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第33話 説得

               ※




(……どのタイミングで切り出すべきか)


 クラスメイトに、どう三枝のことを伝えるべきか。

 流れを考えていると、


「みんな~! 聞いて聞いて~! なんとここで、宮真くんから発表がありま~す!」

「なっ!?」


 担任の発言でクラスメイトたちが俺に顔を向けた。


(……このクソ熊)


 まだ考えを整えている最中だというのに。


「さぁさぁ、早く早く~! みんな気になってるぞ~!」


 意地の悪い顔を浮かべながら、担任は俺を挑発する。

 本当にムカツクやつだ。

 だが、いいだろう。

 早いか遅いの違いだ。


「……みんなに協力してもらいたいことがある」

「協力……?」


 最初に質問を返したのは大弥だった。


「勿論、僕にできることなら手伝わせてもらうつもりだよ。でも具体的にはどんな内容なんだい?」

「ああ、それを今から伝える。これにはクラス全員の協力が必要になる」


 少なくとも、クラスの共通ポイントを使う以上は大多数の賛成を得なければならないだろう。


「クラス全員って……ヤマトは何か買いたい物でもあるの?」

「……物じゃない。が、ポイントが必要になる。俺は2組の三枝勇希という生徒を引き抜きたいと考えてる」

「は……? 引き抜き?」

「そんなことができるのか?」


 普通はポイントで生徒を引き抜けるなどと考えないだろう。

 だが、


「既に担任の確認は取った。ポイントで他クラスの生徒を引き抜くことが可能だそうだ」

「マジで……?」

「……ポイントを使えば誰でも引き抜けるってこと?」

「それってウチらも引き抜かれるかもしれないってこと?」

「ポイントって購入画面にある物だけじゃなかったんだ……」


 次々に疑問を口にするクラスメイトたち。


「ポイントは想像以上に使い道は多いとは思う。

 だが、普通は引き抜きを恐れる心配はない。

 生徒を引き抜くには大量のポイントが必要になるからだ」

「……大量って、どれくらいだよ?」

「100ポイントくらいかかるんじゃない?」

「あ~そんなかかるなら、わざわざ他クラスの生徒を引き抜こうなんて思わないわな」


 憶測で話が進む。

 100ポイントで済むのなら、俺の個人ポイントだけで話が済んだんだがな。


「……必要になるのは300ポイントだ」

「「「「「はっ!?」」」」」」


 多くの生徒たちの声が重なった。

 そして、マジで言ってんのか!? という表情に変わる。

 300ポイントは大金だ。

 名前も知らなかった生徒を引き抜く為に、そんな大金を払う価値があるのか?

 大半の生徒はそう思っているだろう。


「おいおい、マジで言ってんのかよ?」

「貴重なポイントだぞ!」

「ありえないっしょ?」


 批判殺到。

 これも予想通りだ。

 だからこそ、ここからは協力者が必要になる。


「今回、1組が1位通過できた。それは俺たちが3階層へ繋がる扉を見つけたからだ」

「っ……自分たちのお陰だから、好きにポイントを使わせろってことか?」

「違う。

 俺たちが1位通過できたのは、2組の三枝のお陰なんだ」

「え……どういう意味?」


 批判的なムードの中、興味を持ってくれた生徒もいた。


「俺と同じパーティだった九重や此花、瀬乃に桜咲はわかるだろ?」

「うん。

 三枝さんのマッピングスキルのお陰だった」

「ボクらは身を持って体験したから、あの力がどれだけ有効的かわかるよ」


 有効的――その言葉が切っ掛けとなり、多くの生徒が三枝の持つマッピングスキルに興味を持つ。

 続けて俺はマッピングの効果について説明した。


「……通った道が記録されるのか」

「つまりダンジョンの中で迷わなくなると……?」

「それってすげぇ便利なスキルじゃん!」


 ダンジョンを探索した者なら理解せざるを得ないだろう。

 通った道が記録されマップとして使える。

 それがどれだけ有効的なスキルか。


「しかも、このマッピングスキルは5クラスの中で三枝だけが持っているスキルらしいぞ。これだけで彼女の価値がわかるよな?」

「宮真くんがそれがいいってんなら、オレも間違いねぇとは思うけどよ。

 そいつにそんな価値があるのかはわかんねえよ?」


 野島、頼むから少し頭を使え。

 内心そう思いつつも、俺が口を開こうとすると。


「……マッピングを持つ三枝さんがいるクラスは、ダンジョンを1位通過できる可能性が高い。

 そういうことだよね」


 俺の代わりに答えたのは大弥だった。

「ああ。

 確実に1位になれるとは言えない。だが、上位で通過できる可能性は間違いなく高くなる」


 クラスメイト一人一人の顔を見回し、念を押して三枝の有用性を伝える。


「安定して上位を取れるなら、300ポイントなんて安いんじゃない?」

「だよな。だったらいいんじゃないか?」


 賛成意見が大多数。

 予想通りだ。

 これで三枝の引き抜きは決まったも同然――そう思っていのだが、


「待ってくれないか。僕は完全には賛成できない」

「……私も大弥くんと同意見」


 事態はそう上手くは運ばなかった。

 よりにもよって大弥と、そして勇希が引き抜きに反対してきたのだ。

 もしかしたら……という程度に想定していた。

 少し面倒なことになったが、勇希と大弥の性格を考えれば反対の理由は想像が付く。


「質問をさせてもらってもいいかな?

 三枝さんが1組の生徒の生徒になることを、2組の生徒たちは納得しているのかい?」


 やはりそのことか。


「納得どころか、2組は引き抜きというシステムすら理解してないだろうな」

「……だとしたらそれは、1組と2組の関係を悪化させることに繋がらない?」

「僕も同じことを考えてた。

 三枝さんを引き抜けば、2組と協力していくことが難しくなるんじゃないかな?」

「……その危惧も理解できる。2組が何も言わずに納得するかと言えば、それは難しいかもしれない。担任――先生に質問があるんだが……」


 一つ、確認するのを忘れていた。


「何かな~?」

「引き抜きを行う場合、どのクラスに引き抜かれたかは公表されるのか?」

「されるよ~。

 引き抜きに使用するポイントの半分は、引き抜かれたクラスのポイントになるからね。

 どのクラスに引き抜かれていくつポイントが入ったのか、そのクラスの担任がしっかりと伝えるよ~」


 そうなると、俺たちが引き抜いたのはバレバレになるわけだ。


「なら僕は引き抜きには賛成できない」

「大翔くんの気持ちはわからなくはないよ。

 でも、私もみんなで協力していけばいいと思うんだ。

 それに、2組と協力できるなら三枝さんの力も借りられるんじゃないかな?」


 クラスの中心人物である二人の発言は、クラス全体に大きな影響を与えていく。

 雲行きは徐々に悪くなっていった。


「あ~そっか。引き抜きなんてしなくても、協力できればいいんだよな」

「クラス間で協力できれば、三枝さんの力も借りられるもんね!」

「なら引き抜きするメリットなんて、ほとんどないじゃん」


 先程まで引き抜きに賛成していた生徒も、すっかり思考を誘導させられていた。

 勇希たちの考えには一理ある。

 だが、引き抜きするメリットは間違いなくある。


「反対の生徒がいるみたいだけどさ。

 ボクはやっぱり賛成だな。

 少し考えればわかることだけど、あんな広いダンジョンの中で都合よく三枝さんに出会えると思う?」


 此花が席を立ち自分の意見を口にした。


「オレも宮真くんに賛成だ! 宮真くんがやるってんだから間違いがあるはずねえ!」


 続けて野島が発言する。

 ありがたいが、もう少し説得力のあることを言ってほしいものだ。


「賛成か反対かは個人的な意見も入るだろうが、此花の言ったことは事実だ。

 ダンジョンで他クラスと遭遇できる可能性は低い。

 階層が進むごとに広くなっていく可能性を考えれば、より出会いにくくなるだろうな」

「言われてみればそうだよね。

 そもそも、協力するにも他クラスの生徒に会えないんじゃ意味がないんだ……」

「……そうなると、やはり三枝さんを引き抜くべきなんじゃないか?」


 半々とはならないが、此花の発言で引き抜きに肯定的な生徒も増えた。

 一応、ここで反対意見に追い打ちを掛けておくべきだろう。


「俺は引き抜きのデメリットは少ないと考えているんだ。

 間違いなく2組と争いが起こることもない確信がある」

「……確信? どうしてそう言い切れるんだい?」


 三枝勇希は2組でイジメを受けているから。

 排除されかけている生徒がクラスからいなくなって、怒りを向ける生徒などいない。

 さらにポイントまで支給されるのだから、喜ぶ生徒のほうが多いだろう。

 だが、三枝がイジメに合っていたことはなるべく伝えたくはない。


(……誰だって、イジメを受けていたなんて知られたくないだろうからな)


 俺自身もイジメを受けた経験があるからこそ、あいつの気持ちがわかるのだ。

 イジメにあうこと――惨めで鬱屈とした感情が渦巻いて、自分という人間が最低な存在に思えてくる。

 カーストの最下層。

 人間的地位の崩壊――いや、人間であることすら否定されるような、イジメという行為は人間を壊すのだ。

 勿論、三枝の気持ちを全てを理解しているとは言わないが、俺が嫌だと思うことはきっとあいつだって嫌だろう。

 だから、このことは伝えない。

 あいつが1組のクラスメイトとして、少しでも生きやすくする為にも。


(……仮に、これを説得材料として使うのなら最終手段だ)


 俺は最初からそう決めていた。

 だから、ここにいる全員を俺は騙し通さなくてはならない。


「3位通過の2組に支給されたポイントは250。

 ギリギリ生活はできるが余裕はないだろ?

 そこで引き抜きによって、クラスメイト一人と引き換えにポイントが入ったらどう考える?

 怒りを向ける生徒よりも、安堵……いや喜ぶ生徒すらいるだろうな」

「……あ~……最低な話だと思うけど、こんな状況じゃ自分が助かることを一番に考えちゃうもんな」

「確かに目先の利益に飛びついちゃうかも……」


 それっぽい理屈を伝えることで、上手く思考を誘導していく。

 現状、1000ポイント以上保有する俺たち1組ですら余裕はない。

 だからこそ、2組はもっと辛い状況にあるのだ。


「……確かにその通りかもしれないけど、三枝さんと仲がいい生徒だっているだろ?」

「こんな状況の中、知り合って数日でそれほど親しい生徒ができると思うか?」

「それは……」


 普通の学園生活を送っているわけじゃないんだ。

 猜疑心に塗れ誰も信じることができずに生活している生徒だっているだろう。


「それともう一つ。

 2組の生徒は三枝のマッピングスキルについて知らない。

 だから三枝が引き抜かれても、一生徒がいなくなったという程度の認識しかもたないだろうな」

「……え? そうなの?」

「だったらいいんじゃない?」

「それでポイントが貰えるなら、揉めるより感謝されそうじゃね?」


 再び肯定的な意見が聞こえた。

 こいつらは完全に思考停止しているのだろうか?

 発言の真偽を確かめようとしないのは、間抜けとしか言えない。


「引き抜きの代わりに、おれらが2組に恵んでやるわけだもんな」

「うちら、いいことしてるじゃん!」

「困ってる人たちを、助けてあげたってことだもんね」


 まるで自分たちが他のクラスよりも上にいる。

 そう考えているような発言が次々に飛び出してきた。

 今回の1位通過で大量のポイントを獲得したことで、自分たちが凄いと錯覚しているのだろう。


(……笑えるな)


 協力と口にしておきながら、既に対等であるとは考えていないのだ。


「う~ん、やっぱり引き抜きもありなんじゃね?」

「だよねだよね! わたしもそう思うな~」


 徐々に引き抜きに賛成する声が増えていく。

 まだ反対してる生徒もいるが。


「大弥、それに勇希も……三枝の引き抜きに賛成してくれないか?」


 二人が賛成すれば、反対の生徒たちも頷かざるを得ないだろう。


「……私はやっぱり反対。結果の話じゃなくて順序が違うと思う。引き抜きをするなら、2組のみんなに説明をして納得をしてもらわないと」


 勇希らしい正論だ。

 本来ならそうすべきだろう。


「……1組に来ること。

 これは三枝自身が望んでいることだ。

 勇希は三枝が一人で探索していたのを見ているよな?」

「あ……そういえば、1階層でも2階層でも2組の生徒とは一緒にいなかったよね?」

「三枝が探索に出ようとした時、2組の生徒たちは誰一人賛同しなかったそうだ」

「え……?」


 嘘だ。

 が……勇希と大弥を納得させるには、都合のいい嘘が必要になる。

 だがそこには事実を混ぜておく。


「3階層でも三枝は一人で探索に出るだろうな。

 でも、階層が上がればモンスターも強くなっていく。

 その状況であちは、次も生き抜けると思うか? 上手く誰かと合流できればいいが、ダンジョンは広く難解になっていくんだぞ?」


 今回、三枝を引き抜けなければ……彼女が次に生きていられる保証はない。 

 2組に残れば、きっと三枝はまた一人でダンジョンの探索を強制されるのだから。


「頼む。

 ――この引き抜きは、三枝を助ける為でもあるんだ」


 俺はクラスメイトたちに頭を下げた。

 本心と嘘が入り混じる。

 だが、俺はあいつを助けると約束した。

 いや助けたいと思っている。

 この気持ちは、間違いなく本物だ。

 これでダメなら……いや、間違いなくこれで状況は動く。

 そう信じて、俺は二人の言葉を待った。


「……なるほど。

 宮真くんが三枝さんを引き抜くことに拘ったのには、そんな理由があったんだね。だとしたら、僕も三枝さんのことは放ってはおけない」

「そういう事情なら、私は引き抜きには賛成だよ! 2組のみんなは驚くと思うけど、事情を説明して理解してもらうしかないよね」


 こうして、クラスのリーダーである二人からも賛同を得ることに成功した。

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