3:魔女の条件
「ドラゴンが飛んでいったんだよ!」
「ええぇぇ!?」
すぐ宿屋に戻ったアルフは、強い光に気付いて起きたシーラたちに見たことを説明する。
シーラは驚き、ルピカはすぐマリアに連絡するため早馬の手配。クラースだけは、どこか他人事のように眠そうだ。
「っても、俺たちにどうにかなる問題じゃなくないか?」
そう言いながら、クラースは大きなあくびをする。
魔王を倒したとはいえ、ドラゴンを倒せるのか? と、クラースは思っているのだろう。危険には首を突っ込まず、とりあえず魔女の村に行けばいいと言う。
アルフはそんなクラースに苦笑しつつも、「きっと無理だよ」と告げる。
「ドラゴンは、魔女の村がある方向に向かっていってた。僕の推測でしかないけど、何か関係があるんじゃないかな?」
「チッ、めんどくせぇな」
そんな二人の会話を聞いて、シーラはわくわくしたように目を輝かせている。その顔には、ドラゴンに会いたいとうことが書いてあるようだ。
クラースはどこかうんざりしながら、「会いたいのか?」とシーラに聞いた。
「もちろん! 知ってるドラゴンだったらいいなぁ」
「…………」
知ってるドラゴンってなんだよ。
お前はドラゴンに知り合いがいるのか――と、クラースとアルフはツッコミたいのを耐える。シーラは規格外だ。今更ドラゴンに知り合いがいたとしても、驚かない。
ひとまずドラゴンのことをマリアに知らせ、当初の予定通りシーラたちは魔女の村へ向かった。
***
御者をしてくれたいた人に急きょマリアへの連絡を頼んだため、今は変わりにクラースとアルフが御者席にいる。
がたごとと馬車は進み、前方に一つの村が姿を見せた。霊峰の麓にあるその村は、雲なんてかかっていないのにどこか薄暗い雰囲気をかもし出している。
上空には黒の鳥が飛んでいて、何か怪しい儀式をしていてもおかしくはない。
思わず、アルフとクラースが顔をしかめたほどだ。
「おい、ルピカ。村が見えたが、本当にあれば魔女の村か?」
「地図を見る限り、そうですけど……なんというか、変わった様子の村ですね」
「だいぶ変わってるだろ……」
窓から顔を出して村を見るルピカは、苦笑する。
「魔女の村は、特殊な場所なんです。一応、書類上は誰の土地……という名目はあるのですが、実際には国友ほとんど干渉がないんです」
税金を納めるなど最低限のやりとりはあるけれど、それだけだ。
「魔女の村!? うわ、想像とちょっと違う……」
「いったいどんなのだと思ってたんだ、シーラ……」
ルピカの横から顔を出して、シーラもじっと魔女の村を見つける。どんな素敵なお店があるのだろうと思っていたけれど、あまり期待できそうにない。
とりあえず魔女の村の前までやって来ると、その入り口は大きな門で閉ざされていた。その高さは、およそ三メートルほどだろうか。硬度の高い鉱物を使っているらしく、重厚だ。
馬車から降りたシーラたちは扉を開けようと試みるも、びくともしない。
ルピカは周囲を見回して、村の中と連絡の取れる手段はないかと思案する。すると、扉の端に小さな小窓があることに気付く。
「あ、あそこから連絡を取れるんじゃないでしょうか?」
「本当だ、窓があるね」
シーラはルピカの言葉に頷き、窓の下まで行って「こんにちは」と声をかける。すると、黒いフードを被った人が向こう側に現れた。
「……どちらさま?」
「私はシーラ。聞きたいことがあって、ここへ来たの」
「聞きたいこと……ですか」
すぐ行動に移したシーラを見て、ルピカは慌てる。率直に用件を伝えても、こちらが魔女たちに信頼されているわけではない。警戒されてしまうのではと、懸念する。
「シーラ、いきなりすぎます……」
「でも、魔王ピアの情報は必要だよ?」
「順序というものがありますから……」
ルピカがフォローに入るも、シーラがさらりと今回の目的の情報も口にしてしまう。どちらにせよ話すつもりではあったけれど、タイミングを考えてほしいとルピカは冷や汗ものだ。
けれど、そんな考えはどうやら杞憂だったらしい。『魔王ピア』という言葉を聞き、フードを被った魔女がぴくりと反応した。
何か知っているようなその素振りに、緊張が走る。
それならばと、ルピカがシーラに代わって前に出た。
「どうやら、情報をお持ちのようですね。となると、この現状ももちろん把握していますね……?」
「……ピア様をご存知だからといって、私たちの村へ入れることはできません」
「! それはなぜでしょうか? この村では、現状をどうにかしたいと考えてはいないのですか?」
小窓の向こう側にいる魔女の表情は、シーラたちの側からは見えない。けれど、確かに魔女はピア『様』と告げた。
うっかり倒すために捜していると言わなかったことは幸いだろう。
どうにかして入れてもらいたくて策を巡らしているルピカは、じっと魔女を見つめる。
「なら、交換条件はどうだ?」
「クラース!?」
後ろから様子を見ていたクラースが、ルピカと魔女の会話に入る。それは至極単純な提案で、二人ともが考え込む。
そしてシーラは、クラースの意見に賛同する。
「私はいいと思う! できることなら、なんでもお手伝いするよ」
「…………」
にっこり笑って言うシーラを、魔女が不思議そうに見る。
「あ、やっと顔見れた」
フードから少し覗いた魔女の素顔は、赤色の瞳と髪が特徴の綺麗な女性だった。
クラースの提案を受け入れるかどうか迷っているようで、口元に手を当て悩んでいる。どうやら、魔女の村は条件にできそうな問題があるようだ。
魔女は小さくため息をついてから、口を開く。
「いいわ。こちらの頼みを聞いてくれたら、村へ入ることを許可しましょう」
「やった!」
「こちらの条件は、山の守り神を癒すこと。今、とても傷ついていて、普通の薬草やポーションじゃ治せないの。……あなたたちに、それができて?」
魔女の言葉を聞いて、思わず全員で「治癒……」と呟いてしまったのは仕方がないだろう。こちらには、本人こそ不得意と意味不明なことを言っているが――聖女と称されるシーラがいるのだ。
どうやら簡単に街へ入れそうだと、シーラ以外の一同は安堵した。