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盛岡に向かう電車内は微妙な空気が流れていた。
芽衣子に妹がいるという話は以前、話してもらったことがある。中学生とはいうものの、幼い頃から妖かしの力に目覚め、その力は芽衣子にも匹敵するのだそうだ。どうやら今朝は芽衣子に黙ってやって来たようで、ついさっきまで芽衣子は千波に帰るように説得を続けていたのだが、千波はそれを受け入れようとはしなかった。そして、ついに芽衣子のほうが根負けしたところだった。
千波は瑠樺の正面に座りーー。
「改めて自己紹介させていただきます。私、蓮華千波と申します。中学2年生です。14才です。二宮様、お嬢様、ずっとあなたにお会いしたいと思っていました」
少し早口で、キラキラした瞳で瑠樺を見つめる。
その隣で――
「申し訳ありません、お嬢様」
フォローするかのように芽衣子が頭を下げた。
「いえ、千波さんのことは私も聞いていました。私も会いたいと思っていました」
これは本当のことだ。以前、芽衣子から中学生の妹がいること、そして、その妹がいかに生意気でいかに手を焼かせられるかを聞いていた。
「ホントですか? 私、ずっと会わせてほしいとお姉に頼んでいたんですが、許してもらえなかったんです。だから、今日、お姉が瑠樺様と旅行に行かれるって聞いたので、良い機会だと思ってついてきたんです。ところが途中でお姉が私に気がついて逃げ回るものだから。私、行き先を知らなかったから大変でしたよ」
どうやら芽衣子が遅れてきた原因も彼女にあったようだ。
「おウチの方にはちゃんと話してきたんですか?」
「部活があるって言って出てきました」
だから制服姿なのか、と瑠樺は納得した。だが、それでは問題になるのは目に見えている。
「でも、今夜は?」
「そんなの大丈夫ですよ」
「何がどう大丈夫なのよ」
明るく答える千波に芽衣子が厳しく言う。
「お姉が後で電話してくれればいいだけじゃないの。パパもママもお姉が一緒って言えば何も言わないわよ」
「まったく」
芽衣子は呆れたように項垂れた。「私達は遊びに来たわけじゃないのよ」
「知ってるわよ」
「知ってる? 知ってるって何を?」
「今回の目的よ」
「ど、どうして?」
芽衣子は目を丸くした。今回のことは極力内密にと指示されている。いくら家族といえど、今回のことを生真面目な芽衣子が千波に話すとは思えない。
「お姉が昨夜、パパとママに話しているのを聞いていたからよ。一条家での事件のことで行くんでしょう?」
「なんですって? でも、話したのはお嬢様と青森に行くっていう話しかーー」
「私だって一条家には出入りしているのよ。そのくらいのこと誰でも想像つくわよ。そんなことでも無かったら、お姉がお嬢様と旅行になんて行くわけないじゃないの」
芽衣子は唖然として千波を見つめた。
「ま、まあ、これからどうするかは考えましょう」
宥めるように瑠樺は言った。とは言うものの千波の性格ではこのままついてくるのだろう。
すると、千波は瑠樺を見つめーー
「やっぱり思い描いていたとおりの方でした。和彩としての力も徐々に成長しているというお話でしたね」
「いえ、そんな……」
「伝説の和彩の一族の力である『羽』を扱えるとか」
「伝説なの?」
そんなふうに言われると、妙に気恥ずかしくなってくる。
「それが使えるということが何よりの和彩の一族の証だと」
「そ……そう、でも、私はそう多くの力を仕えるわけじゃないわ」
「いえいえ、お嬢様の使える『真実の羽』……それって真実を暴き出す力なのだそうですね」
千波はますます羨望の眼差しを瑠樺に向けた。
「千波、いい加減にしなさい」
瑠樺を気遣うように、芽衣子は千波を止めようとした。
「お姉、邪魔しないでよ。せっかくお嬢様に会えたのよ。聞きたいことがいっぱいあるのよ」
「あなたの妹にしては素直そうね」
瑠樺の隣で雅緋が小さく笑う。千波の素直な喋り方への感想というより、千波の隣で困ったような顔をしている芽衣子への当てつけのつもりのようだ。
その雅緋のほうへ千波は視線を向けた。その目には雅緋に対する興味が溢れているように見える。
「あなたが音無雅緋さんですね。あなたにも会いたかったんです」
「私?」
今度は自分に焦点が向けられ、雅緋は戸惑いの表情を見せた。
「はい、普通の人間でありながら呉明沙羅さんという霊体を住まわせている不思議な存在ですから」
「まるで珍獣のような言い方をするのね」
その皮肉めいた言葉にも、千波は悪びれもせず――
「当然じゃありませんか。あなたのような存在、他にありませんよ」
「でも、特別なのは沙羅のほうであって、あなたも言ったように私は普通の人間よ。興味を持たれる理由はないわ」
「さあ、本当にそうなんでしょうか」
「何が?」
「普通の人間になぜ最強の霊体となった呉明沙羅が取り憑いたりしたんでしょう?」
「きっと沙羅の気まぐれよ。それとも私が特別な人間だとでもいうの? どこにそんな根拠が?」
「ですよね。さっきからあなたの中を探っているんですけど何も感じないんです」
「それなら私が特別な人間じゃないってことでしょ?」
「そこが不思議なところなんです」
そう言ってさらにマジマジと雅緋を見つめる。
「いい加減にしてくれるかしら。まさか、ずっとこんな話を続けるつもり?」
うんざりしたように雅緋は顔をそむけた。