第八話 『ゲーム』の内容は意外な内容
にっこりと微笑みながら――それでも真剣な目でこちらを見つめる城ケ崎さん。
「……どうですか、大町さん?」
「……」
……うん。
「ええっと……ゲームをして勝ったら、僕の家を宿にしたいって事だよね? それはこの先……まあ、家出が解消されるまでって認識でオッケー?」
「そうですね。より正確にはゲームというより勝負が近いのですが……仮に私が提案する勝負で大町さんに勝ったら、私を此処に住まわせて下さい」
「……それは」
うーん……どうだろうか、それ。
「……勿論、メリットは提示します」
「僕が勝った場合、ってこと?」
「いいえ。私が勝った場合です。私が勝った場合でも、大町さんに充分メリットがある勝負ですので」
「……城ケ崎さんが負けたら?」
「一宿一飯の恩義もありますので……大町さんの願いを、なんでも一つ叶えて差し上げます。無論、私に出来ない事は無理ですが――大町さん? 顔が赤いですが……どうされました? 風邪ですか?」
「あ、い、いや!? 大丈夫! 風邪じゃないよ!!」
……ごめん。『なんでも一つ願いが叶う』って、その……まあ、僕もそうは言っても健全な男子高校生なワケで、そう云った事に興味が無い訳じゃないんです。城ケ崎さんみたいな美人さんに、『なんでも』なんて言われたら、その……ね、ねえ?
「……? ……っ!!」
僕の視線がウロウロと……まあ、その立派な双丘に目が云っている事を自覚したのか、城ケ崎さんが体を自身の腕で抱きしめる様にしてずざーっと後退った。
「お、大町さん!? な、何を考えていらっしゃるので!?」
「ご、ごめん!! ち、ちがうんだ! その――」
「むしろどんと来いですけど!!」
「――……はい?」
「……」
「……」
「……コホン。なんでもありません。すみません、私も少し過剰に反応してしまいました。そうですね。お優しいですが……大町さんも男の子ですものね?」
そう言って聖母の様な笑顔を見せる城ケ崎さん。ご、ごめんなさい。その……マジでごめんなさい。
「……すみませんでした。もう、二度と見ませんので」
「なんでですか。見て下さいよ、もっと」
「……城ケ崎さん?」
「いえ……別に良いですよ、気になさらなくても。その……自分で言うのもなんですが、私はそこそこ整った容姿をしてると思いますし、胸部もまあ、豊満な部類に入るでしょう。殿方が自然と女性の魅力的な部分に目が行く、というのはまあ……分からないではありませんので」
「……イヤじゃないの?」
「嫌か嫌じゃないかで言えばそれは当然、嫌ですが……生まれてこの方、この容姿と付き合っておりますし、今更気にしても仕方無いと言いますか……美香ともよくこの話になりますが、美香は『ま、有名税みたいなモンだよ~』と言っていました。あの子はスカートも短いですので、太ももに集まるらしいです、視線が。『男子ってバカだよね~って笑っておけばいいさ~』との事でした」
「……」
ごめん。男子ってホント馬鹿なんです。男子代表じゃないけど、謝っておきます。
「……気を付けます」
「むしろガン見して下さい」
「城ケ崎さん?」
「冗談です。話が逸れましたね。その……大町さんが考えてらっしゃる様な事は流石に……」
「だ、だよね! ご、ごめん! ホントにごめん!!」
「まだ早いですし。そう云うのは段取りを踏んでからです」
「……城ケ崎さん?」
「話が逸れましたねっ! 私が提案したい勝負内容はですね?」
僕の問いかけを華麗にスルーし、城ケ崎さんは一点を指差す。その指の先には……ええっと、カメラ?
「カメラ?」
「はい。正確には動画、ですね」
「……?」
どういう事? 動画が勝負内容なの?
「昨晩の動画、拝見させて頂きました。再生数も結構、付いていますね。約一万再生ですか?」
「登録者数はそうでもないけど、再生数はそこそこ多いんだよ、僕の動画」
コアなファンが多いし……企画内容が『食べる』だもんね。毒にも薬にもならないんで、あんまりアンチも湧かないし。ああ、たまに『その程度の体型で百貫とか草』って言われるぐらい?
「ええ、存じ上げています。私、大町さんの動画のコアな視聴者ですし」
「……どうも」
「いえ。それで、昨日の動画で仰っていましたよね? 今日は『からあげさん』を使ったアレンジレシピにする、って」
「うん、言ってたよ。まあ、僕の休日動画のお決まりのパターンだし」
食べる事はいつでも出来るけど、作るのは時間が無いと結構厳しいから、金曜の夜は少し多めに食材を買ってきて、金曜日に食事、土曜日にサブチャンネルで料理、と云うのが僕の動画投稿パターンだ。なんで、サブチャンネルは基本土日更新ぐらいしか出来ない。
「それです」
「どれ?」
僕の言葉に城ケ崎さんはにっこり微笑んで。
「今日の動画に――私も、出演させて下さい」
「……はい?」
「大町さんのサブチャンネル――『たかあきず・きっちん』に、私も登場させて下さい」
「……ええっと……」
どういう事? いや、意味は分かるんだけど……
「それが『勝負』?」
「もし、私が出演した『たかあきず・きっちん』の再生回数が……そうですね、昨日の『たかあきず・いーてぃんぐ』の動画再生回数よりも多い再生回数を出せば、大町さん、私を家に置いて下さい」
「……」
「サブチャンネルでも登録者数が伸びれば、それは大町さんの収益になるのでは? それは、メリットになりませんか?」
「……まあ」
WeTubeは登録者数と再生回数、それに企業案件なんかがメインの収入源になる。城ケ崎さんの言う通り、メインはほぼ毎日投稿で登録者数は付くけど、サブチャンネルは週一、多くても週二なんで登録者、再生回数とも伸び悩んではいるのはいるのだが……
「……大丈夫なの、それ? 顔出しとかするって事、だよね?」
「流石に顔出しはリスクがありますので……変装ぐらいはしようと思っています。と言っても、知れてはいますが……ウィッグとカラーコンタクトぐらいは入れようかと」
そう言って、城ケ崎さんは胸の前で手を組んで上目遣いで僕を見上げる。いや、その態勢、ズルいって。だって可愛いもん、うん。
「ですので――お願いします、大町さん。私に……チャンスを、頂けませんか?」




