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幕間 田中さんの独白

今回は城ケ崎さんの親友、田中さん視点です。田中さんはギャルながらおかんみたいな人です。


 私の名前は田中(たなか)美香(みか)。折が丘高校二年三組に通う普通――と言うにはちょっとだけギャルよりな、女子高生だ。とても面白い事がある訳でもない、さりとてつまらない事ばっかりでもない毎日の生活を送る私に、幼馴染で親友である(じょう)崎茉莉(さきまつり)から電話が掛かって来たのは金曜日の四時過ぎの事だった。

「どったの、茉莉?」

『どったのじゃありません! 聞いて下さい、美香!!』

 茉莉は日本でも有数のコングロマリット、『城ケ崎グループ』のご令嬢だ。小さい頃から清楚系お嬢様であり――そして、年を経た今、グラマラスなボディまで手に入れてらっしゃる。親友じゃ無かったら嫉妬の炎で包まれただろう。その脂肪、お腹に行け、と。

『お父様ったら酷いんです!!』

 茉莉からの電話の内容を聞いて私はそう判断を下した……訳ではない。幼馴染である私にとって、茉莉のお父さん、おじ様は言ってみれば『一番よく知ってる、おじさん』という認識だ。日本有数の企業集団のトップなだけあって、厳格な人だけど……使用人さんを『下女』っていう様な人じゃ無かったはずだ。これ、きっと茉莉が勘違いしていると思う。茉莉、たまにポンコツだし。

「あー……それはおじ様が悪いね」

 とはいえ、今の茉莉に言ってもあまり意味が無い。熱くなってる茉莉が私の言葉を聞く訳も無いし……はぁ。仕方ないか。

「……それじゃどーする? ウチにでも泊まりくる? 明日土曜日だし」

『……』

「茉莉?」

『そ、その……美香、お願いがあるんですけど……』

「お願い?」

『そ、その……美香には本当に申し訳ないと思うんですが……あ、アリバイ工作にお付き合い願えないかと』

「……はい?」

『み、美香は知っていますよね!? そ、その……た、隆明さんがこの近くにお住まいなのを!!』

「……隆明さんって……ああ、たかぴー?」

『隆明さん』とは純粋培養だったお嬢様である茉莉の初恋の人だ。中学校に上がったばかりの頃に出逢い、爾来五年、ずっと片思いしている相手である。出逢いから今に至るまで、耳にタコが出来る程聞かされたエピソードを思い出して若干、げんなりする。そりゃ、私も『たかぴー』なんてあだ名で呼んだりするってもんだ。

「知っているも何も……アンタ、ストーカー並みに情報調べ上げてたじゃん。私はあの時、城ケ崎グループの本気を知ったよ。怖いよ、城ケ崎グループ」

『す、ストーカーは酷くありませんか!? そ、その……まあ、進学先とかは調べましたけど……そ、それだけです!』

「……ま、良いや。それで? たかぴーがどうしたの?」

『そ、その……わ、私も五年間、片思いを拗らせ続けました。もうそろそろ、限界に近いんです!! 隆明さんとお喋りしたいんです!! もっと、仲良くなりたいんです!!』

「……」

 まあ……そうだろうね。茉莉は出逢ってからこっち、ずっと『隆明さん、隆明さん』と言い続けている。出逢いを聞く限り、向こうはたぶん、覚えてないだろうけど……って、まさか。

「……ねえ。もしかしてと思うけど……たかぴーの家に転がり込むつもり?」

『流石、美香! その通りです!!』

 ……眩暈を覚えた。

「アホか! 華の女子高生が何考えてんのよ!? 危険だよ、茉莉!! 止めときなさい!!」

『き、危険ってなんですか!!』

「たかぴーだって男のだよ!? アンタにとっては白馬の王子様から知れないけど、普通に考えて男子高校生の家に女子高生が転がり込んで何にも無いと思ってるの!?」

『隆明さんはそんな事しません!! あの時だって見返りを求めずに助けて下さったんですから!』

「そりゃそうかも知れないけど……でもね?」

『美香の懸念は分かります』

「……」

『ですが……もしかしたら、美香にとっては『何を馬鹿な』と思われるかも知れませんが……それでも私は隆明さんともっと仲良くなりたいんです。その……そ、そういう事があっても、後悔しないくらいに……た、隆明さんが……』

「……はぁ」

 まあ、正直『恋に恋する』という状態に近い事は明白である。このままでは茉莉が傷付く事になる、というのも、分かり過ぎるくらい、分かる。



「……分かったよ。アリバイ工作、引き受けて上げる」



 ――と、同時に此処で『動かない』を選択すると茉莉が今以上に後悔し、傷付く事になるのも分かる。なんせ中学一年からずっと『隆明さん、隆明さん』と言い続けて来た茉莉だ。おじ様と喧嘩した『勢い』もあるだろうが……私たちはまだまだ子供の高校生、勢いに身を任せるのも良いのかも知れない。

『本当ですか!?』

「アンタがずっとたかぴーの事好きだったの知ってるしね。このまま初恋拗らせてガチのストーカーになって貰っても困るし……当たって砕けて来たら良いんじゃない?」

『あ、ありがとうございます!!』

「ただし! たかぴーに断れたらすぐに止める事! たかぴーの迷惑になる事はしないようにね! この約束は守りなさいよ?」

『はい! 私だって隆明さんのご迷惑になる様な事はしません! た、ただ……その、お、お願いくらいはすると思いますが……』

「まあ、ぐいぐい行くな、とは言わない。でも、本当にたかぴーが迷惑そうにしていると思ったら直ぐに諦めるんだよ? その辺り、茉莉は出来る子だって信じてるからね?」

『はい!』

「断られたら直ぐにウチにおいで? 間違っても『神待ち』とかしたらダメだよ? アンタ可愛いんだから、ホイホイ男が寄って来るよ」

『神待ち?』

「家出してる女の子を泊めてくれる『カミサマ』がいるのよ」

『そんな奇特な方がいらっしゃるので?』

「……カミサマって言っても肉欲のカミサマだけどね。まあ、そうなったらアンタも傷付くだろうし、直ぐに私の家か、自分の家、どっちかに帰る事! いいね?」

『? ……っ!! そ、そんな人の家には行きません!! そうなったら美香の家にお邪魔させて貰います!!』

「ん、よろしい。それじゃまあ、頑張っておいで。骨ぐらいは拾って上げるから」


『はい! ぜひ、健闘を祈っておいてください!!』


 まあ、正直この時は失敗したら慰めてあげようと思っていたのだが……私は、少しだけ茉莉の事を舐めていた。っていうか、ちょっと忘れてた。


 ……本気になった茉莉は、結構ぐいぐい行くやつであるという事を。



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