第十一話 田中さんの提案
すったもんだ――という程、大した流れが有った訳ではないが、ボンデージでの撮影はNGとなった。城ケ崎さんが恥ずかしがったと云うのもあるし、僕の辛抱が堪らなくなるという理由もあるのだが……
「……一応、僕の動画って健全な動画だからさ? いかがわしいのはちょっと……」
こういう事である。コンテンツ的にどうよ? と云うのが一番大きな理由ではある。えっちな動画じゃないしね、ウチ。
「あーね。カテエラか~」
「カテゴリーエラーってワケじゃないけど……まあ、そんな感じで捉えて貰えたら」
ちなみに田中さんとの会話から既に敬語は抜けている。最初こそ、敬語を継続使用していたのだが『っていうかたかぴー、敬語ウザい』と言われてしまったので、普通に話をしている。
「ま、そういう理由なら仕方ないね~」
「折角用意して貰ったのにアレだけど……ごめんなさい」
「ん、気にしないで。私が勝手にやった事だし」
そう言ってひらひらと手を振って見せると、田中さんはキャリーバックを開けてボンデージを仕舞う――
「――んじゃさ? これなら良くない?」
――事無く、新たな服を取り出した。ええっと……
「……メイド服?」
「そ! メイド服!! 若干、背徳感はあるけど、これならギリいけるっしょ!」
にっこり笑ってそういう田中さん。いや、まあ、ボンデージに比べれば相当マシだとは思うけど……
「……でも、メイド服って」
「ま、ぶっちゃけさっきのボンデージは半分冗談。真打はこっちだよ!」
「半分なんだ、冗談」
「面白そうだしね。茉莉の照れた顔見るのも」
『美香!』なんて声を上げる城ケ崎さんを華麗にスルーし、田中さんは言葉を続ける。
「……茉莉と私は幼馴染で親友なワケよ」
「……どうしたの、急に」
「黙って聞く。だからまあ、一緒に居る機会は多いし、そうなってくるとたかぴーの動画も見た事あるってワケ」
「……なるほど」
「ちなみにチャンネル登録もしてる」
「それは……どうも」
助かります、ハイ。
「ま、私は大食い系WeTuberあんまり知らないけど……他のWeTuberは良くやってるじゃん。コラボ動画」
「まあ……うん」
僕はWeTube界隈に知り合いは居ない。事務所に所属している訳でもないし、完全に個人でやっているからと云うのもあるが、コラボする程親しい人も、またコラボ依頼が来るほどの人気者でもないのだ、ぶっちゃけ。
「んで……ちょっと、真面目な話して良い?」
「どうぞ」
「茉莉の居候云々はともかく……最近、たかぴーの動画見ているマンネリ化してるな~って思うんだよね」
「……」
「ショック?」
「いや……確かに」
「それでいい、と思っている訳では?」
「当然、無いよ。一応、生命線でもあるし。文字通り」
田中さんの言う通り、最近再生数の伸びは芳しくはない。投稿内容がご飯食べてるか、ご飯作ってるかだしある程度、宿命的なものでもある。まあ、それを面白く見せる人もいるんで、コレは僕のレベル的な問題でもあるんだが。
「だったらさ? 折角美少女たる茉莉が出るんだよ? この子の魅力を活かしつつ、その上でたかぴーにメリットのある事って何かなって考えたんだ」
「……それがメイド服?」
「そ。折角だし、料理を作るたかぴーのサポートをしたら良いんじゃないかって。ま、お手伝いだね。そのお手伝いを美少女メイドさんがするって……どう? 再生数的に伸びそうな気がしない?」
「……まあ、悪くないかも」
美少女のアップだけど再生数稼ぐ動画もあるしね。加えて、メイド服嫌いな男子って……偏見込みで言うけど、居ないし。でもさ?
「……それってヘイトが堪らない?」
「ヘイト?」
「だって城ケ崎さんってちょっと見ないレベルの美少女なワケでしょ? そんな可愛い子が、僕の動画に出てお手伝いって……」
「……か、可愛い……あ、あの、大町さん!! そ、その様な評価は……と、とても嬉しいのですが! きゅ、急にそんなに褒められると、心臓にわる――」
「茉莉、煩い。照れるなら他所で照れて」
「――……イケず」
少しだけしゅんとして黙り込む城ケ崎さん。うん、可愛らしい。
「ま、確かにある程度のアンチやヘイトも溜まるけど……でもさ? たかぴーの場合、そんなに心配ないかなって思うんだよね」
「そうなの?」
「うん」
「根拠は?」
「たかぴー、自分の事イケメンだと思ってる?」
「毎朝鏡、見てるんだけど?」
そして鏡にはデブっとしたお腹の僕が映るんだけど。どこをどう見てイケメンだと思えと?
「たかぴーには悪いけど……ま、たかぴーはイケメンじゃないよね。顔自体はそんなに悪いとは思わないけど、体型がね~」
「……まあね」
「客観的に見て下の上、ちょっと甘めの採点で中の下、くらいの評価だよね、たかぴーって」
ズバズバという田中さんだが……別段、腹も立たない。確かにその通りだし。
「それで?」
「これは私の持論なんだけど、一番ヘイトが溜まるのってさ? ステージが一つ上の人と絡んだ時なんだよね」
「……ステージ?」
「んー……例えばさ? 無茶苦茶イケメンの男の子と、無茶苦茶美少女の女の子のカップルがいたら……ヘイトって溜まりにくいんだよね。美男美女とかお似合いって言われるんだよ」
「……確かに」
「その逆もしかりで、そんなに格好良くない男の子とそんなに可愛くない女の子でもヘイトは溜まりにくい。でもさ? フツメンぐらいの男子が、絶世の美少女と……『中』のランクと『上』のランクが付き合ってたら?」
「……ああ、なるほど」
確かにそれは『イラっ』と来るかも知れない。勿論、顏が全てではないが、そんなもの第三者には分からないし。
「さっきも言ったけど……ごめんね? たかぴーって現状では『下』のランクだと思うんだよ。少なくとも、一目で惚れちゃう! って容姿はしてない」
「まあね」
「逆に、茉莉は間違いなく『上』のランクに入る。これって結構面白くて……ステージが二つ上の人と絡むとね? 溜まるのはヘイトじゃなくて『驚き』なんだよ。美女と野獣って聞いた事あるでしょ?」
「……あるね」
「だからまあ、たかぴーと茉莉が動画に一緒に出てもそんなにヘイトは堪らないかなって思うんだよ。美女と野獣的な驚きはあるだろうけど」
「美女とデブ、的な?」
「そうそう! あ、そうだ! 折角だからキャラ付けしようよ!」
「キャラ付け?」
「うん!」
そう言って田中さんはニヤリと笑い。
「――茉莉のキャラはさ? 『ご主人様、大好きメイド』とか……どう?」




