第5話 命懸けの戦い
※
途中、通路は何本も枝分かれしていた。
だが通路が複雑であるならそれでいい。
その分、勇希からこいつらを引き離すことができる。
「はぁ……はぁ……」
「グガアアアアア!!」
小柄なゴブリンたちの動きは、想像以上に速い。
(……こいつら、どんな体力してやがるんだ!)
無尽蔵のようで、ただ走っているだけでは直ぐに追いつかれてしまう。
「炎の矢!」
「ガアアアアアアアアア!!」
何度目かわからない魔法を放つ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるなんて言うが、ゴブリンたちは高い身体能力と直感で高速で飛び交う炎の矢を避ける。
「……デタラメすぎるだろ!!」
「グガアアアッツ!!」
ゴブリンが俺の服を掴み力の限りに引っ張ってきた。
「うおっ!?」
小柄な体格に似合わぬ強い力に態勢を崩され、俺はその場に倒れ込んでしまった。
「ゴブ、ゴブゴブッ!!」
ゴブリンが顔を歪ませ笑った。
命を摘み取ることが、楽しいと言って仕方ないと言っているようだ。
そして、四体のゴブリンが一斉に俺に飛び掛かってきた。
逃げ場はない。
だが、
「それはお前らも同じだよな」
俺は至近距離で炎の矢を放った。
しかも一本だけではない。
「――炎の矢!
魔力の続く限り、両手で炎の矢を打ち続ける。
「ゴッ――グゲエエエエエエエエ!?」
炎の矢を受けたゴブリンの身体が燃え上がり、崩れ落ちていく。
フロア内に、肉の焦げる匂いが広がった。
(……倒した、のか?)
それとも、気絶しているだけだろうか?
「――いっつっ~~~~~~~~」
一難は去ったが、俺自身も強烈な痛みに襲われる。
制服のブレザーとシャツが焦げ、肌も焼かれていた。
(……あの至近距離で魔法を使ったんだから、当然か)
念の為、止めに炎の矢を放とうとしたが発動しない。
どうやら、魔力切れのようだ。
「でも、なんとかなった……」
なれない闘いで、死ななかっただけでも上出来か。
「……今のうちに……」
『あなたはレベル2になりました。各ステータスが向上しました』
「は?」
頭の中に声が響いた。
『あなたはマジックポイントを5点獲得しました。
あなたはスキルポイントを5点獲得しました』
れ、レベルアップ?
しかもポイントを獲得って、何かに使えるってことか?
「本当に……ゲームみたいだ」
しかし、身体の痛みがこの世界は現実であるということを訴えている。
(……とはいえ、いつまでも休んでるわけにはいかない)
いつまたモンスターに襲われるかわからない。
まだ全身は痛むが、立ち上がれないわけじゃない。
身体は動く。
「……よし」
後は来た道を戻って教室に戻ればいい。
そう思いながら重い身体を動かして、通路を進んでいく。
が……。
「……ぁ……」
しまった。
あの場から離れることに必死で、俺は枝分かれする通路を適当に進んでしまった。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまう。
身体は動くが、かなり消耗している。
もしまたモンスターと遭遇すれば、戦う力どころか、逃げる力もないだろう。
(……少し……休むべきか? 戻れる保障がない以上、むやみやたらに動くよりは……)
モンスターの声は聞こえない。
安全を確かめてから俺はその場に座り、通路の石壁に背中を預けた。
(……勇希は助かったかな)
あのフロアから教室までなら、直ぐに戻れたはず。
できれば無事を確認したいが……その為にはまず、俺が生きて戻らなければ。
(……そういえば、さっきポイントがどうとか聞こえたよな?)
確認できるのだろうか?
考えた瞬間、頭の中にスキルツリーが浮かぶ。
その中には二つ――白く光ったものと、黒く染まったものに分かれていた。
どうやら、白く光っているほうは獲得可能な魔法やスキルらしい。
試しに白い画面に触れてみた。
『マジックポイントを5点消費して、魔法――雷撃を獲得しますか?』
声が響いた。
そして――YES or NOの画面が出ている。
俺は一旦、NOを選択した。
レベルアップでポイントを獲得。
そして自らの持つ魔法やスキルを覚えられると。
何を選択するかはかなり重要になるだろう。
担任を名乗っているクマの着ぐるみが言った通り、このダンジョンには本当にモンスターがいた。
戦えば死ぬことだってあるだろう。
慎重に行動しなければならない以上、クラスメイトたちと話し合って役割を決めた方がいいかもしれない。
前衛、中衛、後衛、攻撃型、補助型、回復型――。
タイプを分けてパーティで行動するのが理にかなっていそうだ。
得られる魔法やスキルは、個々人によって差があるのだろうか?
情報が少なすぎて疑問は後を尽きないが……。
「……悩んでいる暇も余裕もないわな」
まずこの場を切り抜けることを考えよう。
俺は獲得可能な魔法とスキルを確認していく。
※
○獲得可能な魔法
・雷撃1
消費魔力5。
雷属性の魔法。
敵に小ダメージ。
光速の雷撃が対象を射貫く。
低確率で麻痺を付与。
・治癒1
消費魔力3。
対象者の体力を小回復。
軽度の状態異常も治癒することが可能。
・速度強化1
消費魔力5。
対象者の速さ5%上昇。
ただし、効果は重複しない。
○獲得可能なスキル
・自己回復1
自動回復速度向上。
ただし回復できるのは軽度の傷のみ。
・気配遮断1
自らの気配を絶つ。
スキルレベルで効果向上。
・剣技能1
剣を装備時に効果を発揮。
装備者の剣術を向上させる。
・槍技能1
槍を装備時に効果を発揮。
装備者の槍術を向上させる。
・斧技能1
斧を装備時に効果を発揮。
また装備者の斧術を向上させる。
・弓技能1
弓を装備時に効果を発揮。
装備者の弓術を向上させる。
・盾技能1
盾を装備時。
防御力がより向上させる。
・格闘技能1
格闘技術が向上させる。
この効果は武器装備時にも発揮される。
・風属性抵抗1
風属性に対する抵抗力を向上させる。
・鑑定技能1
対象の鑑定が可能。
対象のステータスや効果の確認ができる。
対象が自分のレベル以上の場合は鑑定はできない。
※
現在、俺が獲得できる魔法と技能はこんな感じだ。
その中で俺が重視すべきは何かと言えば、現状を『生き抜く』為に最も適したスキルだ。
今は装備がない以上、武器技能全般と盾技能はいらない。
風属性抵抗も候補から消す。
もっと使い勝手がいいスキルを選択すべきだろう。
残ったものから選択するとなると……。
(……まずは回復手段を持つべきだろうな)
治癒は軽度の状態異常を回復することができるらしい。
俺の状態を考えれば、今最も獲得すべき力だろう。
「後はスキルの方だが……」
自己回復、気配遮断、鑑定……どれも便利そうだ。
しかし、今回は自己回復は選択しから消す。
回復魔法の治癒を獲得するからだ。
とはいえ、魔法は魔力を使う。
自己回復スキルは魔力を使わない為、その点は大きい。
「って……待てよ」
俺は、ゴブリンとの戦闘で魔力を使い切ってしまった。
そうなると治癒を獲得しても、魔法が使えないんじゃ……。
気になってステータスを確認してみた。
だが、魔力は3/38と表示されている。
(……あれ? 確かに魔力切れしたはずなのに……?)
戸惑いながら、ステータス画面を見ていると。
「あ……なるほど」
魔力が4に増えた。
いや、回復したのだ。
よくみると、ゆっくりではあるが体力も回復している。
自動回復……という奴か。
って、あれ!?
体力がまた減った……?
なぜかと思ったが……恐らく、火傷のせいか?
「だとすると、早く治療したほうがよさそうだな」
俺はスキルツリーを表示。
治癒を選択した。
『マジックポイントを5点消費して、魔法――治癒1を獲得しますか?』
再びYES or NOの選択肢。
俺はYESを選択した。
『あなたは治癒1を獲得しました』
頭の中に声が響いた。
実際に使ってみる。
火傷している胸の辺りに手をかざして……。
「――治癒」
魔法を口にすると同時に胸の辺りが光に包まれ火傷が徐々に癒えていく。
数秒ほどで傷が消えていた。
「……凄いな……」
痛みもほとんど引いている。
これなら直ぐに動けそうだ。
ステータスを確認してみると、体力もすっかり回復している。
代わりに魔力は3減っていたが、また暫くすれば回復するだろう。
「獲得して正解だったかもな。後はスキルだが……」
気配遮断か鑑定か。
いや――迷うことはない。
『今』を生きる為に必要な力と考えれば――教室まで逃げ切る為の力が必要だ。
俺は気配遮断を選択した。
使用するスキルポイントは5点。
構わず獲得する。
『あなたはスキル――気配遮断を獲得しました』
これで多少は、敵に察知されにくくなったはず。
「行くか……」
体力も回復した。
考えたいこともあるが、それは歩きながらでもいい。
俺は周囲の様子を窺いつつ、慎重にダンジョンの中を進んだ。