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第1話 いじめられっ子とヒーローと、あの日にした約束と。

 もう何年も前の話になる。

 幼稚園、小学校と、俺はいじめを受けていた。

 身体も小さく、気も弱い。

 そんな俺が、いじめの標的になるのは必然だったのだろう。

 子供というのは正直で、それが恐ろしいくらいに残酷だ。

 気に入らなければ殴ってくるし、悪口だって当然のように連呼される。

 抵抗すれば面白がられ、暴力(いじめ)が過熱する。

 辛くて悲しくて、たまらなかった。

 助けて……と救いを求め、手を伸ばす日々。

 でも、縋れる希望はない。

 俺のその手を取ってくれる人など誰もいない。

 気付けば自分の世界が暗く黒く染まっていた。

 そんな日々が続く中、


「や、やめなよ!」


 突然、光が差し込んだ。


「は? なんだよおまえ?」

「オンナはあっちいってろよ!」

「い、いかないもん!」


 女の子だった。

 たった一人で、子供とは数人の男の子に立ち向かっている。

 怖くないわけがない。

 だって少女は震えていたのだから。 


「おまえも、なぐられたいのかよ?」

「っ!?」


 女の子が殴られる。

 俺を助けようとしてくれたせいで、いやだった。

 そんなの許せなかった――だから、もう消えかかっていた勇気を振り絞った。


「う、うあああああっ!」

「うあっ!? な、なんだこいつ!」


 そしてこの日は、俺は初めて人を殴るという経験をした。

 でも――喧嘩の結果は最悪で、俺はただボコボコにされて終わった。

 

「だ、だいじょうぶ?」


 倒れて動けなくなっている俺を見て、女の子が不安そうに話しかけてきた。


「……だいじょうぶじゃない」


 泣きそうになるのを必死に堪える。

 この子の前で、涙を見せたくなかったのだ。


「……つよいんだね」

「ぼくは、つよくなんてない」

「でも、わたしをまもってくれたもん」


 女の子が、俺に微笑んで、手を差し伸べてくれた。


「っ……」


 その時、必死に堪えていたはずの涙がボロボロと流れて止まらなくなってしまった。


「え? たたかれたとこ、いたいの?」

「……いたいよ……でも、いたいから、ないてるんじゃない」


 本当はありがとうって伝えたかった。

 でも、涙で声が出なかった。

 この時、俺がどれだけ救われたか。

 手を差し伸べてくれたことが、どれだけ嬉しかったか。

 伝えたいのに、伝えられなかった。

 だからせめて――俺はこの出来事を一生覚えていよう。

 生まれて初めて俺に手を差し伸べてくれた――たった一人の友達との出会いだったのだから。


               ※


 あの日から俺と、彼女――九重勇希は友達になった。


「ヤマトちゃん、だいじょうぶ? なにかあったら、すぐにわたしをよんでね」


 俺が困ってる時には正義の味方のように必ず助けに来てくれる。

 口にしたことはなかったけど、俺にとってこの女の子はヒーローになっていた。

 相変わらずイジメられるし辛いことも多いけど、勇希と友達になってからは楽しいと思える時間ができた。

 勇希と一緒なら、どんな困難も立ち向かた。

 だけど――友達(ヒーロー)との別れは、突然やってきたんだ。


               ※


「……ぼくのうち、おひっこししないといけないんだって……」 


 親の離婚で俺は母方の実家に住むことになったのだ。

 この土地や学校に思い入れなどなかった。

 でも、勇希と会えなくなることだけは心の底から寂しかった。


「ぐすっ……うううっ」


 この時はイジメられているわけでもないのに、泣いてしまった。

 そんな俺に、


「ヤマトちゃん、なかないで。もしこまったことがあったら、いつでもわたしをよんで! どこにいたって、すぐにかけつけるんだから!」


 涙をいっぱい瞳に溜めながら、少女は言った。

 泣きたいのを必死に堪えていた。

 俺との別れを悲しんでくれていた。

 ああ、そうか。

 ヒーローだからって泣かないわけじゃない。

 辛いときはあるし悲しいときだってある。 

 そんな【当たり前】のことに、俺はようやく気付いたんだ。

 勇希( ヒーロー)にだって、守ってあげられる誰かが必要なんだって。

 だから、


「……ユウキちゃん、ごめん。ぼく、もうなかないよ。だいじょうぶだから」


 俺の心の中に一つの決意が芽生えていた。


「ぼく、つよくなる。いつかユウキちゃんをまもってあげられるくらい、つよくなるから!」


 少女は俺にとって、間違いなくヒーローだったけど。

 守ってあげたい一人の女の子になっていたんだ。

 そして、勇希は零れ落ちる涙を拭って微笑んでくれた。


「――ヤマトちゃん、ありがとう。じゃあ【やくそく】だね!」

「うん!」

 

 俺たちは指切りを交わし誓い合った。

 この日から、俺は泣くことはなくなり――ヒーローがいなくなってから、数年の時が過ぎ去った。

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