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エリクサーの泉の水を飲んで育った村人  作者: ぷにちゃん
第一章 世界のはじっこからの旅立ち
12/59

11:いつか会わせてあげたいなぁ

 役人に教えてもらった場所は、動物や魔物のちょっとした休憩スポットになっていた。ひっそり木々と岩に囲まれて、その間から綺麗な水が湧いている。

 スライムがや野ウサギが休んでいたが、シーラの姿を見てすぐさま逃げ出してしまった。


「別に倒したりしないのに」


 でもまぁ、人を見たら逃げるのが吉というのは間違ってはいない。

 特にスライムは、駆け出しの冒険者が練習相手にする魔物としてもってこいだ。のん気に水を飲んでいて倒されてしまっては、たまったものではない。


「さてっと、綺麗な湧水だけど……ウィンディーネか眷属はいるのかな?」


 きょろきょろ辺りを見回してみるけれど、それらしい姿はない。

 ここまで安定した自然があるのに、精霊がいないのは不思議だ。どうしてだろうと首を傾げてみるけれど、残念ながらその答えはわからない。


 ――変だなぁ。


 精霊は絶滅した、なんて。

 そんなことあるはずがないのに。


「精霊魔法が使えるのに、精霊がいないわけはない。何かがおかしいのかな……?」


 さすがに、精霊魔法が使えなくなったら絶滅した可能性はあるけれど。

 どうしようかなぁと悩みつつ、シーラは精霊に直接聞いてみることにした。それぞれの精霊と契約しているため、シーラは直接召喚することができるのだ。


 ネックレスにしてある、水の召喚石。

 それに指先で触れ、シーラは静かに、けれど力強い声で彼女を呼ぶ。


「ここへ来て、【ウィンディーネ】!」

『――シーラ』

「ああ、よかった。ちゃんと呼べた」


 シーラの前に姿を現したのは、水の精霊ウィンディーネ。

 長い髪に、透き通った肌。誰もが美しいと称賛する精霊は、澄んだ瞳でシーラを見て――けれどすぐに、その姿をかき消した。


「えっ!?」


 たった今そこにいたはずのウィンディーネが、もういない。驚いて目を見開くが、すぐにいったいどういうことだと考える。

 今まで、こんな風に精霊が消えるようなことはなかった。


「精霊が姿を維持するための力が、足りない?」


 こてりと、首を傾げる。

 自分の村周辺ではそんなことはなかったけれど、こちらの方の地域は特殊なのかもしれない。

 精霊魔法の威力が弱くなってしまうのは辛いけれど、別に戦いをするための旅ではないからいいだろう。もちろん、魔物に遭遇してしまう可能性を考えると威力が強いにこしたことはないけれど。


「ああでも、精霊を呼べないと薬草を探すのが大変じゃん……」


 シーラはいつも、精霊たちに薬草の採取などを手伝ってもらっていた。今後は薬草がお金になるのだから、もっと採取しておきたかったのだけれども……仕方がない。自力で探そう。

 とりあえず、今はまだお金があるのでいいやとシーラは軽く考えた。




 ◇ ◇ ◇



 宿に戻ると、ルピカたちはすでに帰っていた。

 というか。


「シーラさん! こんな遅い時間まで、どこに行っていたんですか!」

「ご、ごめんなさい……」


 シーラは心配しましたと告げるルピカに抱きしめられる。

 それもそのはず。出かけたときはまだ明るかったけれど、村の外の湧水を見にいったため予想以上に時間が経ってしまっていたのだ。帰り少し道に迷ったのは、内緒にする。


 そんなルピカを落ち着かせるように、クラースが口を開く。


「まぁまぁ、無事だったんだからいいじゃねーか! 飯にしようぜ」

「クラースはマイペースなんだから……」


 宿屋の一階に併設されている食堂へ行き、全員で夕飯を食べる。

 クラースが一人でがぶがぶ水のようにエールを飲むのを見て、シーラはどこも大人は一緒なんだな……と苦笑する。


 たわいのない雑談をしながら、そういえばとシーラは精霊のことを聞いてみることにした。

 一般人が知らなくとも、勇者や聖女であれば何か知っている可能性は高い。ルピカも、この辺りではかなり力のある魔法使いだと聞いている。


「村の人に聞いたんですけど、ちょっと気になることがあって」

「何かありましたか?」

「精霊が絶滅した……って言うんです」

「ああ、精霊ですか。遥か昔はいたと聞いていますが、今はそのような話は聞きませんね。精霊魔法なんていう伝説のような魔法があったと聞きますが、今は文献もほとんどありませんよ」


 お伽噺の本の中ではよく出てきますけどねと、ルピカが笑う。


「んんん?」


 ――つまり、やっぱりこの辺に精霊はいないっていうこと?


 シーラが首を傾げると、マリアとアルフもルピカの意見に同意する。


「わたくしも、精霊に会ったことはありませんわ。多くの魔法使いや研究者に会いましたが、精霊魔法を研究している人物はいても――実際に使える人間や精霊に会った人はいません」

「僕も見たことはないね」

「シーラさんは、精霊に会いたいんですか?」

「え?」


 ルピカの問いかけに、シーラはきょとりとする。

 子供は、絵本などの影響からか、ほとんどの子供が一度は精霊に会いたいと言うものなのだ。もちろん、それはルピカやマリアだって例外ではない。

 精霊に会いたいか会いたくないかで言えば、もちろん会いたいに決まっている。おそらく村に戻れば精霊たちとは普通に会えるだろうけれど――しばらく村に帰る予定はない。


 とりあえず、肯定の意味としてシーラは頷く。


「確かに、精霊に会えたらきっと素敵でしょうね」

「そうだね。僕も会ってみたいな」


 マリアとアルフがそう言って、いっそこのまま精霊探しの旅に出たいなんて冗談のように言う。


「こら、マリア。そんなことをしたら、多くの人に迷惑がかかるわ」

「わかってるわ、ルピカ。でも、精霊なんて……一度くらい、見てみたいじゃない」

「それは、わたくしだって。でも、もう存在しないのよ?」


 夢を見る少女のように、うっとりした表情でマリアが告げる。

 それとは逆に、ルピカがそんな暇はないのだと言う。会いたい気持ちはあるが、現実的に精霊探しをしている余裕はない。


 そんなことを話す二人を見て、シーラもぜひ精霊に会ってほしいと思う。


 ――私が召喚できたら、精霊に会わせてあげられたのになぁ。


 残念。

 そう思いながら、シーラはデザートのフルーツを口に含んだのだった。

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