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俺、神になる⑪

「のじゃっ! んのじゃっ!」


 剣をブンブン振り回し、俺はブラウニーを片っ端から薙ぎ払った。


「おれはガラートだ!」


 ガラートは棍棒をバンバン地面に叩きつけ、ブラウニーをプチプチ潰していく。


「まだまだです! 死ぬまでやりましょう!」


 ハイになったリリが物騒なことを叫び、エリアヒールを乱発する。


「ボクはっ! 負けないっ! 勇者だからっ!」


 ヘロヘロの一撃でブラウニーを切り殺しつつ、レシアは虚勢を張った。


 エルフのやった広域破壊はあっという間に修復され、いまやトリンカ村は無数のブラウニーに取り囲まれていた。

 切っても切っても切っても切っても切っても切っても、数が減る気配すらない。エルフもボグダーナもいない。もはや滅亡は間近だった。

 もう、人間の意地とかですらない。なんなら一刻も早く滅べぐらいのことを思いながら、俺は剣をぶん回していた。アドレナリンの出すぎで、頭が焼き切れつつあった。


 突然、強く生暖かい風が吹いた。俺たちは空を見上げた。夜の闇よりもなお黒く、巨大な影のようなものが空に姿を見せた。

 それは下界を見下ろして頭をもたげたが、もはや何の力もなかった。大風がそれをさらって運び去り、消え去った。

 そのあとはしーんと静まった。


「ぽ、ぽいーん?」

「ぽいーん……」

「ぽいっ、ぽいっ」

「ぽいーん」


 ブラウニーたちの間に、動揺が走った。俺たちは直感した。エルフが、ボグダーナが、やったのだ。ハイヴを叩き潰したのだ。


「っしゃー! 雑魚狩りの時間なのじゃー!」


 俺たちは飛び出して行って、自失するブラウニーを一匹また一匹と叩き潰していった。ブラウニーには何をしようという気力もなく、ただただ立ち止まって、俺たちに切り殺されるのを待っていた。


「ボーナスタイムだね! のじゃロリ、スコアを競おうよ!」

「望むところじゃ、レシア!」

「わたしも参加します!」


 一斉に飛び出す俺たちの前を、


「おれは、ガラートだ!」

 

 ガラートが叫びながらゴロゴロ転がっていき、巨体を活かしてロードローラーみたいな勢いでブラウニーを轢殺していった。

 圧倒的キルスコアだった。


「チートじゃ、あんなもん」


 俺たちはふてくされながら、残党の処理に当たった。


「みんな! 今が好機だ! 我が斧は、おまえたちは、血を見たがっているぞ! そうだろう!」

「うおおおおおおお!」


 ヴォールナに率いられたNPCたちが、手に手に武器を携え飛び出してきた。


「くたばりやがれっ!」

「死ねっ、死ねーっ! ナメやがって、ナメやがって!」

「奪わせねえ! 俺たちの自由を、二度と奪わせねえ!」


 農業用のフォークが、ひょろ長い棒が、木の板が、動かないブラウニーをガンガン潰していく。

 無限沸きとすら思えたブラウニーは、たちまちその数を減らしていった。


 やがてブラウニーの血が川になって流れるころ、隠れ潜んでいた太陽が稜線からおずおずと姿を現し、俺たちを照らした。

 膝までの高さに積みあがったブラウニーの死骸を掻き分けて、俺たちは村の中心に集まった。


「さあ、のじゃロリ」


 リリが俺の腰のあたりを掴んで持ち上げた。俺は剣を高く突き上げた。刃に陽光がきらりと反射した。全身が歓喜にブルっと震えた。


「わらわ達の勝利じゃ!」


 すさまじい歓声が世界そのものを満たしたようだった。信じられないことに、俺たちはシステムを打ち破ったのだ。ゲームが定めたルールそのものを、ぶっ壊してやったのだ。


「戦勝記念パーティには間に合いましたかしら?」


 アルファ・メガクローラーが、上下にガタガタ震えながら走ってきた。ドクロの上で、エルフが手を振っていた。


「エルフ! ボグダーナ! 無事じゃったか!」


 ドクロから飛び降りたエルフに、思わず抱きつく。エルフは俺をしっかり抱き留め、その場でくるくる回った。


「……JKに、助けられた」

「なんと。して、どこにおるのじゃ?」

「……帰った」

「あやつ、さてはときどき出てきて全部かっさらうポジションを抑えるつもりじゃな」


 一番かっこいいとこじゃないか。羨ましい。俺もJKが良かった。


「さ、これで終わりですわね」


 アルファ・メガクローラーから降りたボグダーナは、未練を見せず俺たちに背を向けた。


「……待って」


 ボグダーナの手を、エルフが掴む。


「なんですの」

「……みんな、聞いて」


 エルフは静かに語りはじめた。


「……ボグダーナは、みんなのために――」





 それからどうなったかといえば、ハイアルドーは常態に復した。つまり、相変わらず【針の城】でボグダーナがふんぞり返り、民はそれに不平不満を抱えている状況だ。しかし、NPCの多くは自分の意思でそれを望んだ。

 自由というのは、難しい。いきなり手に入れても持て余すだけだ。憎まれながらもまとめてくれるヤツが、当分の間は必要だろう。

 それに、ブラウニーの襲撃に備え、軍隊をキッチリ組織化する必要もある。あの戦争において凄まじい采配を見せた【戦場の凍姫】は、ハイアルドーに必要不可欠な人物だ。


 少なくとも、ボグダーナはもうアルドー地方の統一を望んでいないし、NPCは人間をぶっ殺そうとは思っていない。俺たちにとってはそれで十分だ。


「はぁー生き返るのじゃぁー」


 激戦の疲れを癒すべく、俺たちは昼間から風呂に浸かっていた。もちろん俺はリリの右おっぱいをキープしているし、リリは自らの左おっぱいをキープしている。オキシトシン的なものがドバドバ出てくる。これだよこれ。この穏やかな幸福感こそ俺の求めていたものだよ。


「これ、落ち着くねえ」


 とは、エルフの右おっぱいをわしっと握ったレシアの言葉だ。


「……おさまり、良い」


 エルフは自らの左おっぱいに手を添え、目を細めている。


 四人パーティの思わぬ恩恵だ。のじゃロリとレシアには掴めるほどのおっぱいが存在しないため、これまで誰かがおっぱいから疎外される状況にあった。しかし、エルフの加入によって需要と供給が完全にマッチングしたのだ。


「ねえ、それやっぱりおかしいと思うんだけど」


 足だけお湯に浸したアドリアナが、おっぱいを掴みあう俺たちに言った。


「なぜじゃ。わらわがわらわのおっぱいをどうしてもよいじゃろうが」

「それがもう、さっぱり意味分かんないのよ」


 別に良いんだ。ほかのヤツらに理解されようとか思っていない。俺は俺と、ここでダラダラ生きていくのだ。


 アドリアナには、冒険者ギルドからアイテムを引き出す方法を教えた。これでハルキ村の住民が飢えることは無いだろう。あとは、ブラウニーの襲来にだけ注意しておけば大丈夫だ。そこは、ニコラが自警団を立ち上げると言っていた。

 おそらくアドリアナの【記憶核】は破壊されている。もしかしたら、ニコラも、

 俺たちと出会うより前に、ひどく痛めつけられたのだろう。誰にって、もちろん、人間にだ。でもアドリアナは、俺たちを恐れずこうして遊びに来てくれる。重要なのはそこだ。


「今度こそ……本当に今度こそ、ダラダラ生きていくのじゃ。絶対にダラダラするのじゃ」


 ハルキ村とガメーで人間を殺し、ハイアルドーでNPCとブラウニーを殺しまくった。ちょっと殺伐としすぎている。俺は生産職のレベルを上げてカブを育てたり家を増築したりしたいんだよ。ルーンファクトリーの続編は俺たちそのものなんだよ。


「そうは言っても、他のボクを探さなきゃいけないからなあ」

「……それに、誰かが、困っていたら」


 エルフがレシアに乗っかったので、俺は鼻白んだ。


「かー! これじゃから勇者組は! かー!」

「まあまあ、のじゃロリ。いいじゃないですか。わたしたちにも個性が出てきたということですよ」


 リリが俺の頭をなでなでした。あー、幸せホルモンが出ちゃう出ちゃう。もう全てどうでもよくなっちゃう。


「さあ、そろそろごはんにしましょうか。今日は【ノマド風グリルビーフ】にしますからね」

「わーい!」

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