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ほとんど人の姿が見えない田舎道を歩いて寺を回っていく。
この町のどこかの寺に『七尾の一族』がいる可能性がある。
その話を教えてくれたのは六角周防の父である六角左内だ。かつて左内はある術のために鬼化し、人としての存在を失っていた時期がある。その時、匿ってくれていたのが七尾であり、匿われていたのがこの町のどこかの寺ではないかと教えてくれた。だが、左内自身、当時は意識がハッキリしていたわけではなく、七尾の一族に助けられたという曖昧な記憶しか持っていないらしい。
そこで瑠樺たちは左内の証言を参考にして、可能性のあるいくつかの寺社をピックアップして全てを訪ね歩くことにしたのだ。
この町に着いてから2時間が過ぎている。
瑠樺たちはもっとも離れた3つ目の寺へと向かっていた。
バスを乗り継ぎ、そこからさらに1時間歩いたところにその『龍泉寺』はあるらしい。その程度の距離、瑠樺たちの身体能力ならば、たいして問題にはならない。その気になれば、ものの数分で駆け抜けることも出来るだろう。だが、瑠樺たちはその距離を1時間かけて歩くことにした。どこに『七尾の一族』に繋がる手がかりがあるかわからないからだ。
七尾はかつて瑠樺と同じく『陸奥の神守』と呼ばれる一族の一つだった。だが、一条家を中心とした『八神家』と呼ばれる輪のなかで生きることを拒否し、他の一族と同様に離れていったと聞いている。
今回の件に七尾が協力してくれる保証など何もない。いや、むしろ協力してくれる可能性は低いと思っていたほうがいいだろう。ただ、希望がないわけではない。かつて六角左内を救ってくれたことを考えれば、『七尾の一族』も決して陸奥の妖かしの一族に対しての想いを消し去ったというわけではないだろう。
寺へ向かう田舎道はほとんど人と出会うこともなく、時々、農家らしき軽トラックが数台通り過ぎていくだけだった。こんなところを歩いている瑠樺たちの姿は物珍しく見えるらしく、不思議そうに横目で見ていく。そのうち1台を運転していた老人は、荷台に乗ることを勧めてくれたが、瑠樺たちは丁寧に断った。同時にその老人は瑠樺たちにこの地域のことを話してくれた。
既にこの地域は過疎化のためにほとんど住人は住んでおらず、田畑を持っている農家の人だけが時々、やって来るのだそうだ。だが、最近になって見慣れない一人の若者を何度か見かけたことがあるらしい。
それが『七尾の一族』かどうかはわからないが、その可能性が高いように瑠樺は思えた。
歩きながら雅緋は瑠樺に声をかけた。
「ねえ、瑠樺さん、あなた、一条家に利用されていない?」
「どうしてそんなふうに?」
「だって、今回のことって一条家の問題なんじゃないの? あなたが一条家のために動く必要なんてあるのかしら」
「私は一条家に仕える立場ですから」
「それが変だと言っているのよ。あなたはもともと一条家とは同格の八神家の一つなのでしょう。それなら一条家に仕える必要はないじゃないの」
雅緋が言っていることの意味はよくわかっている。瑠樺自身、一条家に対してはいろいろと思うところはある。
それでもーー
「今はこれで良いと思っています。今、私にやれることをやっておきたいんです」
「ホンっとに人が良いんだから」
雅緋は呆れながらも小さく笑った。