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第二話 百貫デブと家出娘


 高校から始めた一人暮らし。1DKの部屋で僕はいつも通りにテーブル越しにカメラをセットし、スタンバイ。心の中でカウントを始める。3、2……


「――はいどうも~。一億三千万人のWeTubeファンの皆様、おはこんにちばんは! 今日も元気だご飯が旨い! 百貫デブことタカアキでーす。本日も始まりました、『たかあきず・いーてぃんぐ』! 本日はですね~……なんと!」

 机の上にドン、と買って来たからあげさんを置く。



「――ロースンのからあげさん、全部買い占めてみた~」



 パチパチパチパチ~と自分で手を鳴らす。うん、此処は後で編集だな。


「――はい、ということでね。ロースンのからあげさん、全部買い占めてみました! 全部で三十個ですね。僕が良く行くロースンでは僕の為にわざわざからあげさんを大量に置いておいてくれているので、こういう企画も出来るかと。普通、ロースンのホットスナックコーナーにからあげさん三十個とか置いてませんので! いや、さすがジロースン! 企業案件、待ってます!! まあ冗談はともかく、今回このからあげさんを全部食べていくんですが……ああ、全部といってもいくつかはアレンジ料理にして行こうと思ってますので! 詳細はサブチャンネルの『たかあきず・きっちん』で! ただ食べるだけでは面白くないですので、今回はタイムアタック形式の実験動画! 題して、『百貫デブと行く! ロースンのからあげさん、二十五袋を食べるのに何分かかるか!』をやって行こうと思います!!」

 そう言って僕はスマホを取り出して机の上に置く。タイムアタックなので、分かりやすい様にストップウォッチを使って……

「それでは……ゴー!」


◆◇◆


 僕がWeTubeを始めたのは高校入学と同時、一年生の春だ。理由は簡単、元々食べる事が好きだった僕は高校入学と同時に始めた一人暮らしのせい――というかお陰で、好きなモノを好きなだけ食べる事が出来るようになり……まあ、単純に食費が家計を圧迫してきたのだ。元々僕の一人暮らしに反対だった両親に、『食費が足りないので仕送りして下さい』とも言えず、途方にくれていた僕が見つけたのがWeTubeだった。そこで見た大食い動画が結構な再生数を誇っており、その動画の収益が結構馬鹿にならないと聞いたので一念発起して始めた、という訳だ。最初こそ再生数も付かず、悩んではいたが……最近ではそこそこ再生数もつき、まあ、食費問題に関してはなんとかなりそうな感じではある。サブチャンネルとして始めた料理系動画の方が再生数が上がっている事に若干、もにょっとしたものを覚えるが……まあ、良いという事にしておこう。

「……ふう。こんな所かな?」

 今日撮った動画を編集してアップした僕はパソコンを閉じる。今日は金曜日であり、遅くまで編集も出来るので中々にクオリティの高い動画が出来た。人知れず満足していると、不意に僕のお腹が『ぐー』っと音を立てて鳴った。

「……お腹空いたな」

 からあげさんを二十五袋食べた人間とは思えないセリフが自身の口から飛び出した事に思わず苦笑。でもまあ、ある意味では仕方ない。だって、減るものは減るもん。

「……弁当でも買いに行こうかな~」

 明日用に取っておいたからあげさんでも食べようかと思ったけど、思い直して弁当を買いに行くために財布をポケットに突っ込んで部屋の外に出る。今更気にしてもしょうがないけど、カロリー消費の為にですね?

「……やっぱりお米食べないと食べた気しないしね」

 ……うん。やっぱり日本人は白米だよね! どんなに美味しいお肉食べても、やっぱり白米食べないと食べた気がしないって云うか……

「……あれ?」

 ジロースンに着いた僕は車輪止めに座って空を見上げる美少女の姿を見た。おいおい、放課後から既に五時間くらい経つのに、まだ居たの、城ケ崎さん。

「……」

 ……何してるんだろう、と気にはなる。なるが……まあ、面識もない、一方的に知ってるだけの僕が話しかけるのはちょっと、だろう。そう思い、ロースンに入る。

「いらっしゃ――って、隆明君? なに? からあげさんならもう無いよ?」

「違いますよ。流石にからあげさんばっかりじゃ飽きるんで、ちょっと口直しに弁当でも買おうかと」

「……からあげさんの口直しにお弁当って、なんかおかしくない? って云うか、もしかして全部食べたの、あの量?」

「いえ、五袋ほど残してますけど」

「……誤差の範囲じゃん。殆ど全部じゃん。なに? もう動画、上がってる?」

「上げてますよ。再生回数、ご協力お願いします」

「まあ、見るだけだから別に良いんだけど……っていうか、ちょっと心配になるよ? 流石に食べ過ぎじゃない?」

 心配そうな視線を向けて来る結衣さんに曖昧な笑顔を返し、僕は弁当コーナーへ。ううん……そうだな、これなんかどうだろう?

「おねがいしまーす」

「……からあげさんあれだけ食べて食べるお弁当が唐揚げ弁当って……揚げ物、どれだけ好きなのよ?」

「まあ、揚げ物は正義なんで。あ、後、肉まん貰って良いですか?」

「……いいけど……まあ、あんまり食べ過ぎないようにね」

 会計を済ませてあきれ顔の結衣さんから袋を受け取ると、僕はそのまま店を後にする。夜空に星が瞬く、綺麗な夜。そのまま、視線は先ほどの車輪止めに向かうと――


「……おうふ」


 先ほどまで座っていた車輪止めに城ケ崎さんは座って居なかった。否、正確には座っては居なかったけど、立っていた。

「お姉さん、美人だね~。どう? 俺と一緒にカラオケでも行かない?」

「……結構です。人を待っていますので」

「嘘ばっかり~。さっきから見てたけど、一時間ぐらい、此処でぼーっとしてたじゃん」

「……一時間も前から見ていたのですか? ストーカーか何かで?」

「ち、違うって! たまたまだよ、たまたま! ほら、あの車、俺のだからさ? あれで遊びに行こうぜー」

 ……ナンパされていました。心底イヤそうな顔を向ける城ケ崎さんに、ナンパ男も気が付いたのか、少しだけ語気が荒くなる。

「……おい。折角俺が誘ってんだよ! 行こうぜ!!」

「……別に頼んでいませんので。それと、あまり近くに寄らないでくれますか? その……匂いますので。口が」

「……てめぇ!」

 逆上した男が手を振り上げる。まず!

「ちょ! だ、ダメですよ!!」

 思わず走り寄り、男の手を取る。その僕の行動に、男が目を剥いてこちらを睨んで来た。

「なんだ、このクソデブ! 邪魔すんな!!」

「いや、暴力は不味いですって! 穏便に、穏便に!!」

「すっこんでろ、ゴラァ!!」

 掴んでいた手を振りほどこうとする男の手を必死に掴む。と、男の顔が苦痛に歪む。

「いてぇ! 何しやがんだ、お前!!」

「ご、ごめんなさい! ちょっと、力加減が!!」

 や、やば! 思わず思いっきり握ってしまった!! 慌てて男から手を離すと、男は僕から離れて握られた手をさすっている。

「……なんだよこのデブ……気持ち悪いな」

「す、すみません。僕、ちょっと握力が人より強いので……」

 慌てて頭を下げる僕に、薄気味悪いものを見た様に男が後退って。


「……っち。なんかサめたわ」


 そう言って車に乗って乱暴にドアを閉めたと思ったら、急発進で走り出す。あ、危なかった……喧嘩、いくない!

「……あの」

 ほっと胸を撫で降ろしていると、後ろから声が掛かる。ああ、そうだ。すっかり忘れてた。

「ええっと……怪我はありませんか?」

「ええ……貴方が助けてくれたので。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。でも、もう夜も遅いですし、そろそろ帰った方が良いのではないですか?」

「……」

「ええっと……」

「……ふふふ。なんで敬語なんですか? 同じ学年でしょう?」

「……へ?」

「違いましたか? 折が丘高校二年、大町隆明さん、ですよね?」

「え、ええっと……そ、そうですけど……知ってるんですか、僕のこと?」

「知っていますよ、勿論。ああ、自己紹介がまだでしたね。私は城ケ崎。城ケ崎茉莉、と申します。折が丘高校の二年生です」

「ええっと……すみません、知っています」

「あら? 存じ上げて頂いたのですか? ふふふ……嬉しいです」

「……」

 いや……存じ上げては居ましたが……

「……っていうか、なんで僕の事を知っているんですか、城ケ崎さん?」

「……僕、ですか」

「へ?」

「なんでもありません。そうですね。では逆にお聞きしますが、大町さんはなぜ、私の事をご存じなので?」

「それは……城ケ崎さん、有名ですから」

「なら、同じように返しましょう。貴方は有名人ですから、大町さん?」

 ……へ? 僕、有名人なの? なに? 百貫デブとかで?

「……そうなの?」

「まあ、知る人ぞ知る、という感じではありますが。それでも有名ですよ、大町さんは……一部では」

 ……まあ、言われて見ればそうか。動画とかも顔だしで上げているんで、知っている人は知っているか。

「……そう。ともかく、良かったよ。怪我が無くて。それで、そろそろ帰った方が――」

「……帰れないのです」

「――良いんじゃ……へ?」

「……実は父と喧嘩をしてしまいまして。『そこまで我儘を言うなら、もう知らない』と言われまして……」

 ええっと……

「……家出?」

「有体に言えば」

 ……ええー……

「なので……ご迷惑を承知で、一つお願いできないでしょうが?」

 胸の前で両手を組んで、うるうるとした瞳で。



「――今日、大町さんの家に、泊めて頂けないでしょうか?」



 ………………は?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 途中に出てきた「存じ上げて頂いた」ですが「存じ上げる」は謙譲語ですので、 主人公が城ヶ崎茉莉という人物を知っていたことに関して、 城ヶ崎さんが発言する際に「存じ上げる」と言うのは適切で…
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