表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 中井田知久
4/5

神を信じるか?

僕は耐え切れなくなって、彼女の方を向いて言った。

「君の気持ちはわからなくないけど、僕になんて言ってほしい。なんで僕」

彼女の顔は血の気を失い、真っ白になっていた。そして、彼女はぼそっと言った。

「別になにも求めていない」

彼女は煙草を吸って言った。煙が夜空に広がっていった。

「じゃあ、ここからどっか行って。ちょっと眩暈がする」

僕は、吸っていた煙草を足で揉み消しながら、彼女に言って、首から下げていたイヤホンを付けようと耳元まで持っていった。彼女は急に僕の手を掴んで、イヤホンを耳につけるのを阻止した。女の子とは思えない握力だった。驚いて、彼女の方を向いた。彼女の顔は無表情のままだった。

「じゃあ、あなた神を信じる?」

「は?」

「神を信じるかって聞いてるのよ」

彼女は僕を突き放すかのように言った。彼女の顔をみると、顔がだんだん異様さを帯びてきていた。彼女は無表情のままだったが、目は目尻に向かって引きつり上がっていて黒目は輝きを失い、平板になっていた。口元はうっすらと微笑んでいた。顔は血の気を失い、真っ白になっていた。

「キリストの復活は? 仏陀の輪廻転生は? アラーは?」

「わからない」

僕の心臓はもう外に聞こえそうなくらい高鳴っていった。

「じゃあ、あなた資本主義者? 共産主義者?」

僕は彼女から目を背けたかった。歩いている人に助けを求めたかった。でも、僕はもう、彼女の瞳から目を背けることが出来なかった。彼女の瞳は真っ黒でブラックホールのような吸引力で僕を捉えて離さなかった。

「資本主義者だと思う」

思考回路は止まったまま、僕は漸く言葉を発することが出来た。

「資本主義はもうとっくに崩壊してるのよ」

僕の何かが壊れた音がした。世界がゆっくりと回転しだした。まわりのネオンの光がチカチカと点滅しだした。僕の周りには人がいなくなった。辺りは静寂と化した。地面の感覚が無く、僕の足は震えた。僕は奈落へ落ちていくように思った。

 

突然、僕の目の前を蝶々が横切る。そして、黒い羽根を羽ばたかせ蝶々が暗い夜空へと羽を綺麗に飛んで行く。僕は釣られて、蝶々の行く先を見つめたと同時に、彼女の目から僕はやっと背けることが出来たことに気付いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ