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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第二章 世界の異変と魔女の村
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16:シェイドとの出会い

 シルフの言葉を聞き、ピアは驚きつつも確かにその可能性もあった……と、納得する。

 自然のものにこれほどの魔力が備わっているのであれば、精霊が関与しているということは十分考えられるのだ。


 でも、いったい何の精霊が? という疑問が浮かぶ。

 ピアは目線でシルフへ問いかける。


『……私にもわからないわ。もしかしてと思ったけれど、明確に精霊が宿っているとは言い切れないの』

「シルフにもわからない精霊がいるの?」

『私は下位精霊だから、上位精霊相手だとわからないこともあるわ。ただ、そんな存在がこんなところにいるとも思えないけれど……』


 転がったままのヒヒイロカネには、いったいどんな精霊が宿っているというのだろうか。シルフは自分では計り知れない強い存在がいると告げた。


「……まあ、考えても仕方がないわ」

『ちょ――っ!?』


 ピアはなんの予告もすることなく、ひょいっとヒヒイロカネを拾いあげてしまった。もちろんシルフは焦り、ピアまでもが意識を乗っ取られてしまったら――そう思い身構える。

 けれど当の本人はあっけらかんとし、「大丈夫よ」と笑っている。


『え、どういうこと?』


 シルフが怪訝な顔でピアを見て、その理由はなんだろうと考える。もしかして、ヒヒイロカネの魔力がシーラに移ってしまった……なんてこともあるのだろうか。


「ヒヒイロカネからは、微弱な魔力しか感じられないわね。抜け殻……っていう言葉がしっくりするかしら」

『……その魔力は、いったいどこにいったのかしらね?』

「…………」


 再び、二人で倒れているシーラへ視線を向ける。

 間違いなく、ヒヒイロカネに宿っていた魔力はシーラの中に入ってしまったのだろう。だかから今も目を覚まさないのだ。


『触れる前に、もっとちゃんと確認しないといけなかったのね』


 シルフが盛大にため息をつき、シーラのことを抱きあげる。ここにいても仕方がないので、脱出した方がいいと判断した。

 ピアも頷いて、上空にいるシャクアへ合図を送る。


「シルフ、私のこともシャクアのところまで風で飛ばしてちょうだい。もうマグマが襲ってくることもないから、このままシャクアの元まで行けるはずよ」

『わかった』


 シルフが風を操ると、ふわりとピアノ体が浮かぶ。

 そのまま三人で上空へ行き、シャクアたちと合流する。



 最初に反応したのは、ルピカだった。


「ああ、よかったです。無事で……って、シーラ?」

「話は魔女の村へ戻ってからにしましょう」

「わ、わかりました」


 気絶し、シルフ抱きかかえられているシーラを見てルピカたちは戸惑うも、ピアノ言葉にしぶしぶながらも頷く。

 何もわからない自分たちが口を挟むよりも、早く帰還した方がいいと判断したからだ。


 アルフとクラースも顔を見合わせ、あのシーラが気絶するほどの事態? と、困惑している。



 ***



 まどろむ意識の中、シーラは自分の中に流れ込んでくる膨大な魔力を感じ取っていた。それは今までに経験したことのない渦のようなもので、上手く抗うことができなかった。


 自分の心臓の鼓動がゆっくり響き、それはシーラを眠りに誘う。

 けれど、それを引き留めるように名前を呼ぶ声が少しだけ聞こえてくる。


『シーラ、シーラ』

「……ん?」


 ――聞いたことのない声だ。


 いったい誰だろうと、シーラはぼんやりしながら目を開こうと、なんどか瞬きをする。


『意識が戻ったみたいだ。よかった』

「……だれ?」


 シーラの瞳が捉えたのは、もふもふした黒い毛玉だった。まるでパルのようだと思ったけれど、黒い毛玉には小さな耳としっぽが生えていた。

 黒い毛玉はしっぽを動かして、名前を名乗る。


『僕は闇の精霊、シェイドだよ。ヒヒイロカネを住処にしていたんだ』

「え、あのヒヒイロカネに? そうだ、私……触れたとたんに大量の魔力が流れ込んできて、それに耐えきれなくて」

『うん。気を失ってしまったんだ。でも僕は君に魔力を渡したくて、邪魔をしてきたシルフに少し抵抗させてもらったんだけどね』


 シーラの体を動かしていたのは、闇の精霊であるシェイドだった。

 ヒヒイロカネに宿る魔力をシーラに渡したいがため、あのような手段に出たのだという。そしてその理由も、納得のできるものだった。


『普通、僕やウィル・オー・ウィプスは世界に干渉しないんだけどね』

「うぃる……?」

『ああ、光の精霊の名前だよ。人間たちに干渉することはないから、ほとんど知られてないだろうね』


 光の精霊ウィル・オー・ウィプスと、闇の精霊シェイドは人々に力を貸すなど干渉することはない。

 とはいえ、気に入った人間に懐くということは稀にある。それが、マギの姉であり光の精霊をパルと呼んで連れていたレティアだ。

 光の精霊は彼女を気に入っていたけれど、別段力を貸したりはしなかった。人間には干渉しないと決めているからだ。

 その結果、レティアは命を落としてしまったけれど――それが摂理だと受け入れるしかない。


 しかし今は、植物が育たない状態で、さすがにそうは言っていられないとシェイドが動き出したのだという。


『でも、僕はここから動けなくてね。誰かこないかなと待っていたんだ。そうしたらシーラ、君がきてくれた』

「えーっと……私に呪いを解けってことですか? でも、ピアが呪いを解くために頑張ってるんですよ」


 今回だって、シェイドが宿っていたヒヒイロカネをピアに渡して呪いを解いてもらおうと思っていたのだから。

 シーラがそれを伝えると、シェイドは『そうだったのか』と苦笑した。


『ピアのことは間接的に知ってるよ。ウィル・オー・ウィプスを守ってくれた魔王だよね。でも、残念ながら彼女が呪いを解くのは無理だよ。僕という存在があっても、魔力が足りないから』

「そうなの? でも、私はピアより魔力が少ないと思うけど……」


 ピアどころか、村の中でもシーラの魔力は少ない部類だと思っている。そのため、ピアに不可能なことが自分にできるとはとてもではないが思えなかった。

 そんなシーラを見て、シェイドは目を瞬かせる。


『無自覚か』

「?」

『シーラ、君は十分な魔力をもっているよ。しかも、それは精霊たちが好むものだ。ほかの人と比べて、自分は精霊との距離が近いと思ったことはなかった?』


 問いかけるようなシェイドの言葉を聞き、シーラは今までのことを思い出す。

 精霊たちは村の周辺に多く住んでいたけれど、確かにほかの人とくらべるとよりシーラの元へ集まってきていた。

 下位精霊のシルフたちに召喚石をもらっているひとはほかにもいたけれど、シーラのように複数の下位精霊から召喚石をもらっている村人はいなかったはずだ。


 ――もしかしてもしかしなくても、村で一番精霊たちと仲が良かったのは私?


 今まで、そんなことはまったく考えてもみなかった。

 シーラは肯定の意味を込めて頷くと、シェイドは『そうだろう?』と笑う。


『精霊たちがシーラに懐くのは、その魔力が強大で質がいいから。僕もウィル・オー・ウィプスも、シーラの魔力が大好きだよ』

「私は自分にそんな魔力があるとは思えないんだけどなぁ……」

『それは、愛されているがゆえ――だよ』

「?」


 シェイドの言葉に、首を傾げる。

 なぜ精霊たちに愛されていると魔力がなくなってしまうのか。


『シーラが使った魔法を、精霊たちがちょっとずついただいてるんだよ』

「えぇぇっ!?」


 衝撃の事実を聞いて、シーラは声を荒らげた。

 だってまさか、自分の使った魔法を精霊たちが持っていっていたなんて想像すらしなかったのだから。


 つまり、ということは。


「私の魔法が村で一番下手なのは、精霊たちが発動していた私の魔法を奪ってたから?」

『正解!』

「ひ、ひどい……っ!」


 別に下手でも生活に不自由したりはしなかったけれど、本当はもっとすごい魔法の使い手だったのなら村でも誇らしくしていられたのに。

 シーラは肩を落として、どんよりしてしまう。


 自分はやればできる子だったのか……。


『でも、精霊たちもシーラが魔法を使ったらそれを奪うことは止めないと思うけど』

「……まあ、いいよ。別に不便しているわけじゃないし。精霊たちが喜んでくれてるのなら、私も嬉しいし」

『ありがとう、シーラ』


 仕方ないとシーラが笑うのを見てから、シェイドは改めて呪いを解くための――本題を切り出して説明を始めるた。

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