鮮明では無いですが、自殺の描写があります。苦手な方はご遠慮下さい。

 放課後、俺は教室のドアを開けた。今は使われていない、言わば空き教室。その教室は狭く、入口は一つしかない。

 教室内と廊下に誰もいないことを確認して、俺は教室に入った。

 教室内には古い教材等が乱雑に並べられた本棚があり、その近くに机と椅子が一脚ずつ置いてある。

 俺はそれらを無視して真っ直ぐ窓へと向かい、閉め切ってあったカーテンを開け、窓を全開にした。窓から入ってきた風でカーテンがなびく。季節は秋で、入ってくる風は涼しく、気持ち良い。

 視界に広がる空は雲一つ無く、薄い青に染まっていて、とても爽やかに澄みきっていた。こういう空を秋空と言うのだろう。…俺が生まれたときも、今のようにきれいな空だったのだろうか。



 秋の昼間に生まれたから、(あき)()



 俺を生んだ(ひと)が、昔そう言っていた。

 なんて単純な名前なのだろう。季節と時間帯。ただそれだけ。他に意味など無い。

「………」

 昔のことを思い出したせいで、一瞬、心が軋んた……気がした。

 俯いていた顔を上げ、窓の外を見る。そこには先程となんら変わらない色があった。

 少しの間そのままの状態でいた後、俺は準備を始めた。履いていた上履きを脱ぎ、揃えてすぐ傍に並べる。そしてズボンのポケットから封筒を取り出し、上履きの上に置いた。



 封筒にはたった二文字、"遺書"と書いてある。



 そう、俺は今から死ぬ。この窓から飛び降りて、自殺する。

 この教室は四階にあるので高さは充分だ。きっとうまく死ねるだろう。


 後悔はない。

 未練もない。


 自分の死を悲しむ友人もいない。……親も、いない。


 もしかしたら、俺を引き取ってくれた祖母くらいは、気にかけてくれるかもしれないが。祖母のことを思うと、少しだけ、本当に少しだけ、胸の奥が痛くなった。


 だが、もう無理だ。

 俺は、もう、死ぬと決めたのだ。


 心の中でこの世にサヨナラを言って、窓から身を乗り出した。

 このまま重力に従おうと思った瞬間、後ろからドアを開ける音が耳に入り、思わず窓枠に手をかけ、止まってしまった。

 仕方なしに振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていて、目を丸くしてこちらを見ていた。上履きの色が俺と同じなので同級生なのだろう。染めていると思われる金色の髪が、太陽の光りに反射して、キラキラと輝いていた。


 あぁ、きれいだな…。


 俺は突然の来訪者に怒りを抱く事は無く、暢気に男の髪の色に見とれていた。そのまま教室内を見渡してみれば、太陽の光りが教室内を照らし、男の髪と同じようにキラキラと輝いていた。そのような光景に、何故だか笑みがこぼれた。再度男に視線を向けると、男は未だに目を丸くし、こちらを凝視して固まっていた。…この教室に人がいたことに余程驚いたのだろうか。

 俺は動かない男を放っとく事にして窓枠に腰掛けた。男は、俺の行動に対して理解が追い付いていないらしく、怪訝な顔をしつつもその場から動く事はない。その反応に俺は笑みを深くし、後ろに体重をかけた。後ろには何もない。

 ようやく俺がしようとしている事を理解したのか、男は慌ててこちらに走って来た。だがもう遅い。

 俺は更に体重を後ろにかけ、重力に従うまま、窓から後ろ向きに落ちた。

 落ちる瞬間、俺に向かって手を伸ばし、必死な顔をする男の顔が見えて、思わず、


「さよなら」


 と呟いた。

 この声は男に届いただろうか。

 今まで誰にも届くことの無かった俺の声は、誰かに、この金髪の男に届いただろうか。………届いていると、いいな。

 さいごに見た空は悲しいくらい、きれいな青い色をしていた。



 そして激しい衝撃と痛みと共に、俺の意識は途切れた。






 遠くで、誰かの叫び声が聞こえた気がした。










後編に続きます。

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