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俺、神になる①

 気ままなのじゃロリ暮らしはレシア・ローという新たなる俺を加え、また一歩理想に近づいたと言えよう。

 北アルドー針葉樹林帯の我が家に戻った俺たちは、三人での暮らしをはじめた。


「ねえレシア様、今日はなにを作ってるの?」

「これかい? これは【アルドーパイン木材】さ。これからここに人が増えるなら、家を大きくしないといけないから」


 【ハルキ村】のNPC、【アドリアナ】が絡んできて、レシアは爽やかに受け答えした。


「おい、レシア。ヤーシャの服を直してくれたそうだが……その、ありがとう」

「大したことじゃないよ。ボクのレベリングにもなるからね」

「あ、お……おう」


 アドリアナの兄、【ニコラ】は、レシアの笑顔を見てメチャクチャ照れた。


「レシア様! 村にモンスターが出ただよ!」

「うん、すぐに行くよ。のじゃロリ、リリ、行ってきます!」


 【ネクラス】に助けを乞われ、飛び出していくレシア。


「なんじゃ、あの、なんというか……勇者概念を形にしたようなキャラは。本当にわらわなのか?」


 誰にも邪魔されず、俺同士で快適に暮らす。それがコンセプトだったはずだ。だというのに、レシアはいつの間にか【ハルキ村】のNPC全員に好かれていた。


「ああいう側面も、わたしたちにはあるってことですね」

「かー……信じられんのじゃ」


 【ガメー】での一件は、ショックの大きいものだったのだろう。本当に俺なのかと思うぐらい、レシアは他人に親切だ。


 アバターの違いと、積んだ経験。それぐらいのことで、人格だの行動だのは変わってしまう。リリにしても、生産ポンコツのじゃロリアバターに出会わなければ、ママロールプレイなんかに目覚めなかっただろうし。

 とはいえ、俺が進んで人助けをするとは。きっかけがあれば、俺もあんな感じになっていたというのか。全く想像もつかない。


「時間が経てば経つほど、わらわとの乖離が大きくなっていくということじゃな」

「そうですね。根本的にはコミュ障ですから、よほどのことが無いと変わらないと思いますけど」


 たまたまルーに出会わなければ、レシアはガメーの隅で飢え死にしかかっていただろう。


「なんか、必死になって探すのもちょっと違うのじゃがなあ」

「ダラダラしたいだけなんですけどねえ」


 俺という人間は、どうやらそんなに簡単なものじゃないらしい。

 もしも他の俺が今の俺たちと全く別の行動指針で動き始めたら? そしてその利害が、俺たち同士で食い違ったら?

 その時、そいつらはこの世界における最も厄介な敵になるだろう。共倒れになる未来しか見えない。


「んー……なんかめんどくさくなってきたのじゃ」

「よしよーし」


 リリに撫でられていると、レシアが帰ってきた。北アルドー針葉樹林帯のモブはどいつもこいつもかなり強いが、レシアの相手としては物足りない。一撃で粉砕したのだろう。


「あのさ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」


 俺の向かいに座ったレシアに、リリが【ミントティー】と【アルドーマフィン】をすかさず用意する。


「ありがと……あ、うわ、おいしっ。なにこれ」

「【アルドーマフィン】には【アルドーパインコーン】が入ってますから。爽やかでしょう?」

「うん。すっごいさわやか。森を食べてるみたいだ。ああそうそう、それでね」


 マフィンをむしゃってお茶を啜り、レシアが語ったのは【ハルキ村】での出来事だった。


「変なNPCがやってきたらしくてさ。ちょうどボクたちがガメーで戦っていたころなんだけど」


 面倒ごとの予感がしてきた。


「ソイツは【ハイアルドー】の【冒険者ギルド】のNPCを自称したらしいんだ」


 ハイアルドーはアルドー地方の豪族【スヴャトイ】家が治める小国だ。【アルドー大公国】が権力闘争やらなんやらで無数に分裂し、相争っているというのがこの辺りの設定。【ハルキ村】はどの小公国にも属さない見捨てられた地で、アルドー地方にはこんな寒村がいくらでもある。


「今、アルドー地方のNPCがハイアルドーの冒険者ギルドに集まっているんだってさ」

「ふむ。設定通りにアルドー統一でも目指しはじめたのかの」

「そういうのとも、また違うみたいなんだよね。少なくともスヴャトイ家は絡んでいないみたいだ」

「冒険者ギルドが主体になっていると考えていいんでしょうか?」


 レシアはうなずいて、ミントティーで一息入れた。


「それで、ヤーシャとニコラも勧誘されてさ。断ったら帰ってくれたみたいだけど」


 運営と人間に見捨てられた地で、いよいよNPCが自律的に動き始めたのだろうか。どうやって【記憶核】の軛から逃れたのかは分からないが。


「冒険者ギルドが、というところに引っかかっておるのじゃな」

「さすがボクだね。そういうことさ」


 このゲームのクエストは、各地の冒険者ギルドで受注・報告・報酬受領するのが一般的だ。とすると、何がどうなるか。あまり深く考えたことのない領域だ。


「冒険者ギルドは、やろうと思えばシステムからお金なりアイテムなりを引き出せるんじゃないでしょうか」


 俺が思いつたことをリリが言った。


「プレイヤーはギルドで報酬を受け取っているわけだからね。ありえない話じゃないと思うんだ」


 レシアは二つめのマフィンに手を伸ばした。


「じゃが、ガメーでもハルキ村でも、そんなことをしておるNPCはおらんかった。となると、じゃ」

「裏に人間の存在を感じますね」


 例えば、こういうシナリオはどうだろうか。人間がクエストを受けて、得た報酬でNPCを釣り、支配下に置く。生産系のリージョナルクエストでは、報酬に小麦×100みたいなものもある。

 十分に可能だ。俺とリリも、ハルキ村の連中に小麦粉を配った。支配したくてやったわけではないが、似たようなものだ。

 俺はマップを展開した。俺の各アバターが最後にいた地点に、フラグを立てたやつだ。


「……いますねえ」


 ハイアルドーにも、俺がいる。名前は【エルフ・エル】。名前から分かる通りエルフだ。メイン職はメイジ。


「ふーむむむむ、のじゃ」

「ほら、ボクは勇者だろ? エルフがいれば、戦力増強にもなるんじゃないかな」


 メイジはDPS。遠隔レンジドのピュアDD(ダメージディーラー)だ。今の俺たちはタンク一枚、ヒーラー一枚、バッファー寄りの近接メレーDPS一枚。ここにレンジドDDが加われば、パーティとしてのバランスが良い。

 俺が守りを固め、レシアがバフを配り、エルフが高火力で焼き払い、リリが回復する。理想的だ。相手が一人なら、【スタン回し】で封殺することも可能だし。


「もしもわらわであれば……うーむ、冒険者ギルドと接点を持つことなど、あんまり考えられぬのじゃがなあ」

「ボクだって、誰かと関わるつもりはなかったさ」

「のじゃなあ」


 もしかしたらエルフは、ハイアルドーの冒険者ギルドを足掛かりに、ろくでもないことを考えているのかもしれない。まさか俺に限って……という思いはあるが、勇者になって寒村のモンスターを追っ払うような俺もいるのだ。イキって世界支配をもくろむ俺がいてもおかしくはない。権力を得ることのなにが楽しいのか、さっぱり理解できないが。


「ハルキ村とハイアルドーは、百キロも離れていませんからね」

「NPCが徒歩で来られる距離だよね。無数の小公国がまだらになったこの地で争いが起きれば、ボクたちが巻き込まれる可能性は高いよ」

「是非もなしじゃ。ひとまず様子を見に行こうかの」


 なんのストレスもないダラダラ生活は、実に得難い。コツコツ地固めしていこう。

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