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  作者: 中井田知久
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火、貸して

やっと、ひっかけ橋に辿り着いた時には、七時半になっていた。繁華街のテカテカしたネオンの看板は変わっていなかった。向かいのビルの一階にはスターバックスがはいっていた。僕は、スターバックスでコーヒーでも飲もうかと思ったけど、喉も渇いてなかったから止めて、新しい煙草に火を付けて橋の欄干にもたれかかりながら、辺りを見回した。女子高校生、サラリーマン、男子高校生の順で、僕の目の前を通過する。次は男子高校生、女子高校生、サラリーマンの順だ。途中で馬鹿らしくなって、ふと自分の足下を見た。汚れた黒いワンスターの足元に白い蝶々が歩いているのを見つけた。iPodの曲がエアロスミスからビートルズの「マジカルミステリーツアー」に変わっていた。



 最初は蝶々をごみと間違った。なぜ、こんな夜に、こんな場所で蝶々が歩いているのかわからなかった。でも、確かにそれは蝶々で、僕の足元に、佇んでいる。僕はくわえ煙草のまま座って、それを観察した。その蝶々は僕の見たこともない種類の蝶々だ。羽は黒く、そして白い斑点があった。僕の知っている蝶々の種類はモンシロチョウとアゲハチョウだけだったので、あまりそれが蝶々だという確信がもてなかった。蝶々は少し歩いては止まり、少し歩いては止まり、僕の足元をぐるぐると回っている。蝶々は何かを探しているのだろうと、僕は思った。でも、僕には、何を探しているかは分からなかった。僕は、暫く、蝶々の行動だけを眺めていた。

 

突然、左耳のイヤホンが抜けて、辺りの喧騒が耳に入ってきた。最初、僕はひとりでに抜けたと思っていたが、イヤホンの先を女の子持っていることに気付いた。僕は怒りを覚えて「何するの」と言おうとしたが、その前に「火、貸して」と女の子は言った。彼女の右手にはピアニシモの1mgがあった。彼女はどう見ても十五歳くらいだったので、僕は迷ってから、ふっとため息をついて立ち上がり、ポケットから取り出したライターで彼女の咥えている煙草に火を点けた。彼女は有り難うも言わず、一口煙草を咥えて、ゆっくり煙を吐き出した。僕はその様子を目の端で見ていた。彼女は赤いラコステのポロシャツにグレイのプリーツスカート、白い革のオールスターを履いていた。目が大きくまつ毛には黒いマスカラを付けていた。まぶたの上には茶色のアイシャドー。鼻は少し上向いていて小さい。口は下唇が上唇より少し大きくふっくらとしていて、その唇には薄いピンク色の口紅が塗られていた。頬には赤いチークが塗られている。全体的には綺麗の部類に属していた。


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