24:王都観光
翌日になり、シーラはルピカと一緒に王都観光に繰り出した。
街に入る門から王城まで続く大通りは活気があり、シーラの興味をそそるお店がそれはもうたくさんあった。
「うわあ、何あの服すごい、可愛い……!!」
「貴族の令嬢にも人気のお店ですね。シーラが着たらきっと似合います」
「そうかな? でも、動き難そう」
シーラが見ているのは、レースとリボンを贅沢に使って作られたドレスだ。ふわりとしたスカートに、コルセットで絞るため腰回りはとてもスッキリとして見える。
「別に、戦闘中に着る服じゃないですよ?」
「あ……それもそうだね」
ルピカの言葉を聞いて、思わず笑う。
「でも、服をたくさん買うと荷物がかさばっちゃうなぁ」
しかも、豪華なドレスなのでとても重そうだ。
シーラとしては、可愛い軽めの服が数着あればいいなと思っている。まだいろいろと旅をしたいので、身軽にいられることが第一だ。
「なら、わたくしの家に置いておくのはどうですか?」
「え、でも……」
ルピカの提案に、さすがにそれは申し訳ないとシーラは思う。しかし、次にルピカが提案してきたことを聞いて目が輝く。
「お友達ですもの、シーラにはいつでも遊びに来てほしいんです」
「遊びに行っていいの?」
「はい、いつでも大歓迎です」
「わぁ……! 嬉しい」
そう言って笑うルピカに、シーラは礼を告げる。それならば、服を買うのもいいかもしれないと店内へ入る。
「いらっしゃいませ」
ルピカを見た店員は、すぐに侯爵家の令嬢だと気付いたのだろう。すかさずこちらへやってきて、奥の部屋へ案内をするが、それはルピカが断った。
「本日は、お友達の服を見たいんです。わたくしが選びたいので、声をかけるまで下がっていてください」
「かしこまりました。何かありましたら、お呼びください」
以前、ルピカはシーラに服を選んであげるという約束をしていた。それを今ここで実現しようと思い、嬉しそうにしている。
店内には、既製服はもちろんだが、一からドレスを仕立てるための生地やレース、装飾品なども飾られている。
「シーラは綺麗な髪色ですから、濃い色でも淡い色でも、どちらのものも似合うから悩んでしまいますね」
「そうかな?」
ルピカがシーラにドレスをあてがいながら、「そうですよ」と微笑む。
「白系統であれば清楚ですし、濃いブルーや赤なら存在感を強く主張できますね」
「ふうん……服のことは全然わからないから、そうやって教えてもらえるのは嬉しい」
「たくさん着てみましょう」
「うんっ」
シーラとルピカは、せっかくなので店内にあるドレスを色違いで試着してみる。シーラはピンク色のドレス、ルピカは水色のドレスだ。
頭には、リボンとレースで作られたボンネット。レース生地が広いため、シーラの長い耳もしっかり隠してくれている。
ドレスは少し濃いめの色合いで、白色のストライプラインが入っている。袖口はひじ丈でカフスが止められ、レースが綺麗に折り重なり広がっている。
「わあ、すごく可愛い。お揃いだ」
「やっぱりシーラはピンクが似合いますね」
二人で鏡を見ながら互いに褒め合う。
今までこんなことをしたことがなかったので、とても楽しい。村では必要最低限の服しかなかったし、特別な日といったら結婚式くらいしかなかった。
普段着る服も、狩りに行き仕事をするので、丈夫で汚れてもすぐに洗えるものが多い。こんなにたくさんレースのついた服を着たのは、きっと村の中でシーラだけだろう。
「これ買う! ルピカも買うの?」
「シーラとお揃いになるんだから、もちろん」
店員にはこのまま着ていくことを伝え、会計を済ませてそのまま店を出る。
次に向かったのは、隣にある色とりどりの品が並ぶ菓子店だ。王室御用達の看板が下げられ、店内も多くの人が買い物する姿がうかがえる。
どうやらルピカはこのお店を知っているようで、店内へ入るときに話をしてくれる。
「ここのキャンディやクッキーは絶品ですよ。特にキャンディは日持ちするので、旅に出る前に買っていきました」
「そうなんだ! 私もそうしようっと」
二人で店内に入ると、すぐに甘い香りが漂ってきた。それにわくわくしながら商品の並ぶ棚に目を向けると、小瓶にたっぷりとキャンディが詰まっている。
「うわあ、すごく綺麗。宝石みたいだね、ルピカ」
「確かに、宝石みたいに綺麗ですね」
そのため、お土産やプレゼントとしても人気が高い。
シーラはその中から何個か選び、購入した。綺麗にラッピングをしてもらったので、思わず開けるのがもったいないと思ってしまったほどだ。
シーラが大切そうに持っているのを見て、ルピカは問いかける。
「王都は気に入りましたか?」
「とっても!」
菓子店を出て、シーラとルピカは王都を歩く。
屋台で食べ物を買ったり、雑貨屋で小物を見たり、女性に人気のカフェで休憩したり。昨日のレティアとの一件を吹き飛ばすくらい楽しんだ。
「やっぱり王都ってすごい。はあ、みんなも村に引きこもらず、旅すればいいのに」
「住んでいるところから離れるのは、とても大変ですからね。でも、できることならばシーラの村の皆さんにも見ていただきたいですし、わたくしはシーラの村に行ってみたいです」
「そう? でも、私の村はなにもないからつまらないよ~」
ルピカの屋敷に戻り、シーラは今日楽しかったことを話す。けれど、ルピカからしてみれば王都よりもシーラの村の方がずっとずっと興味深い。
いつか行ってみたいけれど、一人で行くには道中が危険すぎる。いつかシーラと一緒に行けたらいいなと思う。
「そうだ、明日は王城に行きます。マリアたちと、精霊のことを話しましょう」
「うん」
明日であれば、マリアもある程度の情報を整理しているだろうとルピカは考えた。
レティアのことも話をしておきたいし、シーラが王城内で勝手に歩くと何があるかわからない。けれど、明日であれば予定もないのでずっと行動をともにできる。
「早く精霊を助け出してあげたいね」
「そうですね。わたくしも、たくさん精霊と話をしたいです。……人間のことを嫌っている様子なので、少し不安ですけれど」
「大丈夫、話せばわかってくれるよ」
精霊はみんないい子だからと、シーラは笑った。