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第六話 手抜き料理じゃありません。時短料理です、時短料理


 冷蔵庫から必要な材料を取り出してキッチンのテーブルに並べる。食べる事が好きだと、急な来客にも対応出来て良いよね! まあ、急な来客なんて殆ど無いんだけど。

「……なにを作られるのですか?」

「手抜き……というと失礼か。まあ、朝御飯だし簡単に出来る料理にしようかな、って」

「良いですね。朝からあまり凝った料理だと時間も無くなりそうですし」

「そういう事。なんだかんだで朝は忙しいし、時短料理と云うか」

 本気で料理に拘りがある人にとっては許せない事かもしれないけど、こっちは料理を『作る』よりは『食べる』方が好きだからね。多少味は落ちても、時間が短縮できるんならアリだよ、アリ。

「……さて」

 冷蔵庫から出したバター、牛乳、コンソメを少し深めの鍋に入れて、食器棚の下のスペースから小麦粉を取り出す。小麦粉は大匙二杯で、後は……

「……ホワイトソースですか?」

「……正解。流石、栄養士志望」

「この材料を見れば大体分かります。ドリア?」

「パングラタンにしようかなって。お米、炊いて無いし」

「それでは……食パンのカットでもしましょうか?」

「……良いの?」

「一人よりも二人の方がより、『時短』になるでしょう? それに、私も手伝わせて頂いた方が楽しいですし」

「助かるよ。ついでにじゃがいもの皮むき、お願いしても良い? 数は……二個、かな? 包丁とピューラー、そこにあるから」

 後ろから僕の手元を覗いていた城ケ崎さんの申し出に有り難くお願いをする。城ケ崎さんの言う通り、はるかに時短になるしね。僕の言葉に、城ケ崎さんはにっこりと頷いて。


「初めての共同作業ですね!」


「うん?」

「なんでもないです。ともかく、任せて下さい。じゃがいもはどうします? 輪切りにでもしましょうか?」

「いまなんか……ま、いっか。じゃがいもは輪切りじゃなくても良いよ。ああ、でも、お願いできるなら四等分か……八等分にでもしておいてくれる?」

「四等分か八等分……ですか? それでは」

「グラタンに使う訳じゃないからね」

「……もう一品、あるという事ですね? 楽しみです」

 微笑んで指定した場所から包丁とピューラーを取り出すと器用な手つきで食パンを十二等分にしていく城ケ崎さん。別に信用して無かったワケじゃないけど……うん、あの手際なら問題ないかな。

「さて……」

 それじゃ、僕も調理に掛かるかな。用意した鍋に、こちらも用意していた材料をドバドバと居れて火をかける。中火でじっくりと温めながら、僕は食器棚の上に置いてあるハンドミキサーを取り出した。

「それも時短、ですか?」

「そういう事。手でダマが出来ない様に混ぜた方が美味しいっていう人もいるけど」

 正直、その辺の味の違いまでは分かんないんだよね、僕。

「切り終わりましたよ? 代わりましょうか?」

「良いの?」

「じゃがいもでもう一品、作ってくださるのでしょう?」

「もう一品って程じゃないけど……そうだね。それじゃ、お願い」

「はい!」

 ハンドミキサーを城ケ崎さんへ渡して、僕は食器棚からあるものを取り出す。

「……シリコンスチーマーですか?」

 僕の手の中に握られたそれに城ケ崎さんが視線を向ける。その視線に頷き、城ケ崎さんの切ってくれたじゃがいもをシリコンスチーマーに放り込み、レンジに入れる。

「ええっと……確かこの辺に……ああ、あったあった」

 最近使って無かったミキサーを記憶を頼りに『発掘』する。と、同時に『チン』という音がレンジから聞こえて来た。シリコンスチーマーを取り出してじゃがいもに箸を突き刺すと……ん。これだけ柔らかくなれば充分かな?

「……ミキサー、じゃがいも、牛乳……ああ」

「分かった?」

「ええ。なるほど、ミキサーを使って作るのですね?」

「本当は鍋で潰しながら作った方が良いんだろうけど……」

「時短、ですね?」

「時短、です」

 話しながらミキサーの中にじゃがいも、牛乳、バター、塩を少々入れてスイッチオン。『ォーン』という低い音と共に、ミキサーが回る。じゃがいもが良い感じにミキサーされ、どろどろになったのを確認して中身を鍋に移す。

「……このまま食べればヴィシソワーズになりそうですね?」

「んー……流石に一回は火に掛けないと怖いかな?」

 まあ、中身的には問題は無いと思うけど。ちなみに、ヴィシソワーズというのはじゃがいもの冷製ポタージュの事だ。確かにこのまま食べたらそうなるけど……

「まあ、まだまだ肌寒い季節だし、普通にじゃがいものポタージュで行こうか」

 鍋に火をかけて弱火でじっくり。そうこうしているうちに、城ケ崎さんにお願いしていたホワイトソースも仕上がって来た。食器棚から耐熱皿を二枚取り出して側面にバターを塗り、十二等分されたパンを六個ずつ敷き詰める。

「上から入れたら宜しいですか?」

「おねがーい」

 冷蔵庫の中からチーズを取り出している僕に掛かった城ケ崎さんに応えて、チーズを取り出す。スライスチーズを手で帯状に四等分、ホワイトソースが掛かったパンの上に格子状になる様に互い違いに乗せていく。

「……簡単ですね」

「後はオーブンで焼くだけだからね。七分ぐらいかな?」

「……凄いですね、大町さん」

「凄くは無いでしょう。簡単だしね、コレ。っていうか、僕より城ケ崎さんの方でしょ」

「私ですか? 私は特に……大町さんの指示に従っただけですし」

「普通、人の家の台所って使い勝手が悪かったりするんだけど……そんな事も無かったみたいだし。手際も良かったじゃん」

 ウチの家の台所、狭いからね。まあ、1DKだから狭くても当たり前なんだけど、加えて僕はこの体型だ。普通なら体の何処かが接触してもおかしく無いのに。

「全然、ぶつかったりしなかったでしょ? 料理に慣れてる人の動きだよ」

 うん、本当に。凄くやり易かったし。

「……」

「……城ケ崎さん?」

「……その手がありました……合法的に触れ合えるチャンスが……」

「……」

 ……何言ってるの、城ケ崎さん?

「……城ケ崎さん?」

「どうしました?」

 ん? と可愛らしく首を傾げる城ケ崎さん。いや、『ん?』じゃなくて……ま、いっか。

「それじゃ出来るまで、テレビでも見ててよ」

 聞き間違い、聞き間違い。そう思って僕は、城ケ崎さんをテレビの部屋に追いやり、一人後片付けを始めた。


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