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強い力に弾かれた気がして瑠樺はハッと意識を戻した。
梢の顔が眼の前にあった。その目が不安そうに瑠樺を見つめている。
その目の中の光はさっきまでのものとは明らかに違っている。
それと同時に周囲の気がさっきとは変化していることに気がついた。ずっと抑えられていたはずの妖力が使えるようになっている。
「梢さん、意識が戻ったのね」
梢はコックリと頷いた。
「あなたは……」
「二宮瑠樺です」
「八神のーー」
「そうです」
「じゃあ、さっき感じたのはあなたの力なんですね? あなたの声が聞こえました」
救いを求めるかのような眼差しで梢は瑠樺の顔を見つめた。
「あなたにも『七尾の白狐』の声が聞こえたのね。つまり、あなたこそが七尾の妖かしの正統な継承者というわけね」
瑠樺の問いかけに、梢は小さく首を振った。
「違います。私は兄さんからこの力を奪い取っただけ」
「奪い取った?」
その時、強い気がものすごい勢いで近づいてくるのを感じた。振り返ると駆け寄ってくる七尾流の姿が見えた。
すぐに立ち上がろうとする瑠樺だったが、グラリと体が揺れる。さっき七尾の白狐に触れたことで大きく力を失ったらしい。
「妹から離れろ!」
七尾流の前に千波が立ちふさがる。
「ダメ!」
その手を広げた瞬間、大地から芽吹いた草花たちが壁となる。
だがーー
「邪魔をするな!」
七尾流の振るう錫杖が強い衝撃を生み出し、草花の壁を薙ぎ払う。「妹に手を出すな」
目の前に立つ流の力が強く感じられる。
「どうするつもりなの?」
「妹のことは俺がなんとかする。お前たちは消えろ。これ以上、俺たちに関わろうとするならただではおかない」
流の妖気がさらに強くなる。脅しではないことがヒシヒシと感じられる。
「止めて!」
その梢の声とともに、一瞬のうちに流の気が立ち消える。そのことに誰よりも驚いたのが流だった。突然、力を奪われたことにバランスを崩して膝をつく。
「これは? 梢? おまえがやったのか?」
「お兄ちゃん、もう止めて」
「おまえ……意識が戻ったのか?」
流は驚いたように梢を見つめた。妖力と共にさっきまでの殺気が消えている。
「いったい何なのよ、これは?」
流を追いかけてきた雅緋が声をかける。その傍には芽衣子の姿も見える。二人とも外見はボロボロだが、その無事な姿を見て瑠樺はホッとした。
「彼に憑いていた『七尾の狐』は今、妹の梢さんに憑いているわ。その力は強すぎて、ずっと制御出来ずにいたのよ」
瑠樺が雅緋に説明をする。
「なるほどね。じゃあ今、彼に憑いているのはやっぱり別の妖かしというわけね」
雅緋は横目で流を睨みながら言った。
「鹿神だ」
ボソリと流が答える。「七尾の……この錫杖の中に封印されていたものを、俺が自分のものとして解放した。梢を守るために」
「器用なものね。それにしても、どうして妹さんに妖かしが? 白狐はあなたが憑いだんじゃないの?」
「なぜ梢に妖かしが憑いたのか、それは俺にもわからない」
「まったく。わかってないなぁ」と今まで黙っていた千波がイラついたように声をあげた。
「何?」
皆、千波が何を言っているのかわからず視線を向けた。




