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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
27/59

26:偶然の産物

「あ、いけない……道がわからなくなっちゃった」


 ルピカたちが情報収集をしている間、シーラは一人で王都を観光することにしたのだが……いかんせん、村と比べてとても広い。

 ついうっかり、自分がどこにいるかわからなくなってしまった。


「でもまあ、ルピカの家の方向はわかるから大丈夫かな」


 特に大きい王城は、どこにいても見ることができる。

 シーラの両手は、買い物をした紙袋でふさがっている。可愛い雑貨類と、食べ物系だ。あとでルピカと一緒に食べようと思っているので、そこそこ量が多い。

 細い路地を歩いて行くと、人気がなくなっていく。こっちじゃなさそうだとシーラが引き返そうとして、ふと違和感を覚えた。

 けれどそれが何か分からなくて、シーラはそのまま歩いていくことにした。



 ルピカの屋敷のような豪邸ではなく、木造の古めかしい建物が並ぶ路地でお店などはいっさいない。

 ドアが開け広げられている場所もあったので中を覗いてみたが、そこに人の姿はない。


 ――誰も住んでいないのかな?


「ルピカたちがいたら、ここがどんな場所かわかるのに」


 シーラの村には、空き家は存在しない。人が住まなくなったとしても、倉庫など別の用途で使うからだ。もしくは、人の住まない家は傷むため取り壊してしまう。

 地面からは無造作に雑草が生えていて、大通りのきらびやかな雰囲気とは全く違う。


「王都にもこんな場所があるんだ……」


 これでは精霊も逃げ出してしまいそうだ、なんて思う。

 道の先はどこへ抜けているのだろうと歩いていたけれど、レンガの壁がシーラの行く手を拒んだ。


「まさか行き止まり!? あ、だから誰も歩いてなかったのか……」


 先に道がないのならば、ここを通る必要がない。

 来た道を戻るのはなんだか億劫だ。そう思ったシーラは、周りに人がいないことを確認してからそっと風魔法を使うことにした。

 精霊に力を借りる精霊魔法ではなく、自分の魔力を使う普通の風魔法だ。


「これで壁を跳び越えて、向こう側に行けばオッケー」


 そんな軽い気持ちで風を起こしたのだけれど、結果は予想外の方向にいく。

 シーラの体が浮かぶのと同時に、その風圧で壁から一部のレンガが抜け落ちたのだ。壊してしまったと焦り、すぐに落ちたレンガを拾う。


「……あれ?」


 レンガを壁にはめようとしたところで、その壁がおかしいことに気付いた。中が空洞のような作りになっていて、地下に降りる階段があったのだ。

 隠されるような作りになっていたため、シーラは興味深く中を覗き込む。風が吹いているので、空気の流れなどは問題なさそうだ。


「どこかに繋がってる……んだよね?」


 下へと続くようになっている階段は螺旋状になっていて、先が見えない。魔法で明かりを創り、シーラは降りてみることにした。



 三階分ほど地下へ降りると、通路に出た。

 壁に設置されているランプで明かりが灯ってはいるが、石造りで薄暗い。重苦しいような雰囲気で、あまり先に進みたいとは思えない。


「街の地下……だよね? いったい何の場所だろう」


 降りてきた階段は、普段あまり使われることがないのか、どこか埃っぽさが目立った。けれど、階段の先にあった石造りの通路は定期的に掃除をしているようで綺麗だ。


「村とは違って、地下にも家がある……とか?」


 確かに食料などは、少しだけ地下に空間を作りそこに保存していた。王都はこれだけ人がいるのだから、その規模も大きいだろう。


「……って、そんなわけないよね」


 さすがのシーラも、今の考えは非現実だったと苦笑する。

 そして思い返すのは、ルピカたちの言っていた精霊の研究施設だ。もしかしたら、ここがそうなのではと考えた。


「だって、入り口にドアがなかったもんね」


 それは人に見つかりたくないからだ。

 ゆえに、シーラの勘が告げる。この先には、絶対何かやましいことがあるのだと……!!


「ルピカたちだけに任せておくのは申し訳ないもんね」


 馬車に乗せてもらい、お金の使い方を教わり、薬草のお礼までいただいてしまった。それになにより、ルピカは友達だと言ってシーラのことを温かく迎え入れてくれたのだ。


「よし、頑張って進もう」


 先へ進む長い廊下は、一見わかりにくい造りになっているが、斜面が付いている。少しずつ、下へ下へ向かっているようだ。

 二〇分ほど進むと、通路の幅が二倍ほどに広くなった。簡素な石畳も綺麗な床へ変わり、オフホワイトの壁紙が貼られている。

 その雰囲気は、街にいるというよりも――。


「お城みたい……。もしかして、結構歩いたからお城の下まで来ちゃったのかな?」


 もしそうであるならば、精霊の研究施設としての可能性が上がる。レティアのような研究員は、基本的に王城で研究をしているからだ。

 街からも王城からも出入りできるのであれば、研究がしやすいだろう。



 ――それにしても、誰もいない。


 使われていない場所なのかとも思ったけれど、手入れがされているのでそれはないだろう。

 もくもくと変わらない景色を見ながら歩いて行くと、曲がり角の先からやっと人の話し声が聞こえた。


「! ……誰かいるみたい」


 ぴたりと動きを止めて、シーラは曲がり角の先を覗き込む。そこは広く直径五〇メートルほどのホールになっていて、白衣を着た人間がいた。

 すぐにレティアが着ていたものと同じだと気付く。やはりここは精霊の研究をしている場所で、何かの手がかりがあるのだろう。


 シーラは実にあっけなく、証拠に辿り着いてしまったようだ。


 観察を続けた結果わかったのは、白衣を着た人の数はざっと三十人。

 中央の床には魔方陣が描かれていて、淡い光を放っている。起動しているものだということは、一目でわかる。

 怪しげな水の入った二メートルほどの装置が壁際に何台も並んでいるが、シーラの位置からではそれが何かまではわからない。


 ――何をしてるんだろう?


 目を凝らして見ていると、水の入った装置の中にうっすらとした影が見える。もしかして、魚でも泳いでいるのだろうか? もっとよく見ようと体を乗り出すと、うっかり白衣を着た研究員と目が合ってしまった。

 高圧的な視線と態度をとり、シーラのことを睨んできた。


「誰だ!?」

「ぴゃっ!?」


 ――見つかっちゃったっ!!


 思わぬ大失態に、シーラは焦る。


「ここは許可がなければ立ち入れない場所だ。特に誰かが来るという通達もきていない。名を名乗れ!!」

「ど、どうしよう……っ」


 とりあえずこのまま方向転換して、来た道を全力で駆け戻った方がいいだろうか。そんなことを考えるが、現状がそうさせてはくれなかった。


「――え?」


 はっきりと、見えてしまった。

 水のような謎の装置に入れられていたのは、魚なんかじゃなかった。


「シルフの眷属?」


 ハッとして、シーラは装置すべてに目を向ける。

 水の中に捕らえられているのは、精霊の眷属たちだ。普段は森など自然が多いところで過ごす、害もなにもない可愛い精霊たちだ。


「ウンディーネに、サラマンダーとノームの眷属たちもいる……!! 嘘、この地にいる精霊の眷属たちを……ここに捕まえてるっていうの?」


 それぞれ自分たちより上の精霊であるシルフ、ウンディーネ、サラマンダー、ノームに仕えている。主人と仲のいいシーラに対しても、いつも眷属たちはよくしてくれているのだ。

 その子たちが今、ぐったりと怪しい装置に囚われているのだ。

 信じられないと声をあげるシーラに対して、白衣を着た者たちも信じられないと叫ぶ。


「なぜこいつらが精霊だとわかった!? お前は誰だ、ここへの訪問許可が下りているとは言わせないぞ!!」

「すぐに捕らえろ!!」

「ノームの力を我に、《拘束》!」

「――ッ!?」


 白衣の男たちが声をあげ、そのうちの一人が精霊魔法を行使した。とたん、装置に入れられていたノームの眷属から悲痛な声があがる。

 無理やり力を吸い取られていることがわかり、シーラは唇を噛みしめる。


 ――どうすればいい!?


 男の精霊魔法を避けて、逃げることはおそらく可能だ。しかしそうすると、目の前にいる精霊の眷属たちを見捨てるということになってしまう。


 シーラにそんなことができるだろうか――否。


 捕まっている精霊の眷属たちを助けるために、あえて捕まることを選択する。男の発動した精霊魔法によって、地面は盛り上がり土がシーラの足を捕らえた。


「これはまた、可愛らしいお嬢さんだ。……見ない顔だな?」

「…………」


 白衣を着た黒髪の男が一人前に出てきて、訝しむようにこちらを見る。ほかの研究員に、シーラを知っているかと問いかけるが、ここにシーラを知る者はいない。


「精霊の眷属たちを解放して!」


 シーラも負けじと男を睨みつけ声を荒らげるが、男は不快に目を細めただけで冷静だ。顎を掴まれて、尋問するように尋ねられる。


「名前は? なぜここへ来た? まさか、迷ったなどという戯言を言ったりはしないだろう?」

「…………」

「質問に応えろ、侵入者」

「それなら、あなたたちこそ何もしていない精霊の眷属を解放するべきでしょう!?」

「口答えは許さん」


 自分たちを棚に上げたような言い方に、カチンとくる。


 ――こんな人たちが精霊たちをいいようにしているなんて。


 とりあえず捕まってみたはいいけれど、どうするかまでは考えていなかった。

 精霊の眷属を助けたいと思ったが、そもそもあの装置がどのようなものかわからないので、どうしたら助け出せるのかがわからない。


 ――壊せばいいのかな?


 そうであれば手っ取り早いけれど、いかんせん装置がどうなるのかわからない。不確かなことをして、精霊の眷属たちを傷つけてしまうのは避けたい。

 考え込んで押し黙ったシーラを見て、男は大きく舌打ちをする。


「ふん。とりあえず、この小娘を牢に入れておけ」

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