21:祝賀パーティー
時間になり、魔王討伐の祝賀パーティーが開催された。
天井にあるきらびやかなシャンデリアが室内を照らし、女性たちが付けている宝石を輝かせている。楽しそうに歓談する人々、ダンスを行う人と様々だ。
パーティーに、シーラは淡い水色のドレスを着て参加している。
「うわぁ、これがパーティー」
確かに、マリアが言っていた通り美味しそうな料理が並んでいた。楽しそうな雰囲気は伝わってくるのだが、いかんせん人が多いため緊張してしまう。
気慣れない服だけでも大変なのに、とても多くの人が会場にいるからそわそわしてしまうのだ。まだ、人が多いところには慣れない。
ルピカは大勢の貴族に囲まれて、笑顔で対応している。アルフは婚約者となる予定の第二王女をエスコートしなければいけないため、まだ会場には来ていない。
マリアも偉そうな男性と何やら話をしているので、シーラは完全にぼっちだ。
――うぅ、どうしよう。
立食形式のパーティーなので、とりあえずご飯を食べドリンクを飲み大人しく過ごしている。知り合いもいないし、誰もかれもがお上品なのでなかなか話しかけにくい。
「でも、ご馳走はすっごく美味しい……!」
特に、チーズの載ったハンバーグがシーラのお気に入りだ。たっぷり肉汁が溢れて、うま味が凝縮されている。
何個でも食べられるなんて思いながらも、シーラは三個目に口を付ける。やっぱり美味しくてとろけそうな顔をしていると、「いい食べっぷりね」なんて笑い声が耳に入る。
「え?」
「楽しんでいらして? シーラ様」
「レティアさん……」
声のした方を向くと、シャンパングラスを持ったレティアが立っていた。綺麗な白とロイヤルブルーを使ったハイウェストの上品なドレスで身を包んでいる。
先ほどまで白衣を着ていたとは、とても思えなかった。
「パーティーは楽しくて?」
「え? えっと、こういったところは初めてなので……」
よくわからないと言うのが正直なところだ。一人でいるのもなんだか気まずいし、かといって誰かに話しかけたいとも思わない。
なぜなら都会は怖いからだ。
ただ、そのせいでレティアに目を付けられてしまったのはマイナスだろうか。
「初々しくて可愛い。パルもそう思うでしょう?」
『わぷっ』
レティアが名前を呼ぶと、パルが姿を見せる。その口はもぐもぐしていて、ご飯を食べているのだということがすぐにわかった。
パルは嬉しそうにシーラへ飛びついて、満足そうに『けぷっ』と可愛らしく息をはく。
その様子を見て、レティアとシーラは二人で笑う。
「この子ってば、食いしん坊なの」
「パル、美味しかった? 料理ばっかり食べて、私みたい」
「シーラ様もたくさん召し上がってくださいませ。ここの料理は、どれも美味でしてよ?」
「もういっぱい食べました。どれも食べたことがなかったから、美味しくて食べすぎちゃったくらいです」
運動しないとやばいかもしれない、なんてシーラは笑う。
「でしたら、少し庭園を歩きませんか?」
「え、でも……」
レティアからの誘いに、シーラは焦る。マリアたちから、レティアとは関わらないようにと言われているのだ。
パーティー会場にいる分ならいいかもしれないが、二人でどこか……というのは、さすがによくないとシーラだってわかる。
「そんなに警戒しなくて大丈夫よ? ほら、パルも一緒ですもの」
『わぷぅ~』
安全だよと告げるように、パルがシーラにすり寄る。もふもふの毛が頬に触れて、パルがいるならいいのかな? なんて考えてしまう。
「でも、マリアさんに怒られちゃうので……」
「……精霊のこと、知りたいのでしょう?」
「――っ!」
やっぱり無理だと断ったのに、レティアはシーラの胸にとんと人差し指を当てて微笑む。情報を知りたいのでしょう? そう囁く声に、頷いてしまった。
シーラは誰よりも、精霊のことを助け出したいと思っていたからだ。
レティアが案内をしてくれたのは、パーティー会場のすぐ横にある庭園だった。
庭園は淡い色合いの薔薇が咲いていて、落ち着ける空間ができあがっている。休めるようにとベンチも用意されており、会場との出入り口も開いたままだ。
パーティーを抜け出した男女がベンチで雑談をしていたり、思ったよりも人目がある場所でシーラはほっとする。
「この城の庭園はどこも素敵でしょう?」
「はい。こんな綺麗に手入れがされている場所は、初めてです」
レティアの問いかけに、シーラは素直に頷く。もし精霊たちがいたのならば、楽しそうにはしゃいでいるのだろうと思う。
歩き始めようとすると、会場から拍手の音が聞こえてきた。
『わぷ?』
「アルフ様が入場されたのでしょう。ああ、ほら……ここから見えるわ」
なんだなんだと興味を示すパルを見て、レティアは会場と繋がっている出入り口のところへ行く。シーラもそこから中を覗くと、盛装したアルフと可愛らしい女性がいた。
「あ、もしかして婚約した王女様?」
「そうよ。この国の第二王女、アルフ様のことが大好きで仕方がなくて、父である国王に間を取り持つようにお願いしたのよ」
ダンスを始めたアルフと第二王女を見て、シーラは不思議な気持ちになる。にこやかに笑っている二人は、ぱっと見れば相思相愛に見えてしまうからだ。
――アルフさんは、結婚せず田舎に帰りたいって言っていたけど……。
「この国の貴族たちはみな、権力があれば何でも手に入れることができると思っているのよ」
「え……?」
「あの王女も、無理やりアルフ様を手に入れてしまったでしょう?」
「でも、ルピカやマリアさんは私に優しくしてくれましたよ」
だから、全員ではないと思いますとシーラは告げる。
「もしかしたら、精霊さえも権力で手に入れてしまったのかもしれないですわね」
「精霊……?」
レティアの告げた言葉に、シーラはアルフから視線をずらしてレティアを見る。
「あの、どういうことですか?」
シーラはまっすぐ、レティアの瞳を見る。けれどそれはすぐに閉じられてしまい、シーラから逸らされる。
「シーラ様、お散歩をしましょう?」
そう言って、レティアは楽しそうに微笑んだ。
庭園をゆっくり進んでいくと、薔薇園は大きな噴水のある植物園へと姿を変えた。
「この王城は、とても豊かに庭園を造っているのよ」
「そうですね……どこも、美しいです」
「設計にはわたくしも関わっているから、そう言っていただけるのはとっても嬉しいわ」
パルがはしゃぐように噴水の周りを駆けて、自分も気に入っていることをシーラにアピールする。
「レティアさんが考えたってことですか? ……あ、レティア様の方がいいですか?」
自分ばかり様を付けられていることに違和感を覚え、シーラは慌ててレティア様と呼ぶ。けれど、当の本人は楽しそうに笑うばかりで首を振る。
「わたくしのことは気にしないで、そのままで」
「そうですか?」
「不慣れなものを、強制したりしないわ」
『わぷ!』
「ほら、パルもそうしなさいって言っているわ」
「なら、お言葉に甘えて」
先ほどとは打って変わり、穏やかなレティアに笑みを返す。だから、きっとシーラは油断してしまったのだろう。
気付けば、紅茶でも……という誘いに乗りレティアの研究棟に来てしまった。