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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
15/59

14:今後の方針を決めました

 宿の部屋に戻ると、ルピカとマリアは武器屋でのことにショックを受けて項垂れた。まさか、自分たち人間が精霊を苦しめているなんて思ってもいなかったのだ。

 そして、それが本当であれば解決しなければならない。


 作戦会議だと、全員でアルフの部屋に集まった。


 アルフとクラースにも精霊のことを説明すると、ひどく驚き「絶滅したんじゃないのか?」と叫んだ。

 クラースは腕を組みながらも、考え込む。


「でも人間が精霊から魔力を奪っている? そんなことが、あり得るのか?」

「わたくしだって、考えたくはない。けれど、精霊がそう告げたのよ。嘘をつくとは、思えないもの」


マリアの告げる言葉に、全員が確かにと頷く。

 続いて、ルピカが手を上げ今後のことについて提案をする。


「わたくしは、原因を突き止めるために旅を続けようと思います。シーラさん、わたくしも旅にご一緒していいですか……?」


 どうにか打開できないか考えるマリアと、手掛かりを探すためシーラの旅へ同行するのだと言うルピカ。二人ともが精霊のことを大事にしており、行動しようとしている。


「もちろんいいよ! でも、私も何か心当たりがあるわけじゃないよ?」

「ありがとうございます。主な情報は、王都を中心にしてマリアが集めてくれます。わたくしは、自分の足で調べたいんです」

「そういうことなら」


 一人で旅を続けようと思っていたが、ルピカとの二人旅になった。

 マリアも一緒に行きたそうにこちらを見てはいるけれど、すぐに動くことはできないため、王都でサポートをするとしぶしぶ告げる。

 そして残る、男二人――アルフとクラース。


「もちろん、僕も行くよ!」

「俺は嫌だぞ。魔王討伐について行くっていうだけの約束だったからな」


 二人の意見が正反対に重なった。


「クラース、精霊の危機になんてことを言うんだ。精霊だよ、精霊! 憧れるだろう?」

「ねーわ、憧れなんて! あのなぁアルフ、俺だっていろいろやることがあるんだよ!」

「……わかった。魔王を倒すまでの約束だったからな……」


 肩を落とすアルフに、クラースはため息をつく。

 二人のやり取りを見たシーラは訳がわからず、いったい何があるのだろうと隣にすわっているルピカへ視線を向ける。


「ああ、シーラさんは知らないですよね。クラースは元々、盗賊なんですよ。私たちを襲ってきて、それをアルフが返り討ちにしたんです」

「へ、へぇ……」


 くすりと笑い、ルピカは「仲間を見逃す代わりに、クラースが力を貸してくれることになったんです」と続けた。

 仲のいいパーティだと思っていたのに、そんな理由があるとは思ってもみなかった。世の中はわからないものだなとシーラは苦笑する。

 そしてやはり、お伽噺の主人公である勇者は圧倒的な実力を持っているのだなと思った。


 精霊を助けるために意欲を燃やしているアルフを見て、マリアが口を開く。


「アルフも難しいと思うわ」

「え、僕も?」

「あなたは勇者なのだから。一度王都へ行けば、そう簡単に出られないわ。……それに、ことの原因がわたくしたち人間だということも気になるわ。アルフが動くと、目立つもの」


 今は様子を見た方がいいかもしれないと、マリアが告げる。


「本当に人間の黒幕がいるのだとしたら……そう考えると、ぞっとするわ。アルフはわたくしと一緒に、王都で情報収集をしてもらえないかしら」

「……そうだね、わかった。しばらくは様子を見るよ」

「ええ」


 ひとまず話がまとまり、一息つく。


「ただ、なんの手がかりもないのが辛いですね。ここで別れるか、それとも全員で一度王都に行った方がいいでしょうか?」

「自体がどれほど深刻かはわからないけれど、この状況に陥ったのはずっと昔でしょう。そう考えると、まずは王都で体制を整えるのがいいかもしれないわね」


 ルピカとマリアが王都行きを決めたのを見て、すぐにシーラが手を上げる。


「王都! 私、行きたい!!」

「もちろん、歓迎するわ」


 マリアは了承し、それならばと追加で提案をする。


「精霊の研究をしている人物を紹介するわ。もしかしたら、何かの手がかりくらいは聞けるかもしれない」

「そういえば、精霊を研究している研究棟がありましたね。精霊研究はあまり目立ってはいませんでしたけれど、何か成果はあるんですか?」


 王都、王城の敷地内に精霊を研究している施設は存在する。しかし、絶滅したとされている精霊の研究なので、あまり人々から興味を盛られていないのだ。

 今までに、驚くような研究結果を発表したりすることもなかった。


「成果なんて、ないわ。でも、手掛かりくらいはあるかもしれないでしょう?」

「そうですね……何か情報があれば、十分ですね」


 絶滅したとされている精霊を研究している人間は、多くはない。しかも、変わった人間が多いため新しく研究を開始する人間も少ないのだ。

 とんとん拍子で話を進める二人を見て、シーラは頼もしいなと思う。


「ありがとう、みんな。私一人じゃ、こんなすぐにどうすればいいかわからなかった」


 むしろ、何も考えず旅を続けていた可能性もかなり高い。

 シーラは改めて、笑顔でお礼を言う。


「いいのよ。もしこの世界に、いいえ……この地域に異変があるのなら、わたくしもしっかり把握しておきたいもの」

「そうだよ。僕も精霊に会いたいからね」


 気にせず大船に乗ったつもりでいればいいよと、アルフが笑った。そして次に、興味津々といった表情でシーラを見つめる。


「でも、マリアとルピカは精霊に会ったんだろう? いいなあ、羨ましい。僕も会いたいけど、もう無理なの?」

「え? うーん、魔力が持たなくて、姿を維持できないっていうから……召喚して、力を使わせることになるのは可哀相かも」

「それもそうだね、ごめん」


 アルフに会わせてあげたい気持ちはもちろんあるが、精霊の状況がどうなっているかわからないので、むやみやららに召喚するのはよくないだろう。

 それなら、精霊に会うために頑張らないととアルフが笑う。


「とりあえず、話はこれで決まりね。今日は休んで、明日から急いで王都へ向かいましょう」

「わかりました」


 マリアの言葉で解散になると、ルピカは立ち上がりシーラの手を取る。


「わたくしとシーラが同室、ここはアルフとクラース。マリアは一番奥の部屋を手配しているので、そちらを使ってください」

「え、わたくしだけ一人なの?」

「そうです。というか、マリアはいつも一人じゃないですか」


 他人と一緒に眠るのは嫌いでしょう? と、ルピカがマリアを見る。


「この前はみんな一人部屋だったじゃない。ルピカだけシーラと一緒なんてずるいわ」

「部屋の都合ですから」


 仲間外れにしないでと、マリアがむくれる。

 しかしルピカはそれを気にすることなく、シーラの手をとってドアへ向かう。


「それじゃあ、明日は早いからおやすみなさい」


 そう告げ、ルピカはシーラとともに部屋を出ていった。




 ◇ ◇ ◇



 就寝の支度を済ませ、二つ用意されたベッドにそれぞれ潜り込む。

 明かりを落としているため暗いが、相手が起きているかくらいは気配でわかる。シーラは小さな声で、ルピカの名前を呼ぶ。


「……どうかしましたか?」

「その、マリアさん……よかったんですか? 一緒の部屋じゃなくて」

「ああ、そのことですか? 大丈夫ですよ。マリアもああは言っていますけど、いろいろ考えることもあると思いますから、一人部屋の方が落ち着くんです」


 気にしなくていいですよと、ルピカが告げる。


「それより、シーラさん」

「はい?」

「旅へ同行することを許可していただいて、ありがとうございます」


 嬉しそうに告げるルピカに、「私こそ」とシーラも笑みを返す。


「それで、その……」

「?」


 言い難そうなルピカの声。


 そして、ベッドがきしむ音を立てる。ルピカが起き上がって、ベッドから出たのだということがすぐにわかった。

 シーラはどうしたのだろうと、上半身だけを起こしてルピカの方を見る。


「ルピカさん?」

「あの、その、えっと……」


 少し赤くなっているルピカの頬。

 照れるようなそのしぐさに、シーラは首を傾げる。


「もし、よければ、なんですが……。シーラと、お呼びしてもいいですか? わたくしのことも、ルピカと呼んでいただけると嬉しいです」


 その申し出に、シーラはぱあっと表情を明るませて笑顔になる。ずっとさんを付けて呼んでいたため、仲良くしているのにどこか距離があると思っていたのだ。


「もちろん、ルピカ!」

「ありがとう、シーラ」


 もっと仲良くなりたかったんですと、ルピカが照れながら告げる。シーラも仲良くできたら嬉しいと思っていたので、その言葉にうんうんと頷く。


「あ、あの! 一緒に寝てもいいですか?」

「うん!」

「こうやって誰かと一緒に寝たのは、初めてです。シーラみたいな友達は、今までいたことがなかったので……」

「私でいいなら、いつでも大歓迎だよ」


 ルピカがシーラの布団に潜り込み、一緒に横になる。


「ありがとうございます。精霊のことも、一生懸命原因を突き止めましょう」

「うん。早く精霊みんなが自由になれるといいね」

「わたくしも、たくさんの精霊に会ってみたいです」


 精霊に会うのは、小さなころの夢だったのだとルピカが照れながら告げる。


「とっても素敵な夢だよ! 落ち着いたら、ルピカの召喚石の欠片も探そうね」

「え? わたくしも持てるんですか?」

「もちろん」


 シーラの言葉に、ルピカはぶわっと体が熱くなるのを感じだ。自分とは一生無縁だろうと思っていた、伝説の存在になっている精霊の力を使えるようになると告げられたのだから。


「……ドキドキして、ねむれそうにありません」

「おおげさだなぁ」


 これからの旅が、もっと楽しくなりそうだと考えながら二人は眠りについた。

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