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第五話 城ケ崎さんと思い浮かべた朝食めにゅー


 明けて翌日。まだまだ肌寒い四月という事と……普段ならぬくぬくとしたベッドで寝ている筈が、今日はフローリングの床の上という事で寒さが芯から襲って来る。え? なんでベッドで寝て無いかって? 僕のベッドの上では今、学校のアイドル様が幸せそうに寝息を立てているから。

「……起きるか」

 コキコキと首を鳴らしながら、僕は昨日の夜に引っ張り出した来客用の布団から体を起こす。此処に来てから一年以上使っていなかった来客用布団は若干かび臭く、加えて『取り敢えずあれば良い』レベルのせんべい布団なので何となく寝た気がしない。

「……何食べようかな、朝」

 ぐーっと鳴るお腹をさすりながら冷蔵庫の扉を開ける。真ん中には昨日買ったからあげさんが五袋鎮座ましましていた。

「……」

 ……朝からからあげさんを使ったアレンジレシピでも僕は全然良いけど、流石に城ケ崎さんには厳しいよね? これは昼にして、朝はパンとかが良いかな? そう思い、チラリと扉で仕切られた向こう側、寝室――というか、くつろぎ部屋に視線を向けて、僕は昨日の攻防に想いを馳せる。

「……流石に城ケ崎さんを床で寝かせる訳には行かないもんね」

『勝手に転がり込んだのは私の方です。勿論、私が床で寝させて頂きますので、大町さんはベッドで寝て下さい!』と主張する城ケ崎さんだったが、流石に僕も男の子、女の子を固い床とせんべい布団で寝かす訳にもいかない。すったもんだの末、『僕は皮下脂肪が多いから。四月はまだ寒いし』という、なんとも情けない自虐ネタで城ケ崎さんにベッドに寝て貰ったのだ。まあ……後から思うと、幾ら春先とは言え体重九十キロある僕の寝汗の染みついた布団で寝かすのはよくよく考えれば相当気持ち悪い事をしているんじゃなかろうかとちょっと後悔したが……まあ、そこの所は勘弁して欲しい。

「……後で布団干しておこう」

 ……気持ち悪い事を百も承知で言えば、正直『勿体ない』という気持ちも無いではない。無いではないが、城ケ崎さんに『……え? 大町さん、私が寝た布団でそのまま寝るんですか……気持ち悪い』とか言われたらきっと立ち直れないし、そもそも城ケ崎さんが寝た布団で安眠出来る気がこれっぽっちもしない。

「……んじゃまあ、朝御飯でも作ろうかね」

 これでも一応、大食い系WeTuber兼クッキング系WeTuberだ。料理自体はお手のもの、さあ作るかと服の袖をまくり上げた所でガラガラ、と寝室のドアが開いた。

「……おはようございます、大町さん」

 目をくしくしと擦りながら城ケ崎さんが深々と頭を下げる。若干寝ぼけているのか、くわぁっと小さな欠伸をしながら『んー』と背伸びをする。家出少女の城ケ崎さん、当然着替えなんて持ってきてないので、取り敢えず僕のパーカーを着て貰っているのだが……男女差でそもそも大き目なサイズの上、九十キロ超級の僕のパーカーとスウェットという事で完全にダブダブな格好だ。正直、萌え袖が目に毒です、ハイ。

「……おはよう、城ケ崎さん。よく眠れた?」

「はい! とてもよく眠れました!」

「そう。それは良かった。その、寝づらかったり……に、匂いとか大丈夫だった? 来ることが分かっていたら……って言うのもおかしいか。万年床とは言わないけど、そんなに頻繁に干したりしている訳じゃないし、不快な思いを――」

「大変、堪能させて貰いました」

「――させて……え?」

 今、なんて言った?

「ええっと……城ケ崎さん?」

「はい? 大変よく眠れましたよ。匂いもとてもよ……コホン、気にはなりませんでした」

「……」

 ……昨日の晩から思ってたけど……なんかちょいちょい城ケ崎さん、変な事を言ってる気がするんだけど……き、気のせいだよね?

「……そう。それは良かったよ。ええっと……その、心配しないでね? ちゃんと布団は干すから。その、そのまま寝たりはしないから」

「……」

「……城ケ崎さん?」

「……折角なので、私の匂いを堪能してくれれば良いのに」

「は、はい?」

 ……今、なんつった? きょとんとした表情を向ける僕に、城ケ崎さんが可愛らしく首を捻る。

「どうしました?」

「ど、どうしましたって……え、えっと……ほ、干すよ? 布団」

「……なるほど。私が寝た布団で寝るのは臭いに耐えられないと」

「そんな事は言ってないよ!?」

 いや、ある意味『匂い』には耐えきれないかも知れないけど! でも、多分城ケ崎さんが思っているのとは違う意味だからね!?

「……まあ、その話はおいおい」

「……ええっと……」

 ……なんとなく釈然としないものがあるけど……ま、良いや。

「……んじゃ朝御飯、作るね?」

「……大町さんが、ですか?」

「ん。僕が作るよ」

「一宿一飯の恩義で私が作らせて頂こうかと思ったのですが……」

「一宿はともかく、一飯の恩は無いんじゃない? っていうか、城ケ崎さん、晩御飯食べたの、昨日?」

「いえ。昨日は食べていませんね」

「あー……まあ、食べる暇も無かったもんね」

 失敗したな。それなら、昨日の晩も何か作ればよかった。

「いえ、お心遣いだけで感謝です。そもそも、昨日の晩に作って頂いてもきちんと味わえたかどうかわかりませんし……胸がいっぱいで」

「はい?」

「いえ、なんでも。ともかく私は今、お腹がぺこりんです。大町さんの料理の腕前は動画で拝見しておりますので……厚かましいのは重々承知ですが、期待してもよろしいので?」

「人に振舞えるほど大した腕前じゃないけど……」

 そう言って僕は冷蔵庫を開ける。ええっと……アレと、アレと……ああ、これもあるのか。

「城ケ崎さん、好き嫌いある?」

「仮にも栄養士を目指すものですよ?」

「それは無いって事で良いんだよね?」

 僕の言葉にこくりと頷いて見せる城ケ崎さん。よし。それなら――


「――朝御飯、久しぶりにアレにするか」


 簡単ながらも結構美味しくて……そしてちょっとだけ、オシャレに見える『アレ』を思い出し、僕は一人ほくそ笑んだ。


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