第13話 階層を攻略する為に
「……扇原、俺の話を聞いてたよな?」
「聞いたからこそだよ。
ボスを討伐すればこの階層を攻略《 クリア》できるかもしれない」
「……もっと慎重になるべきだ。
俺たちだけじゃなく、お前のクラスメイトも危険に晒すことになるぞ?」
「あーしらはもう納得済み。
じゃなきゃこんなとこ探索してないってーの」
「そうそう。
おれらさっさとこんなとこ出たいんすよ。
のんびりやってたら、おっさんになっちゃうっしょ?」
このダンジョンから生きて元の世界に戻ること。
少なくとも、この場にいる5組の生徒は完全に方針を固めているようだ。
「……宮真、これは仮定の話だが……仮に10年かけてこのダンジョンを攻略できたとして、そこからの社会復帰できると思うか?」
「あ……そう、だよね。
ここを攻略するって言っても、どれだけ時間が掛かるかもわかんないんだ……」
遠峯の言葉に、三枝が反応した。
扇原たちの危惧はわかる。
生きて元の世界に帰ったとしても、既に何十年も経過していたら社会復帰など絶望的だろう。
そもそも、俺たちの帰る場所が残っているかもわからない。
元の世界に帰りたい生徒にとってみれば、残されている時間は少ないのかもしれない。
「わたしたちは少しでも早く元の世界に帰りたい。
だから、ボスの討伐に協力してほしいの!」
「……扇原さんたちの気持ちはすごくわかるよ。
でも、他の可能性を検討してみてもいいんじゃないかな?」
扇原と勇希の意見が交錯した。
死ぬリスクが高い方法を取るべきではない。
「仮にボスを倒すことが階層の攻略条件だとしても、勝てる保証は――」
「勝算はあるよ」
扇原が俺の言葉を遮る。
「……どういうことだ?」
「ボスモンスターが強敵なのは間違いないと思う。
でも、ここは100ある階層のうちの1階層目。
もし担任の目的がダンジョンを攻略させることになるのなら、生徒が全滅するような強敵と戦わせるとわたしは思えないの」
だとすると、ボスと戦わない方法で攻略できるか。
もしくは……。
「担任は、俺たちを皆殺しにするつもりかもしれないぞ?」
「なら最初からそうしてるはずだよ。
こんな面倒なことをする意味がない」
俺自身はなんとかボスとの戦闘を避けるよう誘導したい。
だが、その通りだと納得してしまう。
根拠は担任の発言だ。
あの着ぐるみは、今回の【ゲーム】は自分が勝ちたいと言っていた。
つまり、俺たちを利用することで達成したい目的があるのだ。
だとしたら、負けが決まっている戦いはさせないだろう。
「それと、ここを探索して気付いたことがあるの。このダンジョンは生徒のレベル上げを制限しているみたい」
「レベル上げの制限?」
俺の質問に頷くと、扇原は話し出した。
「こうして話している間も全くモンスターは現れないでしょ? いくらダンジョンの中が広くても、モンスターがいるならもっと遭遇していてもおかしくない。
これって、ダンジョンの中にいるモンスターが少なくなってきてるからじゃないかな?」
「つまり、この階層にいるモンスターには限りがあると?」
「そう! だからこそ、どんなに頑張ってもレベルを上げられる限界がある」
あり得るかもしれない。
担任たちの思考を理解できるわけじゃないが、もしもクラスの競争を激化させたいのなら、その方が都合はいいだろう。
「限られた数のモンスターを取り合って、わたしたちはレベルを上げる。
でも、それでも上げられるレベルは大したことないと思う。
多分、この階層では5レベルも行けばいいほうじゃないかな?」
レベルが上がっていけば、その分だけ多くの経験値が必要になるのは間違いない。
ここまでの探索で、俺はそう感じている。
「もしこのフロアで上げられる個人のレベルが最大で5だと仮定する。
わたしたち5組――ここにいる五人は今、レベル3なんだけど――」
「なっ!? 五人がレベル3!?」
となると、結構な数のモンスターを討伐しているのか?
「……ごめん。
一つ秘密にしていたことがあるの」
「扇原、話すのか?」
「うん。協力関係になったからね。いいかな、みんな?」
扇原が尋ねると、
「子猫がいいなら、あーしは構わないけど?」
「おれもOKっすよ。てか、隠すようなことじゃないっしょ?」
「構わない」
5組の面々が承諾した。
「……わかった。君の決定に従おう」
遠峯の許可を得た上で扇原は口を開いた。
「わたしは、オリジナルスキルを持っているの」
「オリジナルスキル……?」
「それは、スキルとは違うの?」
三枝と勇希が首を傾げる。
(……まさか扇原もオリジナルスキルを持っていたなんてな)
驚きはあったが、俺は考え込むふりをして彼女の言葉を待つ。
「オリジナル――つまり、この世界でわたしだけが持っている力なんだと思う。
スキル名は――経験共有《 オールエクスペリエンス》。
効果はクラスメイトがモンスターを討伐した際、対象者が経験値を等倍で獲得。
対象者は私が選択可能でクラス全員を対象にすることもできるの」
扇原はオリジナルスキルの詳細を教えてくれた。
もし常時発動だとしたらとんでもない効果だ。
「……全員が同じレベルなのも納得したよ」
「黙っていてごめんね。
でも、これで隠しごとはもうないから」
5組の生徒たちがやけに統制が取れているのは、扇原の人柄だけではなく彼女の持つのオリジナルスキルが関係しているのかもしれない。
個人でなくクラス全体に恩恵のある力なのだ。
その恩恵を受ける為にも、好んで扇原と敵対したい生徒はいないだろう。
「モンスターが限られた数……と仮定するのはいい。
扇原のオリジナルスキルが強力なのもわかった。
だが、ボスに対する勝率とは全く関係ない話だろ?」
「関係はあるよ。
決められた数のモンスターしかいないなら、上げられるレベルも決まってる。
つまり――ボスモンスターはそのレベル内で討伐可能。そう考えるのが自然じゃないかな?」
ボスの討伐が階層の攻略条件なら理屈は通っている。
「それと、話は変わるけど食料の問題が気になったの」
「5組で話し合った時に出た議題の一つが食料問題だったんだ」
「あとさ~、お風呂とかも今のままじゃないわけでしょ? マジで最悪」
「ほんとっすよね。
しかも、トイレもないわけっしょ?」
「現状では、俺たち人間がまともに生活を営む環境がないんだ」
食料以外は些細な問題だと思うが、人間らしい生活が保障されていないのは間違いない。
「それで考えたのはポイントのことなんだ。
ダンジョンを攻略した順番で特別ポイントが貰える。
このポイントでもしかしたら、食料や生活用品を購入することができるんじゃないかな?」
「……つまり、この世界で生きていくには、ポイントを獲得することが重要になってくると?」
「推測でしかないけど、わたしはそう考えてる」
ポイントを多く得る為にも、ボスの討伐を急ぎたい……というわけか。
「ここにいる八人で戦えば倒せる可能性は高いと思う。
もし厳しそうなら……その時は――全力で逃げよう!」
そのぶっちゃけた発言に、俺は思わず頭を抱えた。
賢い奴なのだと思ったが、そこは考えなしか。
「勇希と三枝はどうだ?」
「ボスと戦わずに階層を攻略する手段があるなら探したい。
でも……食料の問題を考えるとのんひりしてる余裕がないのは事実だよね……」
勇希はボス討伐に賛成……というよりは、そうせざるを得ないと考えているようだ。
他の攻略手段を探そうにも、腹が減って食料もなければ最悪は飢え死にすることになるからな。
「あ、あたしは、どうしたらいいかわかんないけど……。
でも、宮真くんと一緒に行くよ」
三枝は、自らの意志を示さない。
自ら選択することを怖がっているようにも思える。
過去のイジメの経験が、今の臆病な彼女を形成しているのかもしれない。
二人の意見を聞き逡巡したものの……俺は答えを決めた。
「……わかった。扇原――俺たちもボス討伐に協力する。
ただし、危険だと判断したら直ぐに逃げるぞ。それだけは約束してくれ」
「もちろんだよ! ありがとう、みんな!」
そして俺たちは、ボスと推測されるモンスターのいるエリアに向かった。
いざとなれば――誰を犠牲にしても勇希だけでも逃がす。
その覚悟だけは決めて。




