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序の巻
「こんな時間に…どうしたの?」
闇の中、柿の木の根元にうずくまる幼い少女を見つけて、少年は声をかけた。
「おうちに帰りたい…」
少女は泣きじゃくるばかりで、いっこうに顔をあげてくれない。
「僕が君を助けてあげる。そうだ、これをあげるよ」
差し出された物は赤く熟れた柿の実だった。
「背中におぶさりよ。夜道は危ないからね」
首筋に柿の実を握り締めた小さな手が絡みつく。少年は背中越しに伝わる体温に胸が温かくなるのを感じた。子供だと言われる自分でも人の助けとなれるのだ。
「君の名は?」
「こはる」
「そう、君が小春か…。よい名だね」
やがて、森を抜けると民家の明かりが見えてきた。
「こーはーるー」
里の皆が捜していたらしく、声音から心配していることがわかる。
「ほら、里に着いたよ」
「ありがとー」
皆のところへ駆けていこうとして、少女は振り返った。
「あなたはだあれ?」
「僕かい? 僕の名は………」