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奥州妖かし奇譚 第二部・憑神  作者: けせらせら
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 瑠樺は携帯を取り出して、改めて時間を確認した。

 予定の電車の発射時刻まであと6分。まだ電車はホームに入ってきてはいないが、もう間もなくやってくるだろう。

 まだホームには人の姿は見えない。

 六角はともかく、蓮華芽衣子がこの時間になって現れないことに瑠樺は少し気になっていた。蓮華の一族は、かつて二宮家が『和彩』と名乗っていた頃に仕えていたことがあり、芽衣子は瑠樺のことを『お嬢様』と呼んで慕ってくれている。そのことは瑠樺にとって抵抗のあるもので、あまり喜ばしいこととは思えないのだが、芽衣子にとって瑠樺は特別な存在であることは変わらないのだそうだ。クラス委員を務める彼女は、下級生である瑠樺にも噂を耳にするほどに成績も優秀で非常に生真面目な性格をしている。そんな彼女が待ち合わせに遅れるということなどあり得ないように思えた。

 今のところ、芽衣子から新たにメールが届いているということもない。先日の一条家の事件もあり、少し不安にも感じることもあるが芽衣子に何かあったとは考えにくい。瑠樺はそれほどに芽衣子に信頼を持っていた。もう少し待ってみるしかないだろう。

 そう思った時、携帯に一通のメールが届いた。

 一瞬、芽衣子からのメールかと思ったが、それは芽衣子からのものではなく、仙台に住む母からのものだった。


『思うところがあって、私は看護師を辞めることにしました。私のことは心配しないように。あなたはあなたの生きたいように生きなさい』


 突然のことに、瑠樺は驚いていた。

 以前、両親と3人、仙台で暮らしていたのだが、父がこの地に戻ってくることを決めたことで、看護師として病院で働いていた母だけが仙台に残ることになった。その後、父が亡くなり、瑠樺は仙台に戻らずそのままこの地に残ることに決めたのだが、仙台に住む母のことはずっと気になっていた。

 そんな時に届いたそのメールに瑠樺は動揺した。

 いつも用事のある時だけ簡潔な内容のメールしか送ってこない母ではあったが、これはあまりにも事務的すぎるように感じる。

 母は何を考えているのだろう。何か母にあったのだろうか?

 すぐに電話をして、母の気持ちを聞きたいのだが、もうすぐ電車の時間も近づいている。すぐに芽衣子がやってくることだろう。

(今度、ゆっくり話を聞いてみないと……)

そう考えていると、跨線橋を降りて慌てたようにホームを走ってくる蓮華芽衣子の姿が見えた。

 蓮華が現れたことに瑠樺はホッとした。

「すいません。遅れてしまいました」

 芽衣子は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

「いえ、大丈夫です。まだ4分ありますから。でも、珍しいですね。蓮華さんが時間ギリギリなんて」

「出かけにちょっとありまして」

 芽衣子は口ごもった。「……あれ? 六角君はまだ来ていないんですか?」

「まだみたいです」

 その答えに芽衣子は決して驚きはしなかった。単なるイメージだけなのかもしれないが、周防が遅刻することに何の疑問も感じないのだろう。

「置いていきましょうか」

 当たり前のように芽衣子がそう言った時、電車がホームに滑り込んできた。

 まだ六角は現れないが、彼を待って電車を乗り過ごすわけにもいかない。

 そう思って止まる電車に近づいた瞬間――

 瑠樺と蓮華、二人は同時にその気配に気づいた。

 ホームの端にある待合室のドアがスッと開いた。そして、そこから髪の長い女性が現れた。それが音無雅緋だった。彼女は妖かしの一族でもなければ、一条家の関係者でもない。しかし、彼女の中には、昔、『陸奥の神守り』と呼ばれた一族のある霊体が住み続けている。その妖力は誰よりも強く、かつて『妖夢』と呼ばれる妖かしによって瑠樺が襲われた時、雅緋に救われたことがあった。

 雅緋は瑠樺よりも一歳年上なのだが、昨年はほとんど登校することが出来なかったため一年留年することとなり、今年から瑠樺のクラスメイトになっていた。

 当然のように雅緋は瑠樺のほうへ近づいてきた。

「雅緋さん、どうしてここに? どこか旅行にでも?」

 動揺を悟られないように気をつけながら、瑠樺は雅緋に声をかけた。

 雅緋には一条家の事件のことも、今回、瑠樺たちが七尾の一族を捜しに行くことも話してはいない。ただの偶然という可能性も否定は出来ないのだが……

「とぼける必要はないわ。代役よ」

 視線を瑠樺たちへ向けようともせずに雅緋は答えた。

「代役って?」

「六角君がね、急に来られなくなったらしいの。その代役を私が頼まれたのよ」

「来れなくなった? どうして?」

「そんなこと私が知るわけないじゃないの」

「六角君があなたに頼んだっていうの? もし来れなくなったとしても、あなたに代役を頼むなんてことを彼がするわけないでしょう」

 芽衣子が問いただすように訊く。瑠樺も芽衣子と同じ思いだった。かつて周防は雅緋に対決を申し込んでボコボコにされた過去がある。周防単独の判断で雅緋に代役を頼むというのは、とても信じられない。

 だが、雅緋はまるで気にもせず――

「事実なのだから仕方ないでしょ。さあ、行きましょう」

 そう言って雅緋は電車に乗り込んでいく。

 きっと周防がここに来られなくなったのは、雅緋に原因があるに違いないーーと、瑠樺も芽衣子もそう思っていた。

「あなたね――」

 さらに問い詰めようとする芽衣子を瑠樺はそっとなだめるようにして止めた。これ以上何を言ったところで、雅緋が認めることはないだろう。それに周防の代役として認めないと言ったところで、ここまでやって来た雅緋にたいして帰れといって聞くとも思えない。周防に連絡を取っている時間もない。

 瑠樺と芽衣子も雅緋に続いて電車に乗って、3人はボックス席に腰を下ろした。

 すぐにガタンという音と揺れと共に電車が動き出す。

「雅緋さん、事情は知ってるんですか?」

 瑠樺は慎重に雅緋に訊いてみた。

「当然でしょう」

 澄ました顔で雅緋は答えた。だが、周防が雅緋に話すとは思えない。そもそも本当に知っているのかも疑わしいが、知らなければやって来れるはずもない。いったいどのようにして今回のことを知ったのだろう?

 すぐに雅緋が『美月の一族』とつながりがあることを思い出した。『陸奥の神守り』の一つである『美月の一族』は『八神家』という立場からは離れてはいるが、過去に雅緋や瑠樺たちを手助けしてくれたことがある。瑠樺の妖かしとしての能力を覚醒させてくれたのも『美月の一族』だ。斑目は今回のことを外部に漏らすなと言っていたが、『美月の一族』ならば今回の一条家の事件のことを耳にしていてもおかしくはない。

「音無さん、ところでどうしてその格好なの?」

 芽衣子は非難するような口調で雅緋に声をかけた。

「何か問題でも?」

 雅緋が着ているのはAラインシルエットのゆったりしたネイビー色のワンピースだ。その小花柄のワンピースに袖のボリューム感がかわいいカーディガンを合わせている。オシャレで素敵な服装ではあるが、芽衣子の言うように今回の仕事には不似合いに思える。

「あなた、六角君の代役って言いながらその格好って何を考えているの? まさか、ただの旅行のつもり? 私達が何をしに行くのか理解しているのよね?」

「理解してるわよ。でもね、目的がなんだろうと女性なんだから身だしなみは大切にしなくちゃ。自分に一番似合うファッションっていうのは何よりも大事なものよ」

「似合うファッションってーー」

「何よ。似合うでしょ? それよりあなたたちの格好は何なの?」

「仕方ないでしょ。『常世鴉』の忍び装束ってわけにいかないんだから。それでもあなたの服装より十分に任務に適しているわよ」

「違うわよ。逆の意味に決まっているでしょ。そんな作業着みたいな格好して……っていうか、ベージュのパンツ姿に、蓮華さんに至ってはカーゴパンツにブルゾンなんて作業着そのものじゃないの」

「悪かったわね。私は目的を最優先に考えるのよ。あなたみたいにオシャレを優先に考えて動いているわけじゃないのよ」

 そのやり取りを聞きながら、瑠樺はクスリと小さく笑った。

 雅緋には両親がおらず、今は伯母の日奈子と暮らしている。日奈子は雑貨や洋服などをネット販売する会社を経営しており、雅緋が着る服は全て日奈子の趣味によるものだ。雅緋自身、モデルをすることもあるらしい。決して嫌というわけではないらしいが、その多くが女性らしさを全面に出ている服ばかりだと決して雅緋自身満足しているわけではないらしい。きっと本人ももっと身軽に着られる服を選びたいのだろうが、それを言えないところも雅緋らしいといえるかもしれない。

その時、後ろの車両につながるドアが開いて一人の少女が姿を見せた。瑠樺たちよりもわずかに年若く、休日だというのに制服を着ている。それは瑠樺も知っている地元の中学校のグレーの制服だ。長い髪をツインテールに結び、リュックを背負っている。

少女は真っ直ぐに瑠樺たちに近づいてくると――

「二宮瑠樺様ですね」

 その声を聞いて、蓮華芽衣子が驚いて振り返る。

「あなたどうして――」

 その芽衣子のことなど無視するように少女はさらに瑠樺に話しかけた。

「私、蓮華千波と申します。今回の旅行、私も同行させてください」

 芽衣子がうんざりしたようにため息をついた。


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