第十二話 新米WeTuber、『まつりん』!
「……はい、どうもおはこんにちばんは! 今日も元気だご飯が旨い! 百貫デブことタカキでーす。さーて本日も始まりました、『たかあきず・きっちん』! さて、先日のメインチャンネルを見て下さった方なら分かると思いますが……そうです! 本日はロースンのからあげさんを使った料理を紹介していきたいと思います……と、言っても! 皆さんご存じの通り、僕のチャンネルではそんなに手が掛かった料理は作れませんので……今回はスペシャルゲストに登場して貰いましょう! はい、画面の向こうの皆様! はくしゅー!」
皆を煽る様に僕はカメラに向かって手を叩きながら三脚に固定したカメラまで移動。普段はした事のないハンディでカメラを構えると、ダイニングに向けてレンズを向ける。
「……どうも皆様、初めまして。愛しのあの方に作る料理は楽しい。た、タカアキさんの……ちゅ、忠実なメイド、『まつりん』です。以後、宜しくお願いします」
金髪ロングのウィッグに、青いカラコンを付けた城ケ崎さんがスカートの端を摘まんでちょん、と頭を下げる。優雅としか形容しようがないその動作に、思わず見惚れてしまう。
(……たかぴー、セリフ、セリフ!)
僕の後ろに居た田中さんの言葉で思わず我に返る。や、やば! 完全に意識飛んでた!
「は、はい! という事で! 今回、この動画のアシスタントをしてくれることになりました『まつりん』さんです! 『たかあきず・きっちん』初のゲストをお迎えしての今日の企画は……さっきも言いましたね! そうです、ロースンのからあげさんを使った『からあげ丼』作成になります! まあ、からあげ自体はありますので今回はからあげ丼の『タレ』作成がメインになりますね! 時短料理という事で皆様、家でお手軽に作ってみて下さい! それじゃ、キッチンに移動しましょう! じょ……ま、まつりん! 行きましょう!」
「は、はい!」
普段は固定カメラ、という事もあり僕は移動の段階では一度カメラを切って移動した後に撮影を行っている。が、今回は田中さんの『出来るだけノーカットに出来るように長回しで撮ろう』という意見を取り入れ、カメラを持ったまま移動して、キッチンに新たに置いた三脚にカメラを固定した。ちなみにこの三脚、『実家にゴロゴロあるから、今の家に持ってきてたんだ。こんな事もあろうかと思って!』といって例のキャリーバックから取り出した田中さんの私物だったりする。
「さて、それでは作っていきましょうか! 先程も説明した通り、メインの食材は既に出来ていますので、今回は調味料とキャベツ、それと卵を用意して下さい」
「用意した材料がこちらになります」
「醤油、砂糖、みりん、料理酒ですね。ちなみに『みりん』と『料理酒』は未成年では買えない! なんて意見がありますが……全然、買えますので」
「そうなのですか? 私、未成年の間はみりん『風』しか買えないのかと思っていました。みりんは酒税法上、お酒ですし……法律違反にはならないのですか?」
「グレーゾーン、と云うのが正しいかな? 未成年者飲酒禁止法では『飲用であること』を知って販売するのは禁止されている、という事なので……裏を返せば、飲用じゃなければ買える、という事になっています」
「そうなのですね……知りませんでした」
「……まあ、料理酒はともかく、みりん、いわゆる『本みりん』は高いからね。僕は安いみりん風を使っていますが。味にそこまで拘りが無かったら、別にみりん風でも構いません」
そう言って肩を竦める僕に、城ケ崎さんがクスリと笑って補足を入れてくれる。
「もし、お金に余裕があってお料理が好きな方なら食材に合せて変えてみるのも面白いかも知れませんよ? 適した料理がありますので」
「そうなの?」
「はい。みりんはアルコール分を含みますので、しっかり火にかける料理が適しています。煮物などはみりんの方が深い味が出ますよ。アルコールが食材に染み込む際に、一緒に入れた調味料の味も一緒に染み込ませてくれます。煮崩れもしにくいですので。逆に、みりん風はアルコールが入って無い分、加熱しない料理に適しています。また、糖分が多く入っていますので、『てり』とか『つや』などをより出したい場合はみりん風の方が良いですね」
「へぇ」
「……此処まで説明しておいてなんですが……私は基本的にみりん派ですけどね」
「そうなんだ。なんで? やっぱりみりん風は偽物っぽい感じがしてるとか?」
なんとか『風』っていうとオリジナルじゃない! って忌避感持つ人もいるし。言い方あんまりだけど、城ケ崎さんってお嬢様だし、そう云った拘りがある人なのかな? そう思って視線を向ける僕に、城ケ崎さんはゆっくりと首を左右に振って。
「いえ。単純に……みりん風の方が、太ります」
……無茶苦茶女子高生っぽい意見だった。
「そ、そうなの?」
「はい。カロリーは然程差がありませんが、糖質とGI値がみりん風の方が高いんです。そうなると必然、体型維持にはみりんがベストです!」
「……な、なるほど」
「だから……タカアキさんもお気を付けて下さいね」
「あー……うん。百貫デブの僕が今更糖質気にしてもあれな気もするけど……ダイエットした方が良い?」
「い、いえ! た、タカアキさんの今の大きな体もクマさんの様で安心感があると言いましょうか、包容力があると言いましょうか……と、とても魅力的なのですが……そ、そのですね? やはり、太るとどうしても健康には良く無いので……」
「あ、ああ! 体の心配? そ、その……あ、ありがとう! やさしいね~、まつりん!」
や、やるな、城ケ崎さん! 田中さんの言っていた『ご主人様大好きメイド』を実践している――
「いいえ」
――は、はれ? 『いいえ』?
「そ、その……勿論、お体の心配もしていますが……タカアキさんが、その、た、倒れたり、病気になってしまうと……」
私が、悲しいです、と。
「だ、だから……優しいなんて、そんな理由じゃ無いんです。ただ……貴方に元気でいて欲しいっていう……」
ただの、わがまま、です、と。
「……元気なタカアキさんの隣にずっと居たいと思ったら……だめ、ですかぁ?」
……反則だろう、これ。
潤んだ瞳でこちらを見つめる城ケ崎さんに、息を呑んで――視線の隅っこで親指をグッと上げる田中さんに、胸中で大きなため息を吐いた。




