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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第二章 世界の異変と魔女の村
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18:命の天秤

 シーラは聞こえた声に目を見開いて、声の発生源であるピアを見た。

 黙ってきたのに、どうしてここにいるのだろうか。ピアの後ろには、マギ、ルピカ、アルフ、クラースの四人もいた。


「ただならぬ魔力の気配がしたから、きたんです。慌ててシーラを確認しに部屋へ行ったらベッドがもぬけの殻になっていたので、すごく驚いたんですよ?」


 ばれないようにこっそりでてきたのに、結局ばれてしまったらしい。

 ルピカがにっこり微笑みながら告げるので、逆にそれが怖いなとシーラは思ってしまった。


「それで、シーラは何をしているんですか?」

「え、えっとぉ……」


 どす黒いオーラを出していると言っても過言ではないルピカに、シーラはたじたじになる。けれどここで正直に答えてしまっては、作戦がすべてパアだ。

 シーラはどうにかして逃げなければと思い、その名前を呼ぶ。


「私を上空へ連れていって――【シェイド】!」

「――っ!?」


 シーラの呼んだ名前を聞いて、ルピカとピアが大きく目を見開いた。なぜなら、二人は闇の精霊の名がシェイドであるということを知っていたから。

 ルピカは古い文献や資料から。ピアは元々、光の精霊を知っているのだから闇の精霊のことを知っていてもなんら不思議ではない。


 声に応えて顕現したシェイドは、シーラの体を軽々と上空へ飛ばしてしまった。

 それを見たピアは唇を噛みしめて、空を見る。


「あの子、馬鹿なことを……!」


 ピアは、シーラが膨大な魔力を扱えばこの呪いを消せるだろうという可能性には気づいていた。けれど、そんなことは微塵もしたくはなかった。

 だって、シーラが死んでしまう可能性があったから。


 それなのに、シーラはピアノ意思に反して自分で勝手に行動をしてしまう。


「ピア様、どうしましょう。わたくしたちでは空を飛べませんから、シャクア様にお願いするしかありません」

「確かにそうね。シルフあたりに頼めればいいけれど、シェイドには逆らえないでしょうし」


 精霊としての上下関係に縛られていない赤竜であれば、シーラのところまで連れていってくれるだろう。

 しかし、今からシャクアを呼びに行って間に合うだろうか。

 上空で苦しそうにしながらも魔力を制御しようとしているシーラを見ると、いてもたってもいられない。


「と、とりあえずシャクアを呼んでくるよ!」


 話を聞いていたアルフは、クラースと共にシャクアを捜すため一度この場を離れる。

 残ったピアは、「早くしてよね」と息をつく。


「私のために自分の命を天秤にかけるなんて、私がそんなこと喜ぶわけがないのに」

「え……!? どういうことですか、ピア様」


 ほとんど無意識で呟いたピアの言葉に、ルピカが反応する。シーラなら簡単にすべてを解決してしまうのでは――そう思っていた彼女にとって、それは衝撃だった。


 ピアは大きく息をついて、簡単に説明した。


「大きな魔力を持つことができたとしても、それを上手くコントロールすることは難しいのよ。あなただって、魔法使いならそれくらいわかるでしょう?」

「はい」


 このままではシーラが死んでしまうかもしれない。ピアはどうすればいいか、必死に頭の中で考える。

 一つだけ、簡単な方法がある。


「でも、それをしたらシーラは怒るわね」

「……ピア様?」

「私は、自分のために誰かが死ぬくらいであれば――こうした方がましだとおもっているのよ」


 そう言い、ピアは自分の右手に魔力を纏わせて己の腹部を貫いた。


「「――っ!?」」


 声にならないマギとルピカの悲鳴が、周囲にこだまする。


「何しているんですか、ピア様!!」

「どういうおつもりですか!!」


 ルピカとマギの二人は突然の行動が理解できずに、ピアの元へ駆けよりふらつく体を支える。大量の血が流れているのに、その瞳はしっかりと上空へいるシーラへ向けられていた。




『いいのか? あれは』

「嘘、どうしてピアがあんなことするの!?」


 上空にいたシーラは、ルピカたち動揺わけがわからないと隣にいたシェイドへ泣きそうな目を向ける。

 今すぐ地上に降りて治癒魔法を使いたいけれど、集中を切らしてしまったらあっという間に呪いの魔力に押し負けてしまうかもしれない。


 ――でも、ピアを見捨てるなんてことはできない!


 そもそも、そんなことをしてしまっては本末転倒だ。


「シェイド、ピアの下へ行こう。治さないと、死んじゃうよ」

『しかしそうすると、魔力コントロールが上手くいかずにシーラの死ぬ危険が高まるぞ』

「ピアが死んだら、私の生きてる意味なんてないよ!」


 ピアのために頑張っているのだから、彼女が笑ってくれなければ意味はないのだ。

 シーラがシェイドとともに地上に降りると、ピアは嬉しそうに、それは綺麗に微笑む。シーラが来てくれたことに、心底安堵したのだろう。


 が、そんな笑顔が通用するシーラではない。


「なんでこんなことしたの、ピア! すぐに治癒魔法を――」

「駄目よ、シーラ。私はシーラを親友だと思っているし、とても大切。それはきっと、シーラも同じだと思ってる」


 そうでなければ、命の危険がある呪いを解くことなんてしないだろう。

 ピアの言葉に、シーラが頷く。


「でもね。呪いを解く、すごく簡単な方法があるの。……今まで私にそれをしろと言った人はいないし、私自身も絶対にそれはしないと決めていたわ」

「それって――!!」

「きっと、シーラが考えていることで正解ね」


 告げた瞬間、ピアが咳き込み口から血を吐いた。けれど笑顔は崩さずに、それでいいのだと満足そうにしている。


「私が死ねば、この呪いは解けるのよ」

「そんなの嬉しいわけがないでしょ!!」


 まるで、すごいでしょう? とも言いたげな表情に、シーラは怒りを通りこしてあきれてしまう。

 確かにピアが死ねば呪いが解けるかもしれないけれど、そんなことは誰も望んでいない。


 シーラがピアの治療を優先させようとした瞬間、『わぷっ』という陽気な声が耳に届いた。それにすぐ反応したのは、シェイドだ。


『ウィル・オー・ウィプス!』

『わぷー』


 白いふわふわの毛玉――光の精霊、ウィル・オー・ウィプス。

 元々はレティアが『パル』と名付け、使い魔だと言い連れていた精霊だ。最初は誰もその正体を知らなくて、知ったのもマギに教えてもらったからだ。

 王城が崩壊して以降、その行方が分からず心配だったのだが――どうやら無事だったらしい。


 ウィル・オー・ウィプス――パルはシーラの下へやって来て、懐くようにすりよった。


「パル?」


 どうしてパルがきたのか、理由がわからない。でも、今のシーラにパルのことを考えている余裕はない。

 魔力制御と瀕死のピアのことで、精いっぱいだ。


『まさか、お前がここにきた目的は……治癒魔法の強化か?』

『わぷ!』


 シェイドがパルに問いかけると、どや顔で頷いた。

 治癒魔法は光属性の影響を大きく受けるため、確かにパルにサポートしてもらうことができたら、その効果は大きいだろう。


 ありがたいけれど、お腹に穴があいた程度であればシーラは問題なく治癒魔法で治すことができる。

 なので、パルの力はなくても大丈夫。


「……治すね、ピア」


 シーラはそう言って、呪いを解くために制御していた盛大な魔力を開放する。おそらくあっという間に、魔力が暴れシーラの命を奪ってしまうだろう。


 ――ちゃんと仲直りしたかったな。


 最後にシーラが思い浮かべたのは、そんなことだった。


「ヒーリン――」

「そんなこと、させるわけがないでしょう!!」

「えっ!?」


 治癒魔法であるヒーリングを使おうとした瞬間、ピアがさせるまいと大きく後ろに飛んだ。

 その場にいた全員が驚き、治癒魔法がなければ死んでしまう。そう誰もが思ったが、ピアの考えだけは違った。


「私は死ぬから、シーラが治して!」

「な――っ!!」


 ウィル・オー・ウィプスがいるのであれば、少し死んだくらいなら生き返らせるでしょう? と、ピアはそう言っているのだ。


 なんて無茶なことをいうのだとシーラは思ったが、ピアが自分で命を絶ったのを見てしまいぐっと息を呑む。


 ――瞬間。


 シーラに反発していた魔力が消えて、ふっと体の圧が消えた。動きやすくなったし、死ぬかもしれないという恐怖も消えゆく。

 けれど代わりに、ピアという命が消えてしまった。


「ピアは勝手なんだから!!」


 シーラはぐっと涙を堪えながら、まだ温かい親友へそっとその手を伸ばす。頬に触れ、自分の中のありったけの魔力と、ウィル・オー・ウィプスの助けを借りて力強く唱える。


「絶対にピアを助けて見せる――《ヒーリング》!!」


 唱えた瞬間、シーラとピアを温かな光が包み込んで輝いた。あまりの眩しさに目を細めながらも、決して閉じることはせずピアの顔をじっと見つめる。

 どうか目を開いて、息をして、名前を呼んでと――願いを込めて。


「……シーラ?」

「ピア!! ――っうぅ、よかったよおぉぉ」


 意識を取り戻したことを確認したとたん、シーラはぼろぼろと涙を流す。それにつられるように、ピアも大泣きし始めた。


「うわああぁぁぁんっ、シーラ、ごめんね。酷いこと言ってごめんね……」

「うぅん。私こそ、ピアのことをわかってあげられなくてごめんね」


 ぎゅっと力強く抱き合って、互いの頬を涙で濡らす。

 その光景を微笑ましく思いながら、光と闇の精霊は姿を消した。

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