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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
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3:治癒魔法のスペシャリスト?

 大人しそうなルピカがあげた大きな声に、シーラは慌てる。

 自分の長い耳……エルフと呼ばれる人間がそんなにも珍しいだろうか。シーラの村に住んでいるのは、全員がエルフなのだ。


 エルフとは、自然に愛され魔法に特化された種族だといわれている。

 遥か昔はその存在もよく見かけられていたらしいが、近年ではその姿をまったく確認できなくなっている。ルピカの言うように、お伽噺だと思っている人間が大半なのだ。

 しかしそれは、エルフのことをよく知らない人間たちによって広められた、根も葉もない言い伝えなのだ。


 本当のエルフとは、普通の水だと思い日常生活で飲み、使用していた泉の水が――実は伝説のエリクサーだったという事実が根本にあるのだ。

 世界の端で、ひっそり湧き出ていたエリクサーの泉。

 その近くにあったのが、シーラの生まれ育った名もなき村だった。飲んで育った人間が、エリクサーの効果を存分に発揮できるよう進化した姿。

 それが、エルフなのだ。

 今となってはそれを記した文献も、その事実を知る人間もいないけれど……。


「そんなに珍しいかなぁ?」

「珍しいなんて、簡単な言葉で片付けられるものではないです……シーラさん」


 シーラは耳を触りながら、苦笑する。


「でも、耳が長いだけで……ほかは特に変わったところもないよ?」

「そうなんですか? エルフといえば、その……治癒魔法のスペシャリストだと古い文献で読んだことがあります。もしかして、シーラさんも?」

「あー……」


 おずおずと、ルピカが尋ねる。

 自分の仲間が怪我をして大変なのだから、治癒魔法を使える人がいるならば助けを求めてしまうのは仕方がない。

 シーラは苦笑しながらも、「一応、使えるんだけど……」と答える。


「ただ、私は村の中でもあまり治癒魔法が得意じゃなくて。だから、すごい聖女さんが見てくれてるなら、その方がいいと思う」

「すみません、わたくし……」

「気にしないで」


 確かに……エルフという理由だけで、世界最強の治癒魔法使い! そう思われてしまうのは、治癒魔法が苦手なシーラとしてはたまったものではない。

 けれど、仲間を助けたいからこそ、藁にも縋る思いで聞いたのだろうとシーラは考える。それに不快を示すほど、シーラは子供ではない。

 だからこそ、自分も兄弟のように上手く治癒魔法を使えたら、と思う。


 ――お姉ちゃんなんて、心臓が止まっても五分以内なら治癒魔法で蘇生させちゃうもんね。

 シーラには、どうあがいても無理な話だ。

 もちろん、本格的に治癒魔法の修行をすれば話は別かもしれないけれど。


「でも、治癒魔法を使えるだけでもすごいことですから。……シーラさん、今まで王都に行ったことは?」

「ないです。というか、村から出て遠出をするのも初めてで」

 だから何も知らないんですと、シーラは素直に告げる。

「そうだったんですか。……なら、エルフの耳は隠した方がいいと思います」

「あ、そうか……フードを被っておきます」


 今のルピカの反応を見れば、耳を出しておかない方がいいことくらいは想像ができる。ずっとフードを被るのは窮屈だけれど、物珍し気にずっと見続けられるのはもっと嫌だ。

 シーラは世界を見て旅したいのであって、わーわーと騒がれ、見世物にされたいわけではないのだから。


「はい。もしくは、帽子でもいいかもしれないですね」

「そうですね。都会……王都に行ったら、可愛い洋服もほしいです!」

「シーラさんは可愛らしいから、似合うドレスがたくさんあると思います。そのときは、ぜひわたくしにコーディネートさせてくださいね?」

「本当ですか? 嬉しい!」


 ルピカの提案に、シーラは嬉しそうに微笑む。

 都会でお洒落、この言葉にときめかないはずがない。


 しかしそれを実現させるには……薬草がどれくらいあればいいだろうかと、シーラは頭を悩ませる。

 村で洋服作りが得意な人に一着作ってもらうには、材料の綿を摘み、動物を狩り、お礼に薬草を大量に渡したりしていた。完璧に自給自足だ。


 シーラが村を出るときに持ってきた薬草は、三〇束。

 クラースに一束あげたので、残りは二九束だ。それで足りるか不安になる。……最悪、ハイ・エリクサーと交換してもらう必要があるかもしれない。


 悩みながら、「たくさん手に入れるのは難しいかも……」とシーラが呟く。すると、それを聞いたルピカが「大丈夫ですよ」と微笑む。


「治癒魔法を使える人は、とても少ないんです。その割に冒険を生業にしている人が多く、怪我人が絶えません。治癒の仕事なら、どこに行っても困らないと思います」

「本当? よかった! 手持ちの薬草が少ししかないから、ちょっと不安だったの」


 すぐに働けるというのは、生活する上でとても大事だ。

 その日のご飯に困ることはなさそうだと思い、シーラはホッとする。しかしそんなシーラとは反対に、ルピカはまたも驚いて声をあげる。


「え、えっ!? そんな大切な薬草をいただいてしまったんですか!? しかも王都までの道のりと引き換えに!?」

「あ、はい……」


 薬草と引き換えに道を教えてもらえるのなら、かなり助かるとシーラは思っている。なので、そんなに気にすることはないのにと苦笑する。


 ただ、ここは深い森の中。

 シーラはあまり気にしていないけれど、魔力濃度がとても高い場所で、普通にすぐ使える薬草というものが逆に貴重なのだ。普通の薬草ならば問題ないが、魔力濃度の高いものをすぐ人間に与えると、耐性がない場合は毒になってしまうこともある。

 もちろん、希少な薬草は生えている。

 けれど、それはすぐに使う物ではなく、専門職の人間がしっかり加工して初めて素晴らしいポーションやアイテムへと姿を変えるのだ。

 シーラの現状を知ったルピカは、クラースとの約束だけでは足りないと判断して条件の追加を申し出た。


「王都に行くのでしたら、お金だって多いにこしたことはありません。薬草の代金も、支払わせてください」

「?」

「お金は多くても困らないでしょう?」


 ――お金?


 ルピカの言葉を聞いて、シーラは首を傾げる。

 それもそのはず。彼女の村は、周りにほかの村も、もちろん町もない。そのため、今も物々交換という風習なのだが……その事実をルピカも知りはしないし、シーラも疑問には思っていないのだ。

 シーラは王都に行ったら、薬草と洋服を物々交換してもらおうと思っているのだから。

 お金について問いかけようとしたところで、テントからクラースが出てきた。


「シーラ、あの薬草……かなりいいものだったみたいだな。マリアが感謝してた。よろしく伝えてくれって」

「そうですか? ならよかった」


 クラースの言葉に喜び、シーラはほっとした。

 薬草は治癒魔法の回復促進など、補助の役割で使うことができる。自分の薬草が役に立ってくれてよかった。

 シーラの隣では、ルピカも安堵している。


「怪我はまだ酷い? せめて、アルフの意識が戻ればいいんですけど」

「ああ。なにせ、魔王を倒したときに付けられた傷だ。簡単にはよくはならないだろう」

「そうね……」


 薬草があっても、すぐに治るような優しい傷ではないとクラースが告げる。

 深刻な二人の様子に、シーラは黙る。

 いつまでも自分がこんなところにいて、いいのだろうか? 役に立たないので、そうそうに道を聞いてお邪魔した方がいいんじゃないかと考えてしまう。


 ――というか、魔王って何?

 それこそ、お伽噺の話かと思っていた。

 シーラの住む村は平和だし、そんな悪の親玉みたいなものがいるとは考えもしなかった。

 どちらかといえば、この森は村から近い方だろう。しかし、魔王がいるなんて今まで聞いたことはない。


 ――魔王にやられた傷だったら、確かに治すのは大変そう。

 どれだけ酷いのか、シーラには想像もつかない。

 もしかして、体の原型が留められていないのかもしれない。心臓だけしか残っていないとか、下半身が全部吹っ飛んで上半身しかないとか。

 そりゃあ、さすがの聖女様でもすぐに治せないのも頷ける。

 自分の姉ですら、そこまで酷い怪我だと治せないかもしれない。

 村のおばば様であれば治せそうだけれど、そもそも村人たちはそこまで重症になったことがないから前例がないだろう。


 真剣に悩み始めてしまったシーラに、クラースが明るく声をかける。


「まあ、夕飯にするか。もう夜になるから、シーラも一緒にどうだ? 寝るときはテントも使っていいぞ」

「え、いいの!? それはすっごく助かる!! ありがとう~!」

「おう。貴重な薬草をもらったんだ、これくらい構わないさ」


 テントも、ルピカと一緒だから安心だろう? と、クラースが声をかけてくれる。夜に一人というのは多少心細さもあったので、シーラはお言葉に甘えることにした。

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