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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
34/59

33:全壊した王城

 地下にいたはずなのに、明るい光がシーラを照らす。

 真夜中だと思っていたのに、いつの間にか朝日が昇っていたらしい。どうやら、自分が思っていたよりもずいぶんと時間が経過していたらしい。

 なぜ地下に朝日が? そう思うだろう。


 答えは簡単。王城が全壊してしまったからだ。



 王都のシンボルとも言える王城は、一夜にして瓦礫の山と化した。更地のような場所で平然と佇んでいるのは、シーラと四人の下位精霊だけだろう。


「……やりすぎだよぅ、シルフ」

『すっきりした~!』


 シーラ自身はウンディーネが水の結界を張ってくれたため無傷だが、辺りは死屍累々。いったい何人が生きているのだろうかと、体が震えるほどだ。

 そしてすぐに、ルピカたちの安否を確認しようと周囲を見渡す。

 ルピカだけではない、マリアやアルフ、クラウスは無事だろうか。もしかしたら、瓦礫の下に埋まっているという可能性だってある。

 そうなっていた場合は、すぐさま救出しなければいけない。


 ――でも、逃げてって言ったから、きっと無事なはず。


「ルピカ―! どこにいるのー!?」


 周囲の状況はおいておいて、ひとまずルピカを捜そうと決める。マリアたちと一緒にいてくれたらいいけど……そう思いながら瓦礫の中を駆けまわる。


「どこだろう」


 玉座の間だった場所は見るも無残な姿になっていて、大きな柱がむき出しになり、窓ガラスは粉々に散ってしまっていた。

 歩くとガラスの破片を踏んでしまうため、じゃりっという音がする。


「ルピ――ッ!!」


 もう一度名前を呼ぼうとしたところで、シーラは見てしまったモノにハッとする。

 それはシルフとサラマンダーの魔法を受けて、見るも無残な姿になったレティアだ。顔は半分焼け、息をしていなかった。

 見たくなかった、そう思ったけれど……もう遅い。


「……私は」


 自分のせいで、人が死ぬ。

 その事実を受け止めるのに、時間がかかりそうだとシーラは拳を握りしめる。ポタポタと赤い血が流れるが、それは瞬時に癒される。

 無意味な行為だが、これくらいしなければ後悔の念に押しつぶされてしまいそうだった。


 そして改めて、周囲を見る。

 聞こえてくるのは、苦しそうにする人たちの声と悲鳴だ。つい先日は魔王討伐の祝賀パーティーをしていたのだから、こんなことになるなんていったい誰が予想していただろうか。



 しばらくして、シーラは人だかりができている場所を見つけた。

 そこにはルピカと、何やら指示を出しているマリアの姿があった。それにほっとして、すぐに駆け寄る。


「ルピカ! マリアさん!」

「シーラ!! ああ、よかった無事で……っ!!」

「わっ」


 手を振ってルピカの方へ行こうとして、しかしそれよりも早くルピカがシーラに飛びついた。無事でよかったと涙を流すその姿に、心配をさせてしまって申し訳なかったと思う。


「うぅん、ルピカこそ。大丈夫だった?」

「ギリギリでしたけれど、なんとか間に合いました。マリアにもすぐ合流できたので、今は統率しているところなんです」

「まったく、こんな無茶をするなんて思ってもみなかったわ」


 苦笑するルピカとマリアは、けれどどこか満足そうな表情だ。シーラもそれにつられて笑い、少しだけ気持ちgが楽になる。

 そして同時に、ルピカとマリアが怪我していることに気付く。

 シーラがヒールを唱えると、みるみるうちに傷が癒え――周りにいた人たちから「おおぉっ」と感嘆の声があがる。


「ありがとう、シーラ」


 ルピカは傷のなくなった手の甲などを見ながら。礼を述べる。

「助かったわ。……一応の報告は、先ほどルピカからしてもらったから大丈夫だけれど、あとでシーラも詳細を教えてちょうだいね」

 マリアは怪我ことよりも、今回の詳細を気にする。

 今も多くの人がマリアの下へ集まっていおり、指示を出すだけでも大変なのだ。


「わかった」


 頷くシーラにマリアがほっとしたところで、一人の男性が前へと出てきた。いったいなんだろうと首を傾げると、ぐいっとシーラの腕を掴んだ。


「すぐ、陛下にも癒しの魔法をかけてくれ。傷が深いのだ」

「!」


 思わず攻撃を……と思ったシーラだったが、どうやら敵ではないらしく寸でのところで手を止める。国王ということは、マリアの父親だ。

 シーラはすぐに頷いて、男の後について行こうとしたのだが――今度はマリアがシーラの腕を掴む。


「マリアさん?」

「エレオノーラ様、早くしないと陛下が……あなたのお父上が危ないのですよ。すぐにこの娘から手を離し――」

「黙りなさい」

「っ!?」


 文句を言う男を睨みつけて、マリアはゆっくりと首を振る。


「今しがた、陛下が息を引き取ったという報告を受けました。治療は必要ありません」

「な、なんだと!? 陛下……っ!!」


 マリアの言葉を聞き、男は掴んでいたシーラの腕を離して駆け出した。おそらくその方向に国王がいるのだろうと、ぼんやりした頭で考える。

 けれど、今はそうではなく、そうではなくて――。


「マリアさんのお父さんが……っ!?」


 国王とはほんの少し顔を合わせただけで、シーラはどういった人なのかあまり知らない。けれど、マリアの父親なのだ。娘である彼女が、辛くないわけがない。

 自分がこの国に来なければ、精霊のことを教えなければ、こんなことにはならなかったと自分を悔やむ。

 シーラにも家族はいて、もし亡くなったとあれば……とてもじゃないが気丈に振舞える自信なんてない。

 なんてマリアに謝ればいいのだろうと、唇を噛みしめる。

 けれど、マリアの口から出た言葉はシーラがまったく予想していないものだった。


「気にしないでいいのよ、シーラ。これでわたくしが国王になれる」

「え……?」

「……今回の精霊たちの事件の首謀者は、お父様……陛下だったのよ。国のトップに立つ人間がそんなことをするなんて、許せない」


 だから、治癒魔法が間に合わないように少しシーラの腕を掴んで足止めさせてもらったのだと、マリアにさらりと告げられた。

 シーラは息を呑んで、マリアを見つめる。だって、まさかそんなことを彼女が考えているなんて思いもしなかったのだから。


 ――そういえば、マリアさんから家族の話は全然聞かなかったな……。


 マリアはずっと、この国のことを、国民のことを第一に考えてきた。シーラに対しても、王都のいいところや楽しいところを教えてくれた。



「わたくしはこの国が大好きなの。家族よりも、ずっとね」


 誰もが幸せに……なんて大それた夢かもしれないけれど、マリアは本当にそれを実現したいと思ったいたのだ。

 マリアの理想はとても高い。

 それは、彼女を聖女と呼ばせる一つの要因にもなっているだろう。

 けれど、大人というのは子供の夢を裏切るもので。

 いつのころからか、父親の政治はよくないのではと思うようになった。そして、今回の精霊事件が決定打になったのだ。



「マリアさん、でも、だからって……っ!!」

「いいの。お願いだから、わたくしを立ち上がらせてちょうだい。城を立て直し、わたくしは今まで以上にこの国を豊かで幸せな場所にすると誓うわ」


 だからシーラも、それを見ていてとマリアが強い意志を持って告げる。そして同時に、こんな国でごめんなさいと謝罪の言葉も口にした。


「せっかく王都へ憧れて田舎から出てきたのに、がっかりしてしまったでしょう?」


 申し訳なさそうに言うマリアの表情は、目元に皺がよって泣くのを我慢しているように見える。シーラはすぐに、「そんなことない」と口にする。


「全然ないよ。だって、まだ少ししか観光してないけど……ここはとっても素敵で、楽しくて、田舎にいた私からしたら夢のような場所だよ」


 だから、マリアが恥ずべきようなことはない。


「ありがとう、シーラ。なら、わたくしはもっと、今以上シーラに夢を見せてあげるわ」

「アリアさん……」


 気丈に振舞うマリアに対して、頷くことしかできない。本当は、こんな大変なことをマリア一人に背負わせるのはよくないのでは……という思いがシーラの中にある。

 けれどそれは、ルピカの言葉で変わる。


「シーラが気にすることはないですよ」

「ルピカ……でも、私」

「大丈夫ですよ。マリアは強いし、わたくしたちだって付いていますから」


 ルピカはマリアの決意を知っていたようで、強い瞳で彼女を見ている。


「わたくしは地下から出て、すぐにマリアと陛下を連れて避難したんです。……城が崩れていくのを見て、きっと混乱したのでしょうね。陛下はどうして地下に捉えている精霊が――そう、言ったんです」

「王様が……」


 決定打は国王がうっかり自白してしまったのだからおかしいでしょうと、ルピカが言う。

 そして同時に、もう精霊たちが苦しむこともなくなるからと微笑んだ。

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