二度目の目覚め
ふかふかのベット、窓から差し込む光。そのすべてが気持ちよく、少しずつはっきりしてきた意識をすぐに手放しそうになる。それでもなんとかして目を覚まし、ボーっとする頭でなにがあったか思い出す。
たしか、神と名乗る少年と出会い私、乙女ゲームに転生させてもらったんだっけ…
「—————っ!!!」
そうだ、私乙女ゲームに転生したんだ!!
そのことを思い出したら、さっきまでこの身に纏わりついていた眠気など簡単に吹っ飛び、私は勢いよく布団から飛び出て近くにあった姿見へと駆け寄った。
「わ、わぁぁぁぁあ!!!」
そこに映っていた自分の姿に思わず大きな声を出してしまった。いや、これはしかたない、誰だってそうなる。なぜなら、前世での私はぼさぼさのショートカットの黒髪黒目、なんの特徴もない顔立ち。しかし、いまの私は腰までのびた艶やかな金髪、目は透き通るような青色。いわゆる金髪碧眼美少女なのだ。まだ10歳だからか、身長も手の大きさも小さくて見慣れない。けれども、それがかえって現実だということを意識させる。テンション高めで姿見の前でくるくるとまわる。ふと、止まり違和感…というより既視感があるものに目がいく。…なんだこの縦巻きロール。まるで定番な悪役令嬢みたいではないか。あ、やめよう。フラグを立てかねない。
そんなことを考えつつ、神様が最後に言った言葉を思いだした。
「えーっと、机の引き出しだっけ?」
机を探すため部屋を見ると興奮していて気がつかなかったが、とてつもなく部屋が広いことが分かった。貴族では当たり前なんだろうが、少なくとも私の部屋の何倍もある。体がまだ小さいからかな。まぁ、とりあえず引き出しになにが入っているか確認しよう。
とことこと机に向かって歩きだしたら
コンコンコン
扉がたたかれて開いた。
そこに現れたのは、メイド服をきた女性だった。
彼女の名前はシャーリー。年齢は28歳で、私が生まれたときからお世話をしてくれている。それゆえ私のそばには必ずと言ってもいいぐらい彼女がいた。私たちは少し年の離れた姉妹同然なのだ。
そんな彼女がきた理由はもともとある記憶ですぐに分かった。
「シャーリー!!おはよう!!」
「おはようございます。ティアお嬢様。まもなくお食事の時間になりますので、お着替えを用意しました。旦那様たちもお待ちです」
「わかったわ!」
会話を終えると後ろから3人ほど侍女が入ってきた。あ、引き出しまだみてないけど大丈夫かな?うーん、あとでもだいじょぐぅぇえ!!
急に息がしにくくなった。その原因はコルセットであった。貴族の女性なら必ず着用するもの。慣れているのかと勝手に思っていたが、そうそう慣れれないっぽい。つ…つらいなこれ。
ようやく締め終わったのか、次はドレスを用意していた。毎朝これがあるのか。貴族も楽じゃないわね…
ドレスを着終わったころにはすでに疲れはてていた。そんな私をシャーリーはみてクスッと笑った。あぁ、癒しだわ。余談だが、私はかわいい女性も好きだ。おっといけない、変な方向に話がとんでいきそうだった。そろそろお腹もすいてきたし、こっちの世界での初めての食事。貴族の食事が楽しみだわ!
わくわくして自分の部屋をあとにした私の頭には引き出しのことなどすっかり忘れていたのだった。