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第十一話 新製品が……じゃなかった、電気のこと……でもなかった、たなーかでんき!


「にしても……」

『ご、ご主人様大好きメイドなんて無理です!』と言っていた城ケ崎さんに軽く耳打ちし、『ご、ご主人様呼びは恥ずかしいので……せ、せめてタカアキさんで……』と妥協を引っ張り出した件の人、現在はスマホをいじっている田中さんにコーヒーを出しながらそう話しかける。『ん?』なんて目線だけこちらに向ける田中さんに僕は言葉を継いだ。ああ、ちなみに城ケ崎さんは隣の部屋でメイド服にお着換え中である。

「……凄い本格的だったね、あのメイド服」

「ああ、あれ? 安くはないかもね~。私、結構凝り性だからさ? 縫製荒い服とかあんましなんだよね~」

「そうなの? まあ、確かにあのメイド服、造りがしっかりしている感じはあったけど……」

「お? メイド服、詳しいの? オタク? デブだし?」

「……デブのWeTuberがオタクだと思うの偏見あり過ぎじゃない?」

「じょーだんだよ」

 ケラケラと笑う田中さんに小さくため息。

「……っていうか、それなら田中さんこそ意外なんだけど」

「私? 何が?」

「その……コスプレってさ? どっちかって言うとギャルとの親和性が著しく低い様な感じがあるんだけど」

 偏見も無い訳じゃないが……こう、あんまりギャルがコスプレをしているイメージはない。まあ、隠れオタクな可能性はあるが。

「? ああ、そういう事? それは発想が逆だよ、たかぴー」

「発想が逆?」

「私はコスプレの好きなギャルじゃないよ?」

「……そうなの?」

 なのに、あんな高そうなメイド服持ってるの? え? それって逆にちょっと怖いんだけど。なに? もしかして、城ケ崎さんに着せる為に買ったとか?

「そもそも前提条件が違うの。私は、別にギャルじゃないし」

「……へ? どっからどう見てもギャルにしか見えないんだけど……なに? 哲学かなんか? ギャル思う、ゆえにギャルあり、みたいな?」

 遠めでしか知らないが、明るい金髪に短めのスカート。学校で見る田中さんは何処からどう見てもギャルにしか見えないのだが……

「アハハ。なによ、哲学って。たかぴー、結構面白いじゃん。じゃなくて……私はただ単純に『コスプレ』してるだけなの」

「はい? コスプレ? なんの?」

「ギャルの」

「……」

 …………は?

「私って、こう見えてそこそこ『お嬢様』だったりするんだよね~」

「……ああ」

 なんか言ってたな、それ。城ケ崎さんが。

「なんか厳しい家庭に反発して、一人暮らししてるとか聞いたけど……」

「茉莉から?」

「ええっと……うん」

「まあ、厳しい家庭じゃ無かったって言うと嘘になるし、一人暮らしに漠然とした憧れがあったから我儘言って一人暮らしさせて貰ってるけど……どっちかって言ったら実地訓練かな?」

「実地訓練?」

「今度、ウチでもサブカル系の事業に力入れようって話になっててね。家業と親和性も高いっちゃ高いし。だから、『現役女子高生』である私が実験台としてコスプレしてるってカンジ」

「……なんかとんでもない話じゃない、それ」

 若干、ネグレクトの気配すら漂うのだが……

「ま、私一人娘だし? 何時かウチの会社も……どうなるか分かんないけど、継ぐことになるんじゃないかなって。そうじゃなくても個人筆頭株主だし、ウチのパパ。何時かは私が経営にも口出す事になるかも知れないでしょ?」

「……まあ」

「実地で経験があるのと無いのじゃ結構違うからね~。ま、半分は趣味だけど実益も兼ねてるカンジ? コスプレ、結構楽しいよ? なんか違う自分になれるみたいで」

「……」

「ま、趣味と実益兼ねてるのはたかぴーの動画と一緒だよ」

「……なるほど」

 まあ、分からんでもない。僕だってやってみるまではWeTuberは好きな事して楽にお金を稼いでるってって思ったけど……実際やってみると結構大変だしね。

「なんで、私は『ギャル』のコスプレして学校に通ってるってこと。さっきも言ったけど、やってみると結構楽しいんだよね、コレ。私、中学校までは黒髪パッツンのもっさい女子だったんだよ? 今度、写真見る?」

「ちょっと興味あるかも」

「まあ、茉莉がいる以上はちょくちょくお邪魔する事になると思うし、持ってきてあげる。中学時代の茉莉も可愛いよ~? 見たいでしょ?」

 ウリウリ、と肘で僕のわき腹を小突く田中さん。痛いって。

「それじゃそれも楽しみにしておく。それで……これって聞いても良いのかな?」

「物によるけど、なに? スリーサイズは絶対ダメだよ? 特に胸!」

「そんなに堂々とセクハラ出来ません。そうじゃなくて……実家って、何してるの?」

『コスプレ』と親和性が高い家業、って云うのは若干気になる。田中さんも言ってた通り、きっとサブカル系の事業の気もするのだが。

「ああ、実家? 知らないかな? 多分、たかぴーも行った事あると思うけど」

「行った事ある? え? 実家の家業ってこの辺なの?」

「この辺にもある、が正しいかな? 結構色んな所にお店あるし」

 そう言って田中さんはコーヒーを一口。



「タナカ電機って家電量販店、知らない? あれ、ウチの実家」



「……」

「……たかぴー?」

「……新製品が安い?」

「それはワイズデンキ」

「電気の事なら」

「それはバディオン」

「……たなーかでんき!」

「それそれ。さっき、玄関にウチのお店の紙袋置いてあったでしょ? だから、利用した事あるのかなって思ったけど……無かった?」

「……むしろ一番、お世話になっております」

「そう? それはどうも、ありがとうございます」

 ……マジか。いや、だがまあ、そうか。なんと言ってもあのスーパーお嬢様である城ケ崎さんの幼馴染だ。一般人なワケは無いか。きっと、お金持ち御用達の学校に通ってたんだろうし。

「でも……それじゃ、なんで田中さんも城ケ崎さんも折が丘に通ってるの? 私立の女子高とかじゃないの、普通?」

「あー……」

 僕の言葉に少しだけ困った様に眉根を寄せる田中さん。あ、まず。

「ごめん、無神経だった。忘れて」

「……いや、そんなに謝って貰う事じゃないよ。事情はあるけど……まあ、私から言える事じゃないからさ。茉莉が話しても良いって言ったら良いんじゃない?」

「城ケ崎さんが?」

「そうそう。良かったら本人に聞いて見たら?」

 そう言って親指で僕の背後を指す田中さん。その指先に釣られる様に、視線をそちらに向けて。



「――は、恥ずかしいですが……ど、どうでしょうか……そ、その……た、タカアキさん?」



 クラシカルなロングスカートのメイド服を着た城ケ崎さんが、そこには立っていた。




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