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  作者: 中井田知久
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圧倒的な力

電車が近鉄難波駅に停まり、自動ドアが左右に開いた。僕はiPodから流れてくるエアロスミスの「ピンク」を聞いていてドアが開いたことにすぐ気付かなかった。人の流れに沿ってドアに向かって行くと地下からの少し湿った風が顔に吹きつけてきて、僕は少し顔を背け、風をやりすごしてから電車を降りた。

 僕は地下から地上へつながるエスカレーターに乗り改札口に向かった。改札前は会社帰りのくたびれたスーツをきたサラリーマンの集まりや、合コンの待ち合わせと見られる三、四人の男女の組み合わせのグループが二、三出来ている。僕は、久しぶりの難波だったので人の多さに吃驚して時計を見た。今は金曜日の夜の六時半だ。サラリーマン軍団の酒の臭いや、合コンのグループの嫌な好意の固まりが見えたようで、僕は胃に重さを感じうんざりして地上へと階段を上った。

階段を上るにつれて夏の匂いを感じた。噎せ返る空気や、蝉の声。

地上に出ると、僕の目の前を、ユーロビートをかけたシーマの改造車が通る。車から出る排ガスを見て、あれこそ本当の公害だなと僕は思った。僕は鞄からマルボロのボックスを出した、そして箱の中から煙草を一本出して火を点けた。僕は、ふとこれも公害かと気付き、一人で少し笑った。ゆっくり吸い込んで吐いた煙が夜の闇に溶け込んでいった。iPodの曲は「イート・ザ・リッチ」に変わっていた。


僕は去年受験に失敗し、現在浪人の身だった。予備校に通い、受験勉強を続けているが、だんだん大学進学への目的を見失って、勉強したことが頭の中に入らなくなっていた。そして、僕は、予備校を時々さぼるようになり、当ても無く図書館に行って本を読んだり、CDショップに行ってはCDを漁っていたりした。今日、四年前に卒業した中学校時代の友達に会うために、二年振りに出てきた難波だった。誰かに話を聞いて貰いたかった。

 待ち合わせのひっかけ橋に向かうために、僕は、戎橋筋の交差点を渡った。戎橋筋の店はぽつぽつと変わっていたが、難波の色々な人種の群れは変わってなかった。ミニスカート、ルーズソックス、茶髪、アイドルを浜崎あゆみから倖田來未に変えた、男子のことで頭がいっぱいの女子高校生。ズボンの尻が膝元にあるEXILE好きの眉毛を細くした、坊主頭の、女子のことで頭がいっぱいの男子高校生。女子高校生の短いスカートの中を想像してぎらぎらした目をしている、よれよれのスーツを着込んだ酔っ払ったサラリーマン。変わったことといえば、黒い服を着たあやしい金髪の連中が増えたことぐらいだろう。黒いままの短く切った髪の毛、白いポロシャツに黒いブーツカットのズボン、黒いコンバースのワンスターをはいている僕には難波は不自然だろうと思った。

 前を見ると、黒い頭の群れはずっと先まで続いている。その光景は僕に動物園を想像させた。動物の群れ。群れは圧倒的な力で僕を飲み込む。軽く眩暈を感じて、行列を崩さないようにシャッターの閉まったタバコ屋の前に立って、僕は、吸っていた煙草を捨てた。僕は、肺に一杯空気を吸い込んだ。新鮮とは言い切れない空気が肺に刺さったが、眩暈はとまった。タバコ屋の隣の店はゲームセンターだった。小学生の女の子が「太鼓の達人」をしていた。親を探してみたけど見当たらなかった。僕は、眩暈が戻ってくる前に僕はひっかけ橋の方向へ歩き出した。


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