第6話 オリジナルスキル
どうやらこのダンジョンは迷路のように広大らしい。
何か目印を残しておけば良かったが……。
(……あの時はそんな余裕もなかったもんな)
悔いても仕方ない。
歩きながらも情報を探る。
敵の姿は見えない。
仲間の姿も見えない。
声も聞こえない。
思っていたよりも、敵は少ないのか?
担任は100階層って言ってたよな?
最初の階層にあたるここは、敵が弱く少ないと考えていいのだろうか?
だとしたら、俺が生き残れる可能性も上がるのだが……。
いや、楽観視するのはよそう。
他に何か情報は……――あ、そういえば。
俺は足を止めて、もう一度ステータスを見た。
気になったのはスキルの項目。
そこにはスキルだけではなく、オリジナルスキルと書かれている。
「一匹狼……か」
俺はスキルの欄から選択して詳細を確認してみた。
※
○オリジナルスキル
・スキル名:一匹狼
スキルレベルアップの条件
レベル:0 獲得済み(あなたは選ばれました)
1 クラスメイトの協力なしで、階層のボスを討伐する。
2 ???
3 ???
4 ???
5 ???
・スキル効果
レベル1獲得から発動可能。
効果時間は15分。
対象に対する自身の全能力値が10倍。
発動状態は獲得経験値量10倍。
レベルアップした際、獲得マジックポイント、スキルポイント10倍。
各階層で1度しか使用できない。
スキルレベルが上がるごとに効果は大幅向上。
また、新たな効果を獲得する。
※
「は……? 全能力値10倍!?」
しかも経験値と獲得ポイントも……?
これ、スキルレベル1での効果なんだよな?
レベルが上がれば、これよりもとんでもない効果になるのか?
だが……スキルレベル1に上げる為の条件が厳しそうだ。
(……階層のボスを一人で……?)
さっきのゴブリンたちと違い、各階層にボスとなるモンスターがいるのか?
達成できたなら大きな力になりそうだが、ゴブリンに殺されかけた俺には縁遠い話だ。
(……そもそも…生きて教室に戻れるかわからないしな)
考えるのをやめて、俺は薄暗い通路を歩き続けた。
5分ほど歩いた先は、通路が左、右、正面と三方向に分かれている。
(……こんなところ、さっき通ったかな?)
似たような道が続いているせいか、完全に迷っている。
どっちに進むべきか……と悩んでいると――ぴょん、ぴょんと、正面の通路から跳ねるような音が聞こえた。
徐々にこちらに近付いて来る。
しかし先は暗くて良く見えない。
俺は暗闇を凝視した。
すると――薄暗い通路の中で、真っ赤な鈍い輝きが怪しく光った。
(……間違いない)
モンスターの瞳だ。
目が合った……少なくとも俺はそう感じて、慌てて左の通路に隠れる。
そして壁を背にして顔を出し敵の様子を窺った。
近付くにつれて敵の姿がはっきりと見えてくる。
それは兎を巨大化させたようなモンスターだった。
サイズは通常の5倍ほどだ。
赤い瞳が不気味に光り、頭部には一角獣のような鋭利な角が生えている。
あれで攻撃されれば、人の身体なんて簡単に貫通するだろう。
真っ直ぐに直進していたが、動きもかなり速い。
俺に気付いただろうか?
なら仕掛けるべきか?
しかし、こちらに気付いていない可能性もあるだろう。
周囲は薄暗い上に、俺は気配遮断スキルを獲得している。
(……頼む!)
その効果を信じ、俺は身を潜めたまま様子を窺う。
すると――ぴょんぴょんぴょんと、巨大な兎が通路を直進して進んで行った。
(……気付かれなかったか)
早速、スキルの効果が出たのかもしれない。
もっと試してみたいが、その為だけにモンスターと接触する度胸もない。
戦闘が避けられたことで俺は心底安堵していた。
(……はぁ)
一角兎が見えなくなったのを確認した。
直後――。
「ちょ、マジっ!? く、くるなっ! 来ないでよ!」
通路に響き渡るように、女の叫び声が聞こえた。
どうやら、あのモンスターと遭遇した生徒がいるらしい。
だが、向こうは教室のある方角ではないはずだ。
ダンジョンの構造は複雑の為、俺が気付かなかったルートがあったのかもしれないが……。
(……どうする?)
助けに行けば、モンスターと戦わなければならないリスクがある。
しかし、この先にいる生徒は教室までのルートを記憶しているかもしれない。
このまま一人で行動するより、生存の確率が上がるのではないか?
先を考えれば間違いなく戦力にもなるだろう。
メリットとデメリットを天秤にかけた結果――
(……リスクはあるが……助けるべきか)
そう決めて俺は声の方向に走った。